第21話 ご意見申す
ママの自宅に泊まりながら、連休期間中は、いろいろなところに連れていってもらった。
予言通り、3日後には現地の回転寿司に行ったのだが、出てくるものは全て日本とは違っていた。
有名なのはカリフォルニアロールだが、巻きずしなら問題はない、とも言えない。
最も違うのは、酢めしではなく、単なるご飯だったから。
さすがに親子丼には閉口した。
どんぶりではなく、深めの皿に乗って出てきた。
「店長は日本で修行した人です」
と店員は自慢していたが、丼を知らない日本人などいないだろう。
とにかくコンビニなどで働いている者は、ほぼアジア人で中国人が多い印象だ。
しかも夜の7時にはほとんどの店は閉まってしまう。
シティーの中の店でさえ、ほぼmade in chinaと書いてある品々。
オーストラリアには工業製品を作る会社は無いのだろうか…。
蘭の銀行口座も作り終えて、7日目の3日(木)には帰国する。
現地10時発だと成田空港には夜の6時に到着する。
何だかとても疲れた。
本当の母だけど、祖母のような安心感がない。
昼のフライトなのに結構寝てしまった。
今夜が心配だが、時差ボケがあって、休み明けまで4日もある。
空港バスで新宿まで戻り、そこからは路線バス。
喫茶店に戻ったのは、店が閉まった夜の9時だった。
裏の自宅までスーツケースを運んで『さよなら』したのだが、ハグをしてくれた。
なかなかにうれしい習慣です。
連休明け、証券口座にあるお金を銀行口座に移動した。
前回振り出した300万円の残り、900万円ほど。
これを豪ドルに替えておくつもりだ。
なぜなら、ママとの関係が正常になったので、オーストラリア留学の可能性が戻ってきたからだ。
留学費用を諸経費込みで、年250万円とすると4年制大学なら1000万円分の豪ドルが必要になるし、現状の1$/76円付近は最高値圏と言える。
1$/100円に戻った時には、300万円の利益が見込める。
デイトレードが再開できるまでは、中期の投資しかできないので、我慢。
学校生活は、7月の期末テストまでほとんど変化はない。
英語の授業があるのだが、俺をハーフだと思っているらしく、出来て当たり前の空気のような存在だ。
だが、ホワイトボードと20インチTVの組み合わせは最悪だ。
と考え事をしていたら、講師から
「どうかしましたか?私の板書に何か問題でも?」
「いいえ、英語教育の設備としてホワイトボードは無いんじゃないかと…」
「なるほど、ネイティブの方のご意見を放課後にお聞きしたいのですが、よろしいですか?」
「あ~ ネイティブと言うなら2組の有本蘭さんの方が適切かと…」
「そうですか…ではお誘い合わせのうえ、放課後に理事長室までお越し下さい。よろしいですね?」
とんでもなく、嫌みな講師だった。
昼休みの食堂。
最近ではみんな顔見知りになったようで、一人で食べている人は少なくなって、歯抜けのような空席は減っていた。
「そういう訳で、放課後、理事長室へ行かなきゃいけなくなって…」
「問題ないわ、というか、オーストラリアまで付き合ってくれて、弁護士費用まで出してくれたんだもの、そのくらいはしないと罰が当たるわ」
「えっと、あれは立て替えただけだよ。蘭のカードが使えなかったから…」
「あれ?そうだったの?…ものすごく感謝したのに損した気分よ」
「さすがに20万円は無いよ…蘭みたいに収入は無いんだからね」
「たしかに、そう言えばそうよね。ごめん」
「でもお爺さんに結構な額を負担してもらっているから、弁護士さんに譲渡を依頼する際に説明できるよう、ちゃんと記録を取っておいた方がいいと思うよ」
「あ~ そうだね。気がつかなかった…」
放課後になり、蘭と合流して理事長室に来た。
『トントン』
「どうぞ」
「失礼します。1年1組、石山章入ります」
「同じく、1年2組 有本蘭です」
「ご苦労様。そこに座って」
「あっ はい」
「担当講師から聞きました。設備に関するご意見があるそうですね」
「はい。すみません、思った事をつい、うかつに言ってしまいました」
「はは、いいのよ。叱るために呼んだんじゃなくて、本当に生徒からの意見は吸い上げるように、きびしく指導していますから」
「はぁ~ ありがとうございます」
「それで、語学研修には向いてないと思う理由を具体的に教えてくれる?」
「はい。発音が悪いと良く言われますが、その修正のためにTVで口のアップを見せています」
「ですが、それよりも、舌の位置や口腔内の空間の形をイラストで見せた方が分かりやすいですし、それもホワイトボードじゃなくて100インチディスプレイを採用して、そこからイラストや音声、場合によっては動画も見せればいいと思いますが…」
「パソコンを操作して、それを写すという案は職員の間でも検討しましたが、操作に時間を取られるのと、それらの適切な教材そのものが問題なんですよ」
「そこです。つまり講師がテキストや動画コンテンツを作れないから、適切なものがないとか、変更がきかない、時間が長い、短いとかの問題になるんです」
「そうね。確かにアメリカの一流大学では、講師が書いた書籍を使って授業を行うと聞いた事がありますね。要はコンテンツの作れない講師が授業を担当する事そのものがおかしいと言うのですね?」
「はい、おっしゃる通りです」
担当講師は言う。
「ですが、それは理想論にすぎません。現状、どこにも教材を、それも動画コンテンツを作れる英語講師なんていませんよ」
「いないなら養成すればいいんじゃないですか?Adobeのアプリケーションを使ってコンテンツを作るだけなら、俺でもできますよ」




