第28話 一年の計は元旦にあり
「一年の計は元旦にあり」
そんな祖母の言葉を聞き、蘭の自宅に朝から押しかけた俺。
だが英二さんは、親指を立てて褒めてくれた。
そう。株主として会社にもっと関わって行かなければ…。
たった一人、杏子ママが取締役として、そして仕入れ担当として、社員として働いている。
あとは全員、アルバイトだからだ。
神田弁護士が紹介してくれた秘書役の日系人の人が話し相手にはなってくれているが、家事もあり、夕刻には帰ってしまう。
「もし杏子ママが倒れたら、あの会社はつぶれちゃうよ」
「私も神田さんが教えてくれなかったら、ママの苦労は全く知らないままだったわ」
とにかく、会社組織の立て直しをしようという事になり、戦略的思考という本の受け売りではあるが、考えている事を蘭と共有しようと思った。
「まず、会社組織で言えば、経営層。ここには社長、取締役、執行役人がいるけど、今は杏子ママと俺たちだけ。これはいいよね?」
「うん、この階層の人員を増やすつもりは無いわ」
「次が部長、予算を計画したり、割り振ったりする所だね」
「ここも杏子ママが1人でやってるわね」
「次は課長、CMやプレゼン、目標達成のための営業って所かな…この管理者層に人がほしい」
「……」
「次は係長、ハードワークの部分だね。商品発送、入出荷、在庫チェック、返品検査」
「ここにたくさんのアルバイトがいて、処理能力が足りないから手抜きする事になったんだね」
「そうそう。だから、ECサイトからのデータを見て手書きで伝票を書いて宅配に出してる今のシステムを、もっと自動化しないといけないんだけど、まだ集約した倉庫の荷物も整理できていないって言ってたから、自動化と言っても無理なんじゃない?」
「そこは、なんとかなるかも…もうちょっと待ってね」
「わかった。じゃ~そこはあきらの担当ね」
「平社員、ここはスキルの世界だね。処理能力の高い職人がほしいな」
この日は、俺と蘭が初めて真剣に会社の現状を共有した日になった。
実は、倉庫にはAmazonのように、中量棚をいっぱい入れて、棚番を振って、データベースで入出庫するシステムを導入したいと思い、ブリスベンの大学に留学中の日本人学生に、広告を打っていたのだ。
オーストラリアは日本よりも物価が高く、生活は厳しいし、学生には労働ビザがなくて、アルバイトしかできない。
でも、単純労働は人気が無いが、これが『部長クラスの経営戦略の企画・立案と実施』と言えば、結構、応募は来ていた。
オーストラリアで使っているWindows PCアプリは全て英語版で、在庫管理ソフトも含めて様々な汎用ソフトであふれている。
だから、ECサイトから送られてくる注文品のバーコードで、倉庫の棚番と照合して、出荷伝票を組めば、そのまま箱詰めまでは簡単に処理できるはず。
そんなこんなで、さまざまなアイデアを具体的な形にしてもらう、頭脳労働のアルバイト。
つまり、労働時間に制約もあるから、3人で部長職のミッションを達成してもらおうという狙いだ。
説明が難しいので、Skypeでの面接を蘭にお願いした。
面接の際には、90%を持つ株主(member)である事を説明した上で、面接するように言っておいた。
欧米では、相手がどういう立場なのかによって、態度が一変するからだ。
だから俺も、保有%など触れずに、株主(member)として、一次面接を通過した人、つまり蘭のフィルターを通った人に対して部長職としての面接をした。
結果的にSkypeでの面接を実施して、3人の大学生を部長職のアルバイトとして採用した。
神田弁護士によると、部長クラスのアルバイトが来てから、秘書役の日系人の人から、同じく留学生のアルバイトを採用してはどうか、と打診が来たらしい。
神田弁護士から、今、組織改革をやっているのかと聞かれたので、人員の強化として留学生アルバイトを管理職クラスとして採用している旨を説明した。
もちろん、卒業後も残ってくれるなら社員として採用する用意はあるとも言ってある。
決して、管理職採用詐欺ではない。
それから、秘書役の女性を同じく留学生から募集した。
MBA留学生を優遇採用すると言ってある。
実際にはMBA資格は国家資格などではなく、大学院の学位であって、卒業したからと言って経営者として有能という訳ではない。
それは早稲田大学ビジネススクール(WBS)が、実務経験3年以上を入学条件としている事でも分かる通り、働いた経験がないまま取得できるスキルではないからだ。
だとしたら、彼らにとって経営に参画するチャンスであり、こちらは実務を担当してもらえて、Win-Winの関係が成立する。
おっと、早速面接依頼が杏子ママから来た。
リックトレードの事務所と俺のノートPC間で、いつものSkype面接…
「えっと、秘書役(Secretary)に応募の江副です」
「株主(member)の石山です」
「えっと、本当に中学生なんですか?」
どうやら杏子ママから、俺が中学生という事を聞いたようだ。
画面には写っていないが、後ろの方から、部長職アルバイト?たちの声も聞こえる。
「株主が中学生だと、不安ですか?」
「いえ、そういう訳ではないですけど…」
「そうですか…ちょうど部長職アルバイトの方たちもおられるようなので、一緒に話を聞いてください。このリックトレードという会社は、創業者のリックさんの跡を継いで、奥様の有本杏子取締役が経営を、そして娘である有本蘭が株主として経営に参画しています。」
ここまでの話は全員が理解しているようであった。
「そして今回、資本増強として私が株主として新たに加わり、運営体制の強化策として皆さんを募集したわけです。ここまではいいですか?」
「はい」
「本業の倉庫業は、シドニー倉庫、ブリスベン倉庫の2棟ともに管理者2名の体制で長年運用されていて、特に問題もありませんが、空き空間を利用した日本製品の輸入、卸業が皆さんの担当になります」
「はい」
「目の届かないシドニー倉庫での商品保管をやめて、ブリスベン倉庫での一括管理と、商品ラインナップ更新、営業活動などを含め、売上目標→販売促進策→在庫調整などの課題解決に尽力してほしいのです。現状の単純作業者の管理は今まで通り、杏子取締役が行います」
このような感じで、ディスカッションを行った。
「え~と、あの~ 私でも勤まるでしょうか?」
「いや、中学生に聞かないでくれます?」
「ははは…」
後ろの部長職アルバイトたちも、笑っているが、もちろん軽い冗談のつもりだ。
「江副さんは、杏子ママ…有本取締役の秘書という事で、相談相手になって頂ければいいです。事業に関する部分は、部長たちと連携して、まずは在庫調査から始めてください」
「了解しました」
「のんびりと仕事に取り組むオースラリア人感覚では、ビジネスではあり得ないミスが放置されている可能性がありますから、そこから手を付けてほしいんです」
なぜ、日本人留学生を選んでいるのか?という意図は理解されたと思う。




