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孤独の人  作者: 神の恵み
現代編
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第15話 クリスマス


寺に戻って、ゴム長の泥をホースで洗い流す。

軍手と手ぬぐいは、雑巾用の2槽式洗濯機へ入れる。

台所横でおばさんに籠ごと土間に置いておくように言われた。


それなりに疲れたが、とにかく戻った事の報告を。

だが、寺務所にも本堂にも住職の姿がない。


どうやら年末年始の準備と消耗品の補充などの買い物に行ったようだ。

この地方でも28日以降は帰省で人が増え、元旦には檀家が食事やお酒を持ち込んで新年会のような事になる場合もある。



とりあえず、部屋でダウンから作業着に着替えて薪割へ。

風呂場を洗って、水を張り、湯を沸かす。


今日はお客さんがいないので、膳ではなく、お鍋。

だったら、俺の手伝いはいらない。


燭台の点検と戸締り、郵便受けを確認してから部屋に戻り、携帯メールを確認した。


父からメールがあり、帰省ラッシュ前に蘭さんを東京に戻した方が良いとの連絡だ。

確かに有本家にも正月行事もあるだろうからね。


もし、雪が降れば住職の四駆だけが頼りだから、26日には移動した方が良い。



蘭のいる客間に行き


「蘭、ちょっといいかな?」


「どうぞ~」


「来週月曜には東京に戻るつもりだけど、いいかな?」


「あ~ 現実に戻るのか~」


「何を言ってるんだか…」


「じゃ~徳永さんにLINEを送っておくね」


部屋に戻って、父に26日月曜日に戻るとメールを送った。




住職の車の音で、戻ってきたのが分かったが、他にも車が入ってきた。

森林組合の人にも手伝ってもらい、荷物を運んでもらってるみたいだ。


「あきら~!戻ったぞ~」


「おかえり~」


「わしらは荷物の片付けなど、まだ時間が掛かるから、蘭さんとあきらは先に風呂に入っておきなさい!」


「わかりました~」


トラックからは、薪や炭、お米や灯油などが次々と倉庫に運び入れられていた。



「蘭、先にお風呂に入って、お湯の温度を見てくれる?」


「わかった~ 」



そんなこんなで、順番にお風呂からあがり、俺もゲストルームに入って、ファンヒーターで髪を乾かしていた。


俺はこのあと、お部屋係りになって、布団を敷いてシーツも付けなきゃいけない。


「そんな事もするの?」


「いや、昨日も俺がしたんですけど…」




「お~い、食事の準備ができたぞ~」


「は~い」


ダイニングテーブルは椅子を使うので、蘭は正座しなくて良い事に喜んだ。

カセットコンロの火を点けたところで、鍋はまだ煮えていない。


住職が

「膳で食事を頂くのも、いい経験だったと思うぞ」


「しまった!写真撮っておけば良かった…」


「あ~ 写真なら盛り付けの際の写真があるから、あとで送るよ」


「サンキュー」


鍋が煮えて来て、取り鉢3つにていねいに鍋料理を盛る住職。


肉は入っていないが、白菜や豆腐、えのき、糸こんにゃく、しいたけなど、色々な食材が入っていて、さりげなく材料名を言って、蘭に教えてくれている。


昨夜のお膳といい、今日の鍋といい、和食の魅力と食材を伝えたかったのかな?と思った。


蘭もぽん酢を気に入ったようで、よかった。



食後に部屋を移動すると言ったので、どこへ?と思ったら、寺務所の中に小さなクリスマスツリーとショートケーキが2つ置いてあった。


「少し寒いが、ここでクリスマスのお祝いをすればどうかと思ってね。ま~あいにく私は不参加だが…」


「えっ ありがとうございます」


「ノンアルコールのシャンパンも2本あるぞ。中身はサイダーかな」


「そこまで気を使ってもらわなくても良かったのに…」


「いや、ケーキ屋のお嬢さんが、是非、と言うのでな」


蘭が

「ありがとうございます。お寺でクリスマスなんて思いもしなかったです」


「あはは。実はツリーもケーキ屋で無理を言ってゆずってもらった物なんだ。ま~ あと1日しか寿命のない飾りではあるけど…」


「それとあきら、今日は私が片付けをするから、お前は楽しめ。そして良い思い出を作って帰りなさい」


「はい」



甘いノンアルコールのシャンパン?をコップに注ぎ、ふたりでショートケーキを食べた。


ツリーの電飾コンセントを差し込んでから、部屋の電気を消すと、寺務所の大きなガラス窓から、夜空に輝く星が、これでもか、と言うほどたくさん見える。


そしてツリーの電飾もチカチカと点滅を始めた。


「オーストラリアも星が良く見えるらしいね」


「そうそう!よく知っているわね」



「調べたのさ、以前に…」

「調べが無駄になったと思ったけど、蘭が来たから無駄にはならなかったよ。オーストラリアの事」


「あきら…」


「俺にとってママは災いでも、蘭は福だ。だから、俺はもう大丈夫だ」


「うん」


「蘭、ここまで来てくれて、ありがとう」



「あ!雪だ!」


「えっ? まずい!」


「なんでまずいのよ!」



寺務所から出て、キッチンにいた住職に雪が降り始めた事を知らせた。

片付けを手伝い、天気予報を確認する。

上空に寒気が下りて来ているらしい。


住職の判断で明日、橿原まで送ってもらう事になった。

徳永さんに連絡を取り、ホテルのロビーで集合となった。




翌25日日曜日

朝5時に起きてさっそく準備に掛かる。

朝までに降った雪で、橋は凍結している可能性もあり、所々1車線しかない道で事故が発生すると、四駆だろうと通れなくなる。


6時に寺を出発して、暗い県道を慎重に走る。

30分ほどして、夜が明け、明るくなって来た。


「フフフ~ン、フフフ~ン……」


緊張していた住職と俺は、蘭のご機嫌な鼻歌で笑いだした。


「ははは…いや~、いいお嬢さんだ」


「えっ なに?」


「外の雪景色、よく見て覚えておくんだよ。オーストラリアじゃ雪は見られないからね」


「分かってるわよ。ホテルに着いたら写真を撮るわ」


「橿原じゃ、降っても積もってないよ」


「え~~、ここだけなの?」


「そう、山間部だけだね」


「撮影し~とこっと」


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