第18話 パーソナルスペース
カウンター席に座った蘭と俺。
そこにオーナーが来て
「また喧嘩したのか?」
「うっとうしいのよ、あの男。何かと干渉してきて…」
「そうか…ところで、どうするんだ蘭。寿司が届いているぞ」
「ここで食べたいんだけど…」
「だったら、大きな桶で来てるから、先に好きなものを取っといた方がいいんじゃないか? あきら君も」
「でも、半分なくなってたら、桶がすかすかになるじゃないですか~」
「私の分もあるから半分以下になるな。残りを犬用の皿に入れて持っていくか…」
「そうそう!そうしよう。あきらが持って行ってね」
「ネタの下にわさび、追加しましょうか?」
「君も言うね~」
「あははは」
そんなこんなで、みんなで撮った記念写真が台無しになった。
ま~俺と蘭が並んだ写真があれば、あとはどうでもいいんだけど。
杏子ママ夫婦は、その後、ビジネスホテルに移動して、5日間の日本旅行を楽しむらしい。
俺はオーナーに、マイク・ウィルソンの経営する貿易会社の名刺をもらった。
「なにに使うのかね」
「いや、ちょっと調べてみようかと…」
「ほ~ やるね~ だが、一体どんなルートで?」
「ま、結果が出てからルートはお話しします。いまは役に立つかどうかでさえ、分からないルートですから…」
「なるほど…、楽しみにしておくよ」
翌日からは忙しかった。
学園内での効率的な移動ができていないからだ。
3日ほどで、校内のどこに何があるのか位置関係が頭に入って、移動時間も分かるようになった。
週末の土曜日、うっかり休み感覚でいて、あわてて準備していると、蘭がインターホンで呼び出して来た。
「ね~ まだ部屋に居るの?」
「ごめん、すぐ降りるから…」
エントランスから走り出て、蘭と合流する。
俺はすでに蘭を彼女だと思っているが、彼女から抱きついて来ない限り、俺から抱きついたりしない。
(当たり前か?)
たった1年の差。
小6から中学生になっただけだが、学園の雰囲気は全く違う。
仲良しから、競争社会に入ったからか?
俺はすでに中学2年用の参考書に取り組んでいるし、問題集も買ってある。
中学校の教育内容も好きだ。
中高一貫校でない高校の入試試験は、中学1年と2年で学習する内容が中心になるらしい。
そう思うと、今がとても大切だと気合が入るというものだ。
だが、この学校の教師にも当たりはずれがあるように感じる。
噂では、宗教法人側の採用した教員と、理事長側の採用した教員の間で、意識の違いがあるらしい。
まさかと思うが、派閥争いなのか。
今、目の前にいる体育の教員は、どちらの派閥だろうか…。
そういえば、1月生まれで12歳の俺だが、すでに170㎝に到達した。
もうチビではないし、精通もあった。
今日は体力測定。
筋力(握力)、跳躍力(立ち幅とび)、敏捷性(反復横とび)、柔軟性(長座体前屈)
筋持久力(上体起こし)の5項目であった。
これでプログラム内容の検討をするそうだ。
まさか、今日のスコアと期末のスコアの差を評価するんじゃないよな?
いずれにせよ、スコアの良かった俺に笑顔を向ける教師はキモい。
クラブ活動は強制ではないらしい。
おかげで道場も英語塾も続けられそうだ。
食堂は、それなりに席はあるのだが、タイミング的に一応は譲り合う必要はある。
蘭と教室の出口で待ち合わせてやって来た。
券売機でチケットを購入する。
見ると清水が席を確保していたのだが、追い払われそうになっている。
「1組に席を譲れ!」
おいおい、今時の中学生は異世界ものの貴族なのか?
「清水、こっちへ来い!」
「お~ 助かった~」
「あの通路側の端は、右に人が座れないし、肘も楽だから、好きな奴は多いんだよ」
「パーソナルスペースって言うんだけど、みんな他人に接触する席を避けるだろう?だから1つ飛ばしに座る奴が多くて席が不足するのさ」
「そうだな…」
「特に4人がまとまって座れる空間は貴重だから、何とかしたいっていう気持ちは分かるけどね…」
「じゃ~どうすればいい?」
「面倒でも中央あたりは入りにくいし、出にくいから空いているだろう?」
「でもな~」
「だったら、1つ飛ばしに空いている席に座ればいいのさ」
「でも君達はうまく見つけたよね」
「食べ終わってる人を探して、そこに近づけば、話をやめて席を立つ人は多いからね」
授業が終わって、2組の教室前で蘭と清水と合流して帰るのが日課になった。
横に広がるのを避けるため、蘭が歩道側、清水が車道側を歩き、俺は後ろを歩いている。
ほとんどの生徒は電車の駅に向かうが、俺達は歩きなので反対方向だ。
清水はロマンチストなので、電車通学の方が恋愛の可能性が高いと言う。
「じゃあ、その可能性を検討してみようか…まず学校を出るところから…」
「下駄箱に手紙が入っている…」
「ん~なさそう。だって人が見てるでしょう?」
「まぁね~」
「出口で傘を貸してあげる、又は、貸してもらう」
「ありそう、きっとある!」
「一人で歩いていると、うしろから声をかけられる」
「ありそう?」
「一人で歩いていると、これを読んで下さい!と手紙をもらう」
「あるかな~」
「やっぱり下級生からだよな?」
「ん~ どうかな…とにかく3人もいたら、来ないよな?」
「来ない、来ない」
チャンスは来年だろうという空想で商店街に到着し、清水は帰っていった。




