第14話 山菜取り
お読みいただき、ありがとうございます。
今日は第16話まで投稿させて頂き、平日はお昼と夜に2話ずつ投稿の予定です。
徳永さんを見送った蘭と俺は、30分掛けて寺に戻る。
登り道なので、行く時よりも時間が掛かる。
途中でちょうど、寺に向かう手伝いのおばさんと会った。
早朝に来たから、2回目だ。
「お嬢さんはきれいな子だね~」
「いえ、そんな事はないですけど…」
昨日の会話から学習した俺。
「パンツスタイルも似合ってるしな」
「今朝はズボンって言わないのね…」
「日々進歩してるのさ」
おばさんは少し驚いたみたいで
「ズボンって言っちゃいけないのかい?」
「あ~いや、どちらでもいいみたいです」
「そうかい…時代が変わると呼び方まで変わって…こないだまで『えもんかけ』って言ってたのに、今じゃハンガーて言うらしいし…」
「えもんって何?」
「えは衣、つまり衣服の事だな」
「もんは紋付の着物の事かな…」
「だから、衣紋掛けは、今でも和服を掛けるハンガーの事を言うと思う」
「坊ちゃんは本当に物知りだね~住職の後を継ぐのかね?」
「いや~ どうでしょう…」
「そういや、今日は山菜取りに行くんだけど、坊ちゃんたちも一緒に行くかい?」
「あたし、行ってみたい!」
「住職に聞いてみようか…」
「うん」
住職は
「山道は足元が滑るから、汚れても大丈夫な服装で行きなさい。物置に長靴もあるから、それを履くといい。軍手や籠もあるから。あきらは知っているだろう?」
「はい」
「気をつけて、楽しんで来なさい」
まずは泥が付いてもいい服装に着替えてから、物置に入って、ゴム長や軍手、竹かご、手ぬぐいなんかを取り出す。
棚ごとに整理されているし、ビニール袋にも入っていて、すぐに使えるようにしてある。俺が行方不明になった時の捜索隊(消防団)にも、この物置からいろいろ調達した件は、住職の苦労話の一部だ。
いよいよ、おばさんを先頭にして、裏山に入っていく。
最初は丸太を使った階段だったのだが、傾斜がゆるくなってからは、単なる獣道になる。
少し開けたところに出ると、雑草のようなネギ属の『ノビル』が生えている。
「ほとんどネギだね~」
いきなり楽しさMAXの蘭。
景色も空気も、その要因のひとつなんだろう。
そしてフユイチゴの群生があった。
いきなり食べようとする蘭に
「それほど美味しくないから、ジャムにするからね」
とは、おばさんの声。
単なる葉っぱにしか見えないカキドオシの群生を指差し
「これは乾燥させてお茶にするんだよ」
と教えてくれる。
小さな小川に沿ってしばらく歩くと
「魚がいる!」
蘭には珍しいかも知れないが、田舎では当たり前の光景だ。
お昼はとっくに過ぎているが、そんな事には気づかずに、ベンチのある見晴らし台に来ていた。
そこには360度の天然パノラマの大自然が待っていた。
「すご~い! こんな景色見たことがないわ~」
「きれいだね~」
わざと蘭の方を見ながら言ったのだが、多少は感じているのか、少し赤くなった蘭を永遠のものにしたくて、この大自然を背景に自撮りをした。
「坊ちゃんたちも、この中に入って、お弁当にしましょう!」
見晴らし台の建物の1階には、小さなコンクリート製のテーブルセットがあって、そのベンチを掃除用の雑巾で拭き、ダウンを下に敷いて座った。
おばさんが作った手作りの弁当は、タッパーに入った情緒のかけらもないものだったが、タコウインナーや、俺の好きなだし巻きたまご、歯ごたえのある沢庵、自家製トマトなど、おにぎりとおかずが半々の贅沢なお弁当だった。
高級食材とは縁遠い、質素とも言える材料だが、蘭にはごちそうだったようだ。
携帯ポットから緑茶を注いで、3人で「ほ~」と白い息を出して飲む。
今までは人の幸せは自分の不幸だったのだが、今では蘭とおばさんの幸せは、自分の幸せだと思える。
時刻は既に13時半を回っていた。
この季節は暗くなるのも早いので、早速戻る事にした。
登りは良くても、下りは滑りやすい。
「滑りやすいから気をつけて!」
「分かってるってば! うわっ!」
こちらに振り向いたとたんに、滑ってしまった蘭。
とっさに俺に向かって伸ばした腕を、下からつかんで支えたのだが、さすがに勢いが付いた上半身を止める程のちからは無く、地面まであと30センチの所でようやく止まった。
「あ~危なかった~」
でも、膝はしっかりと獣道の泥に着地していた。
「あ…」
しかも膝は強く打ち付けたせいか、下り道の途中から痛くなって来たらしく、スーハースーハーと深呼吸している。
「痛いんだろう? そんなに我慢すんなって」
「で、でも…」
「もう勾配がゆるくなって来たから、おんぶしてやるよ」
なんか、おばさんは、面白いものでも見るように笑っていたけど、私と目が合うと
「ここからはあと10分くらいだよ、そこを右に曲がれば遠回りになるけど、階段じゃなく、ちゃんと舗装された道になってるから、そっちへ行って戻っておいで」
「はい」
「お嬢さんのズボンは泥が乾いてから洗濯するから、勝手口の籠にいれておいてくれればいいよ」
「はい。今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
「おばさん、お弁当すごくおいしかったです」
「坊ちゃんの好みは変わってなかったみたいだね。それじゃ~ね」
おばさんと別れ、更に緩やかな坂になった。
「もう大丈夫。もう歩けると思う」
「いや、今のまま、蘭をおんぶしていたい」
「えっ?」
「いつもじゃなくて、蘭が怪我をしていたら、俺が支える」
俺のほほをなでる蘭の手は冷たいが、嫌ではない。
「もし、俺が怪我をしてたら、蘭は何をしてくれる?…」
「ん? 怪我してたら…その時に考える!」
「なんだよ、それ!」




