第108話 父上の後妻
カメロン男爵輸送隊の事務所に着いて、ドアから出て来たのは、いかにも侍女らしき女性。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「こちらは同級生のアキュラ君よ、お話しがあって来て頂きました。用意して」
「はい」
この家は貴族屋敷とは違い、接客用の部屋はない。
「ダイニングでお話ししましょう」
そういって、事務所のカウンターからとなりの部屋に移動して、応接テーブルで向かい合う。
お茶が置かれて、彼女が口を付けてから、俺も頂く。
久しぶりの味…緑茶じゃなくて紅茶の味がする。
馭者とローリーは事務所でお茶を頂いているのだが、なぜかハナは俺の後ろに立って護衛をしていた。
「あぁ、紅茶か~、久しぶり…」
「皇国からの交易品なんだけど、アキュラ君は飲んだことがあるんだね」
「まぁ…ところで、どんな話?」
「アキュラ君も私に話しがあるんじゃなかった?」
「ま~ そうなんだけど…」
カメロン嬢の話は、北部領の領主モーリン公爵が経済的に行き詰まり、国税の滞納だけでなく、配下のスコット子爵への支払いにも遅延が発生しているという話であった。
配下のコート侯爵は、北部の人頭税徴収に際し2割ほど抜いているらしいが、そもそもが治安担当なので公爵も子爵もどうにもできない。困ったのはスコット子爵とその寄子貴族であるジョーンズ男爵、カメロン男爵、アレン男爵の輸送隊を率いる彼らだ。
そこで、いずれ北部領が公爵領から外れる事を想定して、グラハム侯爵家の配下に潜り込めないか?という相談らしい。
「南部領内の輸送は、父上の後妻の座を狙っているアウレット男爵家が握っている。相手は小売りと輸送の両方を扱っているんだ。単なる輸送を請け負う業種ではアウレット輸送隊には勝てない」
「どうすればいい?」
「俺の話は別の仕事の件でね。これから王都では街道整備を行う事になってる。荷馬車2台に材料を乗せて、道に厚み10㎝ほどの材料を敷いていく事業で、主に、無職の人達が人頭税が払えるようにする事業だけど、それと彼らが住む寮の管理も必要なんだけど…やる?」
「えっと、それはライアン侯爵の寄子貴族になれるって事?」
「いや、悪いけど、それはできない。入札方式で公募するから、それに応募してもらう。寄子のように面倒は見れないから、自分で採算を取る事になる」
「厳しいんだね~」
「材料の仕入れは、アキュラホームから。特殊な材料だからね」
「う~ん、Sランクってそういう意味?」
「なに言ってんだか…俺はアキュラホームの経営者であり、戦闘団を率いるアキュラ男爵でもあるんだぜ。(うそだけど…)社員の生活を守って行くって、大変なんだから…」
「えっ、いつの間に経営者になったの?」
「いや、新年早々にね。ライアン侯爵の寄子だから、食わせてもらってるって事さ」
その頃、俺自身は何とも思っていなかったのだが、学園長が飛ばしたスワローレター(手紙を燕に変身させて送る魔法)を受けてライアン爺さんは怒っていた。
「メンバーが揃えば、ウォーカー公爵に殴り込みを掛ける!」
「お待ちください、旦那様。アキュラさまのご意見もお聞きしませんと…」
屋敷に戻ると、父ヘンリーも王家の馬車から降りてくる所だった。
王家の馬車をタクシー代わりに使っているらしい。
先触れもなくやってきた父ヘンリーを交えて、夕食が始まろうとしていた。
「では、頂こうか…」
お爺さんが手を付けたのを開始の合図に、夕食が始まった。
普通に夕食を食べ終えて、お茶の時間になり、お爺さんが話し出した。
「アキュラの襲撃事件への報復だが、人数が揃い次第…」
思わず割り込んだ。
「賠償金で手を打ってください」
「甘い!甘すぎるぞ、アキュラ」
「いえいえ、お金は有っても邪魔にはなりませんから…それよりも動機が分からないんです」
「そういえば、学園のガーショムという講師から手紙が来ていた。彼は歴史研究家で学園ではあまり評価されていない人物のようだが、手紙には『ウォーカー公爵家には反グラハム思想とも呼ぶべき偏見』があって、いつか事件が起こる。と書いてあったな…今となっては手遅れだが、要はグラハム家にとって有益な歴史研究なら支援は惜しまないつもりだ」
いわゆるプロパガンダを学園内、王都内に広めようという事のようだ。
自分の事なので、積極的に動く必要はあるだろう。
「わかりました。接触の機会を作ります」
「うむ」
父ヘンリー
「そうそう、ガーショム講師は学園の職員寮に住んでいるが、時々外に飲みに出るらしく、飲みすぎると判断力を失い、女性に高額商品を買わされたり、ばくちに金を突っ込んだりする事があるそうだ」
「酒に弱いが、酒が好きという事ですか…」
「問題が発生する都度たびに学園長が仲介して、高額商品を買わされた店に行って商品を引き取らせたり、賭場に行って借金を半額に値切ったりしたそうだ。もちろん、それらの店には本人は出入り禁止になったがな」
「学園長も結構、政治力があるんですね…」
「それは違うよ、アキュラ。学園長の背後にいるお爺さんが怖いのさ。ところで、お二人にご報告があり、伺いました。え~と、できればセバスとイスラにも聞いて頂きましょうか…」
「セバス! イスラ!」
外で待機していた見習いのハナが走っていったようで、2人が居間にやってきた。
続いてエミリーが入室すると、お爺さんと俺のお茶を、熱いお茶に差し替え、父上にもお茶を出す。
「えっと、俺に初めて恋人が出来た…」
「は?」
再婚なのに何を言い出すのかと思えば、宮廷に弁当を運んでくれるオリビア・アウレットという1児の母に惚れたそうだ。
「つまり、アウレット男爵家の出戻りと再婚したいという話なのか?」
ライアン爺さんは物分かりがいいので、決して怒っている顔ではなく、むしろ『恋人』という表現に好感を持ったようだ。
「そうです…アキュラはどう思う? 反対か?」
「そんな事はないけど、近づきたいとは思わないかな…ごめん」
ライアン爺さん
「アキュラはなぜかシャーロットになつかなくて、侍女も困っていたな~」
「そういえば母上も、オリビアさんも…あの匂いが好きになれないんだよ…」
「あの香水とかいうやつか…」
父ヘンリー
「え? あの香水が原因だったのか…だから他のハウスメイドやランドリーメイドになついていたのか…」
「うん? いや、ただ石鹸の匂いが好きだったんだけど…迷惑を掛けたみたいだね」
「はははは…」
みなさん許してくれたようで、何よりです…




