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孤独の人  作者: 神の恵み
現代編
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第26話 勝ち組とは


10月になった。

蘭と動画を作るのは、英語塾のない水曜日と土曜日で、最大1時間を限度にしている。

(道場の事は蘭には言っていない)


機材管理室の作業テーブルで動画作成をしていると、時々、機材の持ち出しや返却に情報課の講師がやってくるのだが、好意的な講師と悪意をもつ講師がいる事がわかる。


悪意とは、わざと段ボール箱を蹴飛ばして大きな音を立て、蘭の音声の録音にかぶせてくる行為の事だ。


もちろん、Audacityは音声波形を修正、カット&ペーストで簡単に編集できるので、さしたる実害もないのだが…。



10月半ば、下校途中の国道で、進路を妨害するようにワゴン車が停まり、スライドドアが開いた。


「蘭!」


蘭の手を取り、すぐ左の道路に走って逃げた。

そこには小さな川が流れていて、4m道路はT字型になっている。

戻るか進むか。


右に走りながら先を見ると、川に掛かる橋が工事中で閉鎖されていた。

そこに、見た事のある男が飛び出て来た。

運動部、保健体育課の脳筋講師だ。


そして後ろから追いついて来るのは、情報課の講師と見知らぬ男。


『ピーーーーーーーーーー』


蘭が持つ防犯ブザーだった。



すぐ右側のガラス戸が開いて、おじさんが出て来た。

蘭はすばやく、おじさんのうしろに隠れた。


「なんだ一体!」


とたんに、講師たちは逃げていった。



「ありがとうございました」


思い切り頭を下げ、直角になった姿勢から復帰した蘭に、おじさんはうんうんと頷いて


「ちょっと見て来てやる」


と言って、工事中の橋のところまで行って、男達がもういない事を確かめてくれた。




次の日、朝早くに理事長室に行って昨日の事を話し、昼休みに再度、打ち合わせをする事になった。


蘭と俺は売店でパンを買って、早めに理事長室に行くと、理事長は教務主任と保安課の人と3人でお弁当を食べていた。


「あ~ パンを買って来たのね。ここに座って食べて」


全員の食事が終わると、職員の履歴書が入ったクリアファイルが渡され、襲撃犯人を教えてほしいと言われた。


2人は知っているから早い。

情報課のクリアファイルから、いつもの人を見付ける。

そして運動部のクリアファイルから、保健体育科の脳筋講師を。

最後のひとりは、蘭が見付けた。

文化部、生徒会指導の講師であった。


そこで理事長が

「なるほど…どうせ否定するでしょうから、釣り上げましょうか…」



その後、理事長から『アプリケーション操作の動画』が出来上がり次第、講師には水曜日と土曜日に自己研鑽の教室を開く旨、発表があり、また、このための臨時指導教諭に石山章、助手に情報課のあの講師に辞令が出され、掲示板に貼りだされていた。



蘭はしばらく動画作成には参加せず、俺ひとりがおとりになって、作業をしている。


そして、早く日が沈む季節とも相まって、暗くなった帰り道に再びワゴン車が現れた。


学園の塀沿いを逃げる俺に、追いかける生徒会指導の講師。

そして、先回りしたワゴン車の運転をしていた情報課の男と、保健体育の脳筋講師が俺の進路上に出て来た時、俺はUターンして、生徒会指導の講師を投げ飛ばして、逃げる。



「くそ~」


道場通いの事を知らないから、まさか一瞬で投げられるとは思わなかっただろう。


そして、打ち合わせた予定の場所で、保安課の人が脳筋体育講師を確保し、俺は情報課の男を昏倒させて、今度は生徒会指導の男の腕を決めていた。




私立学校については、学校教育法の第14条が適用されないため、『設備、授業その他の事項について法令違反があっても、変更命令を発することはできない』


もちろん区の教育委員会の管轄外でもある。


理事長は3人に対し、誘拐未遂としての刑事告訴と引き換えに、その動機、指示した者がいたのかなどの事情聴取をおこなったうえで、自主退職処分とした。


蘭と俺の前で『これにて一件落着~』と訳の分からない決めのポーズを取っていた。


それから再び、俺と蘭の動画作成は細々と続いていた。




中間テストがあった。

この中間と期末の成績によって、席順が再び動く。

蘭も勉強方針を変更した結果が出ていた。



あれから、保安の人が俺に会釈をするようになった。

周囲の生徒達が驚くから、やめてほしい。



10月下旬。文化祭があった。


なぜか、学校紹介という壁新聞のようなものが3枚ほど貼られている中に、俺と蘭がふたりで登校する姿が写真で貼られていた。


まるで『こんな美形の生徒が通っています』とアピールしたいのだろうと清水は言うが、俺に言わせれば、サクラにしか見えない。


「モデルとしての料金はもらえないのかな?」


「蘭、お金の問題なのか?」


「だって、会社の運転資金が危ないって言ってたから…」


「それな、俺が新株を引き受けたから、今はいいだろう」


「そうだったの? ありがとう、あきら」


「なんか2人の話は次元が違ってて、理解ができないな~」


「あ~ 蘭のお母さんはオーストラリアの会社の取締役で、彼女は株主なのさ」


「え~~ お嬢様かよ…」


「で、俺はそこに投資をしたわけさ…」


「いったいいくら?」


「300万」


「……付いて行けんな~」


「清水、お前もいつかは清水金物店の取締役社長だろ?」


「えっと、そうなるのか? おやじに聞いてみよっと」


「きっと、お前の方が金持ちさ」



正直に言って、あの商店街の立地であの面積なら、いずれコンビニに転用する事も可能だろう。

役所にでも勤めて給料をもらいながら、地主として賃貸料をもらえれば勝ち組確定だ。


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