表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独の人  作者: 神の恵み
現代編
PR
11/113

第11話 山寺に戻る


11月もそろそろ終わるころ、父がお相手の親子に会わせたいと言い出した。

父は35歳。お相手の女性は28歳。子供は3歳。

お水系だと思っていたのだが、その店はもうやめたそうだ。


父の関係かと思ったのだが、娘の年齢から考えて、夜の仕事から弁当屋に変えたそうだ。

ママとの失敗例から考えれば、家庭的な女性がいいのだろうけど、対極に振り切れるのもどうかと思う。

どうでもいいけど。



商店街がクリスマス飾りで一色になったころ、新宿の高級中華で会食になった。

個室もあって遠慮なく話せるという事だろうけど…

回転テーブルは、3歳の子供を飽きさせないという意味では、なかなかに良いツールだ。


だけど、見たこともないランチコースに戸惑ったのは、私とお子様だろう。

フカヒレスープや桜鯛の蒸し物よりも、チャーハンと単品で注文した麺類がうまかった。

できれば次は、バーミアンにしてほしい。



戻ってきた夜に『どうだ?』と聞かれたけど、正直、同居はきつい。


「ん~ 父さんが女性親子と同居するのがいい」


祖母も気を使うから、別居を希望している。

そうは言っても、父が相手の公営住宅に転がり込むには無理がある。


新しい借家を探すのが、現実的だろう。

そんな話し合いに、麦茶で11時まで付き合わされた。

(カフェインゼロの麦茶だからね)


蘭にはLINEで、高級中華の写真や集合写真を送ったけど、俺はとにかく煩わしい事から逃げたい気持ちで一杯になっていた。

孤独は寂しいと思っている人が大勢いるけど、今の俺は孤独が欲しかった。




クリスマスを前にして、発作的に現実から逃げ出してしまった。

朝、自宅を出て学校には行かず、品川駅を目指す。

新幹線に乗ってからLINEで、蘭と父に奈良の山寺に行く事を伝えた。


京都からは近鉄特急に乗る。

そして寺に着いたのは、夕方16時過ぎだった。



既に父から連絡が入っていたようで、住職の健一さんはいつものように


「おかえり」


と言って


「ただいま」


そう答えて、住職に抱きついて泣いた。


自分でも原因は分かっていた。

あのクリスマスソングが、俺以外の人の幸せを見せつけてる気がして、あの空間に居たくなかったのだ。

それとの対比で、この山寺には『無』があった。



そんな感情を住職に正直に告白した。

住職は


「いつもここに戻って来られる訳ではないから、どうすれば、何があれば、そんな気持ちにならなくて済むのかを、町に戻る前に考えてみよう。良いな?」


再び住職に抱きついて、自分の頭が住職の肩にある今の姿に思い至り、涙が止まった。

(そういえば俺、165㎝になったんだった)


「ははは…」


「ん? おさまったのか?」


「はい」


「そうか、では燭台の点検が終わったら、食事にしよう」



山寺の気温は、東京の平地と違って断然寒い。

既に雪が降っていてもおかしくない季節だった。

バスが運行していない可能性もあった。


考えてみれば、無謀な行為だったのだ。



朝5時に起床して、布団をたたんで、身支度してから部屋の掃除。

朝食のあと、本堂の雑巾がけ、燭台の点検、庭の掃き掃除。


学校に行かない分、余裕がある。

住職のうしろに座って、朝のお勤め。


「勉強はサボるのか?」


「本は持って来なかったんだ。衝動的に動いた罰だね」


「パソコンならあるぞ…」


「えっ?インターネットが使えるの?こんな山奥で…」


「はは。春に役場からケーブルを引いてもらってな~ 政府の補助金が出たらしい」



寺務所にパソコンがあった。

だけど、あまり使っている気配はない。

レーザープリンターがある。


ま~ インクプリンターでは業務には使えないだろう。


コピー機は役所のカラーコピー機を使わせてもらうらしい。

当然、有料だが。


それでも少しだけ近代化したようだ。

寺にWi-Fiルーターがあるのだ。


円高は更に進んでいて、株価は下落傾向のまま。

このPCでは取引はできないから、携帯から上昇傾向の銘柄を物色してデイトレードを開始する。


蘭からLINEが届いた。


「大丈夫?」


「ごめんね。今は落ち着いた」


「良かった」


「クリスマスソングや、幸せそうな雑音、初詣のカップルがいなくなって」

「街が静かになったら戻ります」


「そう 」

「わたしもそっちに行っちゃダメかな」


「ちょっと待って」



雪が降ると、四駆の車が無いと、来る事も帰る事もできなくなる。

とにかく、住職に相談してみよう。


「あの~ 友達がここに来たいと言ってるんだけど…」


「あきらにとって、その友達はどういう人なのか説明できるかな?」


それから、彼女との出会いと、彼女の背景について説明した。

だけど、彼女自身については説明できないと言った。

それは俺自身が、彼女の事をまだ何も知らないから。


「そうか…」


そして、今は同じ中学を目指している事も。


「彼女といると楽しいと感じる事が多いのと、気持ちが落ち着きます。だから、彼女と一緒に、この寺で色々な活動をしてみたいです」


「そうか。しっかりと考え、良く言えたぞ。ならば、受け入れることにしよう」


「ありがとうございます」


「うむ」



蘭に住職の許可がもらえたことと、住所と交通路などを送った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ