第19話 調査
4月中旬
円高は更に進んでいて、株価の下落傾向が続いているし、学園内では携帯が使えないのでデイトレードもできない。
そのため資産運用はしばらくお休み状態だ。
マイク・ウィルソンの貿易会社の事を調べようと名刺の会社、リックトレードカンパニーをインターネット検索すると、実在するようで概要がわかった。
リックトレード:通関業務、倉庫業(保管・梱包等)、貨物自動車運送事業、卸業
メモ欄を確認すると、蘭の父親はリック・ターナー、イングランド出身。
会社名から察するに、リックさんが立ち上げ、マイクさんを誘ったという推理が成り立つ。
ママにメールで、豪州証券取引委員会(ASIC)という政府機関に勤務する旦那さん、イーサンに調べてもらえないかを打診した。
一方、インターネットでオーストラリアの会社について調べていると、探偵業そのものは存在しているが、成果は出にくいらしい。
オーストラリアでは、正規の方法、いわゆる調査対象に対する照会請求を裁判所からもらわなければ、探偵業であっても尾行などは違法行為になるらしい。
弁護士事務所に依頼か…。
この際、豪ドルを確保しておこうと調べると円高だが、豪ドルも高いらしい。
それでも普通1$/90円ほどのはずが、4月中旬の為替相場は、1$/76円まで安くなっている。
株がだめなら為替が良いかも。
どのぐらい豪ドルが必要か分からないので、300万円ほど両替して外貨預金にしておこう。
2日後、イーサンからの回答では、ASICには確かに登録されている。
オーストラリアン・カンパニー・ナンバー(CAN)も取得し、オーストラリア事業者番号(ABN)も取得している。
取締役(Director)はリック・ターナーで12年前にマイク・ウィルソンが追加申請され、1週間後に、リック・ターナーは死亡により登録抹消されている。
イーサンの話によると、追加申請のタイミングが出来過ぎていて、申請書類の署名偽造だけでなく、ターナー氏の事故死も、殺害された可能性が否定できないという。
だが、これらの調査は弁護士でないと無理だと言う事であった。
イーサンは、弁護士に依頼して調べようか?と言って来たが、調査のためには正当な理由が必要なので、この件が俺とどのような関係にあるか、説明をしてほしいと聞かれ、弁護士の紹介だけをお願いした。
弁護士との交渉は複雑な、デリケートな内容もあるので、日本語で話ができる日系人の弁護士事務所を紹介してもらった。
神田弁護士事務所は、日本人の特性である『誠意をもって』ユーザーの業務をこなす事で評判がいい人だと、イーサンが勧めてくれた。
インターネットで、調査の概要を伝えたが、当然、正当な理由を有するのは蘭だけであり、彼女からの依頼でないとお引き受けできない。との回答であった。
申し込みには、調査対象との関係とそれを証明できるもの、身分証明などを提出しなければならない。
そこで、蘭と直接オーストラリアに渡航することを計画した。
4月末の連休に行くとして、パスポートはそれまでに取らなければならない。
夜に父の居る借家に行き、パスポートとチケットの事をお願いした。
豪州への航空機代金は連休時期が最も高く30万するかも知れない、と言うと、父は渋い顔をしていたが、継母は、夕食を食べて行きませんか?と聞いてくれていた。
継母という言葉は、悪女キャラの代名詞だから、印象を変えたいと本人も余計にそう思っているのかもしれない。
学園の食堂で、蘭にオーストラリアの探偵事務所に行く事を伝え、彼女に会社とのつながりを証明する書類を用意してと言うと、案の定、自分も行くと言い出した。
「でも、マイクさんの嫌疑を調べるから、杏子さんにも内緒にしないといけないし…」
「分かってるわ、でも費用ならお爺さんに頼めるし、私、パスポート持ってるのよ!」
「あっ、そうだったね」
「逆に、あきらのパスポートが間に合わなかったら、わたし一人で行くからね」
「泊まる所はどうするんだよ。俺たち中学生なんだぞ」
「あきらはどうするつもりなの?男の子でも一人じゃ泊まれないでしょ?」
「ママの所に泊まれるように、メールで頼んだんだ」
「じゃ~、その連絡先教えてね。わたし一人でも、あきらママの所へ泊まるから」
帰りに喫茶店に寄って、オーナーに今回の経緯を伝えると、航空券の手配とその他の諸経費を持つと言われたが、父に頼んであるとお断りして、蘭の分だけをお願いした。
出発の日、父も継母も祖母でさえ喫茶店に来ていた。
人には言えない目的で行くのだが、表向きは蘭の一時帰国とそのお供。
「ま~せっかく行くんだから、観光もして来い」とか
「ちゃんとご両親の了解をもらってくるのよ」とか
まるで俺が『蘭を嫁にください』とでも言うかのような勘違いをしている。
おおよそ22時に出発して約13時間のフライト。
現地時間の昼11時に到着する予定だ。
飛行機は観光シーズンなので満席だが、蘭は窓際。
とは言っても主翼があって、下は見えなかった。
機内食を食べて、しばらくすると機内の照明が消えてお休みタイムだ。
お互いに考えていた事は同じだったのか、リクライニングシートを倒して手をつないだ。
アナウンスで目が覚めた。
「おはよう」
「おはよう」
カンタス航空だけど日本語が通じる。
なのに見た目が外人なので、英語で話し掛けられてしまう。
朝食を食べてしばらくすると到着。
入国審査は俺が政府職員であるイーサンの連絡先を提示したので、すぐにOKが出た。
LINEでママから連絡があった通り、空港にはイーサンが『あきら』とひらがなで書いた紙を持って、迎えに来ていた。




