第24話 男女七歳にして席を同じゅうせず
7月中旬には、期末テストがあった。
この期末テストは、教科書やワークプリントからの出題がほとんどであった。
確かに実力問題が最後には出されてはいたが、難易度がそれほど高い訳ではなかった。
期末テストの最終日。
これで講師助手の仕事も終わりという事で、全コンテンツ使用期限付きの実行形式ファイルに出力した。
授業で使うのは、この実行形式EXEファイルだ。
プロジェクトファイルに編集、出力禁止を掛けて、設定変更のためのパスワードのメモを教務主任に渡した。
俺は、この作業用PCに、旧式PCから抜いた500GSSDを2つ流用して、1つには素材を、1つにはプロジェクトファイルをバックアップしてから、接続コネクターを抜いた。
どうせ、何かあった時には、修復作業や責任を押し付けられる可能性があるからだ。
さて、夏休みに入った。
林間学校があるらしいが、俺はいままで同様に、不参加だ。
神田弁護士事務所からの報告で、リックトレードのシドニー倉庫の在庫が合わない事やメルボルン倉庫も同様に、データが誤魔化され、粉飾決算されていた可能性が浮上している。
杏子ママの判断としては、外部倉庫は管理が行き届かないので、この際、整理したい意向のようだ。今後は株主配当を含め、報酬の見直しが必要になりそうとの事であった。
実はこの会社の販売先は、実店舗ではなく、ネット販売業者への卸なのだ。
返品された物品の検査を手抜きしてしまえば、在庫の数量だけは全て良品になり、利益は簡単に上がる。
全ての在庫品をブリスベン倉庫に集めて、徹底的にチェックしたうえで、良品、B級品、廃棄に分類しなければならない。
8月に入り、杏子ママの忙しさをよそに、蘭はプールに行きたいと言い出した。
彼女はゴールドコーストが近かったので、海での泳ぎやシュノーケルで遊んだりしたそうだが、淡水のプールで本当に遊べるのだろうか?
疑問はあるものの、「流れるプール」「波のプール」「ダイビングプール」ゴムボートで滑降するスライダーのあるプールへ行く事になった。
当日は、初めて蘭の水着姿を見られると、とても期待していたのだが、子供っぽい水着でがっかりした。
スカートみたいなひらひらが付いていて、注目点を見事に隠すデザインだった。
だが、それでもお尻は少し大きくなっていたし、胸も少し膨らんでいる事はわかる。
仕方がないな~と、中身が武士の中1生は、本物の大人のお姐さんの水着姿で不満を解消して過ごした。
そもそも俺のような根暗の人間には、はしゃぐプールには居場所がない。
飲食で多少の贅沢をして戻って来た時には、それなりに日焼けしていた。
なにせ日焼け止めを塗るという発想そのものが、欠落していたのだから仕方ない。
8月中旬になり、喫茶店で時々かき氷を食べては、頭痛を味わっている。
週2回、道場も英語塾もさぼっていない。
学園から携帯へ連絡が入り、俺だけが呼び出された。
教務主任と機材室に移動し
「今週はじめ、この作業用PCが動かされている事が判明しました。この部屋の鍵を受け出した関係者は3名いますが、だれがこのPCを動かしたのか不明です。石山くんが調べる事はできますか?」
「はい。アプリを起動したなら、その時刻は分かります。また、コンテンツの操作をしようとしたかどうかも分かります」
そういって、PCを起動してアプリの履歴を見た。
時刻は14:23分、操作しようとしたファイルは英語教材C-3だと履歴は示していた。
「分かりました。それでは、この事は内密にお願いしますね。それと、データは取られていませんでしたか?」
フロントに2つのSSDが見える。
物理的に盗難されていない。
サイドパネルを開けて、後部のコネクターを見たが、俺が外したまま変化は無い。
「はい。大丈夫です」
「では、ご苦労さまでした。それとおめでとう」
「えっ?なんのことでしょう」
「入学時3位だったあなたの成績。期末は2位にあがっていましたよ」
「あ、ありがとうございます。それにしても先生たちは夏休みも働くのですか?」
「私達は、夏休みではありませんよ。仕事です」
「そうでしたか…すみません」
蘭とのLINEは、おはようで始まり、おやすみで終わるマンネリに陥っていた。
喫茶店のいつもの席で、コーヒーを飲みながら蘭を呼び出した。
「蘭、期末テストは、自分的にはどうだった?」
少し驚いたような顔で
「なんかうまくできなかった」
「家に上がり込むことはできないから、ここへ参考書と問題集を持って来てくれる?」
「えっ、なにそれ…」
「オーナーさんに、『ふたりきり』で、家には入らないように言われていたんだ。でも、2年じゃ同じクラスになりたいからね」
「わかった。すぐに戻ってくる」
そう言うと、注文もせずに家に戻っていった。
蘭の使っている参考書と問題集は、比較的難易度の高いもので、それらに結構時間を掛けて取り組んでいるようだった。
「これね、俺が使っている参考書や問題集よりも難しいよ」
「え~ そうなの?」
「期末テストの問題、覚えてる?」
「うん、大体は…」
「初めてのテストという事もあるけど、ほとんどの問題は、教科書とワークプリントから出ていたよね」
「うん」
つまり、蘭が昨年から始めた受験用の学習は良かったけど、今のこの参考書と問題集は、学校の期末テストとはレベルが合っていないのだ。
俺は1年先行して学習するから、基礎を固めるための参考書や問題集を使っていて、学校では教科書やワークプリントで勉強している。だから、テスト問題が教科書やワークプリントから多く出される場合は、成績が上がる。
蘭の参考書と問題集は、高校受験には向いていると思うが、私達の学園はエスカレーターで受験の必要がない。だから学校の定期テスト用に勉強内容を変更した方が良い。
俺の感想を蘭に伝え、去年俺が使っていた参考書や問題集をあげるから、それをしないか?と言った。
すごくうれしそうな顔をして『教えてくれる?』という。
でも、オーナーが安心できる環境を作らないと、『ふたりで勉強』の実現はむつかしい。
そこで、思いついた解決策を蘭に話した。




