第27話 株主の自覚
11月になり、動画作成は終わったが、水曜と土曜日の研修会が実際に行われ、退職した情報課の講師の代わりを蘭が勤めていた。
英語科はともかく、これまで知らなかった国語科や社会科の講師たちは、なぜ君達が臨時指導教諭?と聞いてきたが『このアプリケーション動画を作ったからです』と説明した。
中等部の講師たちの自己研鑽研修会が2週4回で終了して、俺と蘭の臨時指導教諭は登録が抹消された。
11月25日、蘭の誕生日会が自宅でささやかに行われた。
参加者はお爺さんと、蘭と、俺だけだった。
小さい頃から、いつも杏子ママとふたりの誕生日会だったし、その静かな誕生日会が好きだったと蘭は言う。
「俺と知り合わなかったら、お爺さんとふたりだったのか~」
「石山君、君から『お爺さん』と言われると、年齢での呼称だという事になる。お店以外では『英二さん』と呼んでもらえるかな?」
「はい、失礼しました」
蘭は、誕生日会では、生まれた1ヶ月後に亡くなった父の事を思うらしい。
赤ちゃんの自分を見て、笑顔を見せる写真のリック・ターナー。
そして杏子ママ。
マンションに帰った俺に、祖母はいつでもやさしい。
気にしたら負けだと口では言うが、いつでも俺の食事を、あっという間に用意してくれる。
それは、冷蔵庫にいつも料理の具材を準備してあるからだ。
帰って来ない日が多い父に慣れた祖母は、趣味の日本舞踊なども楽しんでいる。
俺も祖母のように、自分の事も他の人の事も同時に大切にできるようになりたいと思う。
内閣が変わり、円高が解消されてきて、株価が15000円を超えて来た。
どこまで伸びるか分からないが、一旦売りに出して、利益を確定しておく事にした。
12月に入った。
俺と蘭は、期末テストに向けた復習に切り替えた。
英語は教材作りをしていたため、ほとんどが頭に入っている。
教科書とワークプリントを中心に復習をして、参考書の実力問題にも取り組む。
理科や数学は問題数をこなすのがポイントらしい。
俺はこのあと、英語塾か道場に行くので、蘭はひとりだが
「1組で一緒に勉強がしたい」
といつも言うことにしている。
期末テストが始まった。
学園の講師たちと関わった事で、大人たちに対する考えも大きく変わったと思う。
俺たちと変わらない悩みを持つ講師もいるし、相変わらず偉そうな講師もいる。
向上心のある講師もいるし、尊敬できる講師もいる。
英語、国語、社会の講師たちに対する壁は、もうない。
色眼鏡で見ることがなくなったと言うべきか。
冷静に試験を解いている。
ちょうど1年前、寺務所の窓から見た星たちは、この東京では見る事はできない。
蘭のお父さんを、天の川に発見することもできない。
でも、蘭と俺は祖母の仏壇の前で、一緒に手を合わせて祈っていた。
冬休みに入った。
相変わらず、俺の口座に父からの振込はあるのだが、今回は父がマンションにやって来た。今日はこちらに泊まるのだそうだ。
久しぶりに、祖母の夕食を3人で食べて、父が話す。
どうやら学園の保護者会に参加して理事長や教務主任から褒められたそうだ。
本当は、参加したんじゃなくて、呼び出されたに違いない。
祖母もそんな話を聞き、うれしそうにしている。
少しでも親孝行になっているなら、俺も本当にうれしい。
「ところで、蘭さんの事、少しは分かってきたのか?」
「うん、それなんだけど、未だに全く分からない」
「ははは。そうか…」
「うまく言えないけど、最初はお互いにひとりだったから友達になったんだ。一緒に登校して、一緒に下校して、少し話をして…それでうれしかった」
「今は、時々手をつないでるんだ。俺からも、蘭からも。お互いに手をつなぎたかったんだと分かって安心する気持ち?」
「あ~なるほど…それはそれでいいかもな」
「うん、心配かけてごめんな。でも昔みたいにひとりじゃないから。ありがとう、父さん」
元旦は、お爺さんと蘭と俺の3人で、初詣に行く事になった。
うちの祖母は、友人と。
うちの父は新しい家族と。
新年の2日、蘭の自宅に朝から来ている。
「俺もリックトレード貿易会社の株主になったし、会社の事を考えようと思う」
「うん」
「オーストラリアには中国製品があふれてる。最初はそれでも良かったけど、すぐに壊れる品質に満足できない人に、日本製の良さを知るリックさんが製品を輸入して、販売しようと考えて、ECサイトの業者に卸し始めたんだよね」
「そうそう」
「マイクが会社の取締役に変わっても、彼も日本製品は好きだったから、基本的に問題は無かったけど、日本のどんな製品を売ればいいかまでは分からないから、杏子ママに仕入れをお願いしたんだよね?」
「そうそう」
「今はどこの世界でも、親と子供のほしい物は違うし、意見も合わないけど、同じ年代の人の価値観は大体同じだから、たまごっちが日本で流行すると、あっという間に世界に広まるんだ」
「そうだね」
「だから、今みたいに、オーストラリアのお客さんに欲しい物アンケートを取るだけじゃなくて、日本で流行ってる物を現地に送り込んで売るんだよ。他よりも早く」
「どうやって?」
「俺、いつもコンビニで流行を探ってるだろう?コンビニの商品は、売れなくなったらすぐに棚から消えるんだ」
「あ~それを参考として、杏子ママに情報というかデータを渡せばいいんだね?」
「いや、サンプルを送った方がいいんじゃないか?どうせなら、100個単位のオーダーなら単価はいくらか、業者の見積もりも取って。業者が乗り気ならサンプルはくれるんじゃないかな…」




