第16話 雪解け
東京に戻ったあとが大変だった。
本当に心配を掛けてしまったからだ。
まず、帰京当日、祖母に泣かれてしまった。
そして、父の愛人?婚約者?からは、自分が原因なのか?と父は聞かれたそうだ。
確かに、今まで俺の事を相談していたにも関わらず、今回の事を伏せておくのは変だから、話をするのは当然なんだろうけど…。
だけど、学校では旅行に行ったのだろうという悪意の憶測が主だったそうだ。
悪意のない鈴本でさえ『金と成績に余裕のあるヤツ』という印象らしい。
正月休みが明けて、しばらく経ったころ、放置していたママからのメールを読み始めた。
最初は自分自身の反応が怖かったのだが、やはり、もう大丈夫だ。
ママの再婚相手はイーサン・ブラウン。
オーストラリア証券取引委員会の役人であり、悪い人では無いと強調されていた。
ママは勘違いしているのだろう。
確かに前回、回線を切ったのはブラウンさんが挨拶した直後だったけど、彼が怖かった訳ではない。
メールにはブラウンと出会ったきっかけや、真面目な人物としてのエピソード、再婚してから生まれた男の子(1歳)の写真など、さまざまな情報が示されていた。
確かに、俺の時のような、うかつな結婚ではないようだ。
意を決して、返事をすることにした。
もちろん、英会話のためとかは隠して…
「ママ。ごめんなさい。実はあの時、俺は寂しかったんだと思う。そして、さみしそうなママを慰めるつもりだったのに、ママの肩越しに見えたハンサムな男性と、いかにも幸せですというその姿に、嫉妬を感じて回線を切ってしまいました」
「今は俺にも彼女ができて、ママに申し訳ない事をしたと後悔しています」
「ぜひ、イーサン・ブラウンと、1歳の子供と、幸せになって下さい」
などと思ってもいない事を書いて送った。
そして追加として、現在、中学受験を控え猛勉強中だからSkypeには応じられないからと付け加えておいた。
1月末。俺の誕生日。
いつもと同じ朝5時半に起きて仏壇にお経を唱えてから起き上がらない腹筋を50回。
6時からは中学用参考書に取り組み、7時半に朝食。
久しぶりにママからメールが来ていた。
「お誕生日おめでとう」
「あなたの気持ちに気づかず、ごめんなさい。実は、無口で一人遊びが好きなあなたは、私に懐かず、とにかく私から逃げ回るので苦手でした。パパも、あなたと同じで、仕事をしているか、一人で遊びに行くので、いつの間にかヘルパーに任せるようになりました。」
「若かったこともあって、大阪の街はとても魅力的で、笑いがたくさんある楽しい街でした。パパはカードさえ渡しておけば問題ないと思う人なので、複数の家政婦さんのお世話になりながら、しばらく家出をしたのに、それさえも気にしていませんでした」
「あなたは変わった子で、お金を渡せば一人で3軒となりの中華料理屋さんに食べに行っていましたね」
「もしパパが役に立たず、助けが必要な時は、私に声を掛けてくださいね。頼ってくれる方がうれしいですから。イーサンもいつでも父親の代わりを務めると言ってくれています。オーストラリアに移住するなら、イーサンは養子にしても良いと言ってくれています。大人になったら、必ず会いましょう」
ありがたい。
確かに父はそういう人だ。
このメールは見せないでおこう。
今年の入試試験は、2月4日(土)。
あと5日。
学校の帰りに喫茶店で俺の誕生日をささやかに祝ってくれるらしい。
父からはお祝いに30万円が振り込まれていた。
最近は新しく借りた借家に行っていて、ほぼ、マンションには居ない。
喫茶店に入ると、一番奥に予約席の札が立っていて、祖母もそこに居た。
「誕生日おめでとう~」
いや、関係のないお客さんまで…
「ありがとうございます」
再び、オムレツ。
最初からハートマークは付いている。
なんだか祖母が一番うれしそうにしているのが印象的だ。
「今朝、ママとメールで仲直りしました。お互いにきらいだったけど、俺も大人になってママの気持ちも少しは分かってきて、本当はきらいなんじゃなかったと分かりました。今朝はオーストラリアに来るなら、義父が養子にしてくれると聞いて、義父も少し好きになりました。もちろん行きませんけど…」
「今週土曜日に、中学受験に挑戦しますが、今日の皆さんの応援を胸に、勝利を勝ち取る事を、ここに誓います!」
『パチパチパチパチ』
「蘭!頑張ろう!」
「がんばろう! おう!」
なんだか出陣式のようになった誕生日だったけど、とても楽しかった。




