第22話 講師助手
「いないなら養成すればいいんじゃないですか?Adobeのアプリケーションを使ってコンテンツを作るだけなら、俺でもできますよ」
「ありがたいわ~ じゃ、用意するのは? パソコンと100インチディスプレイ?」
「理事長!本当に彼の言う通りにするのですか?」
「テストケースとして1組だけね。私には教授法の評価なんてできないもの。成果は生徒にしてもらうのが1番でしょう?しかも、あなたは彼が言った事を『理想』だと言ったのよ? 可能だと言うなら試さない手はないわ」
「ですが、生徒に教えてもらうなんて…」
「だったら、彼と彼女を講師助手に任命すればいいんでしょ?理想的な授業が可能になるなら、私は何でもやるわよ。もし、実現できたなら、あなたも私を理事長として認めてくれるんでしょうね」
「……わかりました。それほどおっしゃるなら、やってみましょう。ですがビジネスですから、期限は切らせて頂きます。期末テストまでには1クール分を作成してもらいます」
「では、授業1単位ごとの詳細なレジュメの提出をお願いします」
「あきら、その詳細なレジュメって何?」
「いつ、どんな資料を使って、なにを理解させるのか、という講師の行動をタイムスケジュールにしたものだね。 有名な講師のレジュメを見た事があるけど、40秒でこの話とか、秒単位で記述してあったね」
「では、いつから始めます?」
機材の手配があるので、揃い次第連絡がくることになったのだが…。
準備するもの。
PC、ディスプレイ2台(コントロール用と画面用)、Adobe Captivate、Adobe Photoshop、Audacity、マイク、発音記号別口腔イラスト、テキストのデータ、レジュメと書いて渡した。
担当講師は、この走り書きを見てオロオロしていたが、理事長が
「早く稟議書を提出してね。業者は総務に聞けば、ある程度は分かるでしょうから」
と切り捨てていた。
「石山さん、有本さん。2人には正式な講師助手の任命状と当校の基準に準拠した給与を支給しますので、振込口座情報を、この紙に書いて持って来て頂戴ね。どうせあの調子ならしばらく準備に時間が掛かると思いますが、よろしくね」
「はい」
「コンテンツが作成できてからになるけど、十分なものが完成したら、1クール単位での著作権の買い取りも行います。ま~レジュメがコンテンツのキモになるから、1クールで30万円くらいでしょうか…」
「理事長先生、質問いいですか?」
「はい?有本さん、私は教員免許は持っているけど、『理事長』だけでいいですよ。それで何?」
「1クールってなんですか?」
「ん~ 分かりやすく言えば、アニメなら12話。英語の授業なら1学期分ね。」
「年間140時間と学習指導要領で定められているから、1学期46時間。」
「今回作るのは2学期に使う分だけど、1時限の授業に使う教材の時間は10分くらいじゃない?」
「そうですね~」
「その中で会話があるでしょうから、お二人の英会話シーンを撮影させてもらうのかしら?」
「いいえ、会話シーンでは英文を表示させて音声を出します。例えば、LINEみたいに」
「あ~なるほど…」
「デジタルデータですから、片側だけ音声を出すなどの設定が画面でできます」
「あっ、遅くなってしまいましたね。今日はありがとう。また、連絡しますから、よろしくね」
蘭といつもと同じ帰り道
「10分のコンテンツを作るのに、レジュメとテキストデータが有れば、会話音声を録って、貼り付けるだけだから1時間以内でできると思うけど、ごめんな。巻き込んで」
「えっ 全然問題無いよ。まさかコンテンツ作成に関わるとは思わなかったわ。面白そうじゃない」
週4回英語の授業がある日の放課後、1時間限定でコンテンツ作成を行った。
教科書の2学期の部分のレジュメは、当日までに詳細な内容に書き直され、特に会話については、セリフの確認がされている。
口腔内のイラストは、私の発案の元になった『外国人向けの日本語講習テキスト』に載っていたもので、これを英語の発音記号に該当させて、無い部分は外注に出されていた。
イラストデータは一回作ってしまえば、永久に使えるためコストパフォーマンスは良い。
講師の人が参考に持って来たVHSテープは見ていないし、カビが生えていた。
最初に持っている素材をすべて取り込んで、Adobe Captivateの制御画面に配置する。
会話シーン用のセリフを蘭と俺で個別にAudacityで録音して、音声トラックに置く。
音声はピッチ(高低)も変更できるので、3人目が要る時は、ピッチで3人目を作る。
表示画面には、画像やテキストを配置するだけでOK。
表示タイミングは制御画面をドラッグすれば良い。
こうして10分用のコンテンツは簡単にドラフト版を作って、試しに走らせてみる。
テキストの大きさ、位置を微調整して、制御ボタン(次画面、前画面、一時停止)など、使いやすい所へ貼り付ける。
あっけなく出来てしまった。
これだと、話が脱線して時間が延びたりする事はない。
音声データは何度でも流用できるし、部分的に変更することもできる。
30分で出来たので、次回は2回分のレジュメをお願いして、この日は終わった。
外注したイラストが入荷すれば、発音記号の音声取りとAdobe Photoshopで微調整の予定だ。
タイムカードに手書きで開始時刻と終了時刻を書き込んで、判をおしてもらった。




