第107話 魔法実習
361年4月20日
学校へは毎日通学しているのだが、隣のトンプソン嬢がうっとうしい。
しかも、こういう日に限って父上からの呼び出しが無い。
今日の1時限目は『2C教室-魔法2』で、魔法の授業。
「これまで魔法師は、遠距離攻撃とはいえ、距離を取り過ぎると躱((かわ)されてしまうため、前衛の影に隠れるなど、中間距離の取り方が難しいとされて来た。まして詠唱魔法は発動までに時間が掛かり、魔法の威力が弱い」
「そこに登場したのが、ダンジョンの宝箱から出たスクロールだった。発動は一瞬で、威力も詠唱魔法の倍はある。そのため、今はスクロール全盛期と言える時代だが、半面、コストが高い」
「結局、コストに縛られて、魔法の練習はままならなくなり、魔力量や魔力濃度が上がらない。そんな負の連鎖を断ち切るのが、生活魔法の使用で魔法練度を上げる方法だ」
この講師、なかなかいい事を言う。
いや? これって『魔法の基礎』という教科書に載っている事だった。
「1年生で習得する生活魔法のうち、ファイアーは火、ウォーターは水だから、これをとにかく使う事。そう教えてもらったはずだが、みんなは練習しただろうか?」
「今日から詠唱魔法を使って、練度をあげる授業になりますから、今から私が言う事をしっかりメモするように!」
『内なる精霊に告げる!』という発動キーが教えられて、各自、呪文を考えた。
1時限目が終わるまでには各自呪文の案を完成させて、休憩となった。
俺はいつものようにトイレで用を足したあとは、薬草園を眺めて時間をつぶす。
総合学科2年の時も、先行学習をしていた事を思い出して、なつかしさに浸る。
2時限目は、詠唱魔法実習。
演習場で動くカカシを相手に、詠唱魔法を当てる授業だ。
鐘が鳴って演習場に行くと、職員がカカシをセットしていた。
この学園には、講師以外の仕事をする職員がいて、講師の補助をしている。
講師の説明によると、1体目はまっすぐに向かってくる。
2体目は、真横に逃げる。
3体目は、ジグザグで向かってくる。
4体目は、自由行動。
このカカシすべてに魔法を当てるのが、今期の課題。
4体を相手にする訳ではなく、1体目に当てれば、2体目が動く。
順番通りに動くから、それを想定して詠唱時間を稼ぐように位置取りをしなければならない。
「では、私が見本を見せますから、攻略のヒントにして下さい」
そういって、講師が右手を上げると、1体目のカカシが動き出した。
講師へ進みだしたカカシに、光の玉が当たった。
(え? 生活魔法も有りなのかよ)
カカシが動きを止め、2体目が横に動き始める。
そこへ火の玉が当たる。
(これはファイアーなのか、それともファイアボールなのか…)
カカシの移動速度を考慮して、予想位置に飛ばして当てるむつかしさか。
「当たるまで、繰り返し往復の横移動をしますから、しっかり自分の魔法速度を把握してください」
次はギザギザのカカシを見ながら、ぶつぶつ独り言を言ってから
「ファイアーアロー!」
魔法名を叫ぶと火の矢が飛んで、カカシに当たった。
燃え上がったカカシに、ウォーターで消火している職員に隠れて、再び詠唱をしている講師。
間隔を取るため、走りながらカカシに向かって魔法を打つ。
「ファイアーアロー!」
だが、自由移動のカカシとの距離が離れ過ぎていて、躱されてしまう。
再び走り始めた講師に迫るカカシ。
「ファイアボール!」
最後は火の玉のカウンターがカカシに当たって、攻略終了になった。
いつのまにか横に来ていたカメロン嬢が
「火属性って得よね…」
言いたい事は分かる。
おそらく、ファイアーとファイアボールの区別が付けにくく、誤魔化す事も可能だからだ。
「ところで今日、帰りに話しができるかな?」
「い、いいけど…」
(顔を赤らめて返事すんなよ。聞いてる奴が勘違いするだろ)
「まっ!」
近くにいた面倒なトンプソン嬢が反応した。
講師
「ではまず、アキュラ・グラハム君から」
「はい」
右手を上げ、動きだしたカカシに向かって照準を合わせてつぶやく。
「内なる精霊に告げる! 我が怒りを、炎の矢に……ファイアーアロー!」
俺の魔力濃度が高いため、職員が火を消す間もなく、十字部分に穴があいてしまった。
そして、横方向に動くカカシ。
「内なる精霊に告げる! 我が身を守りし大地の力を……アースウォール!」
進行方向に土の盾が生えた。
これでカカシは自分から盾に当たりに行くだろう。
「内なる精霊に告げる! 我が意を示す水の矢と……」
詠唱は終わっているので、ジグザクのカカシに向かって照準を合わせ
「ウォーターアロー!」
4体目のカカシは自由行動だが、見える現象に反応しているのかを確かめたくて風を使った。
「内なる精霊に告げる! 我が思いに応え、風を刃にして打ち出せ!」
インテリジェンスロッドのアクティブレーダーを使い、魔法に照準追尾をON。
「ウィンドカッター!」
目に見えない風のカッターが、俺に向かって来たカカシの首を落とした。
カカシが直進してきた所から判断すると、風は認知できなかったようだ。
照準追尾が自動的に対象を追尾するのか、確認できず残念な結果になった。
『パチパチパチパチ』
ひと呼吸置いて、拍手がおこった。
講師
「さすがSクラスのアキュラ・グラハム君。今期の魔法実習の評価はSです」
「ありがとうございます」
見ると、補助講師の職員が慌ててカカシを交換していた。
「アキュラ君、見直しましたわ…」
トンプソン嬢のウインクに、正直、鳥肌が立った。
午後はいつもの『グラウンド-基礎体力強化』であった。
ランニングがほぼ終わるころ
「あぶない!」
そんな声が聞こえたと同時に、背中に熱気を感じ、シャツが一部焼けて背中に火傷を負った。
熱いというより肌が痛かった。
講師が急ぎやってきて、ヒールポーションによる緊急対応を受けたのだが、焼けた運動着が元に戻ったのには、驚いた。
どうやらダンジョン産のヒールポーションを使ってくれたようだ。
鳥に向けたファイアーアローが当たってしまったという言い訳をするトミー・ウォーカーだが、講師に取り押さえられて、貴族法違反で警備の騎士団に引き渡された。
そもそも、同じクラスではない奴がなぜグラウンドに居たのか、という疑問に明確な回答はされていない。
魔法の授業ならみんな杖を携行しているが、まさか単なるランニングで杖を携行しなくてはならないなんて、思いもしなかった。
この事件により、午後の授業は打ち切りとなり、全員が更衣室で制服に着替え教室に戻った。
だが、学園内で襲撃事件が発生したため、運営に混乱が生じ、帰宅させるのか自習なのかの指示もない。
少しして、学園の事務方及び教職員を含め、対策会議をする事になり、全員に帰宅指示が出た。
教室をあとにした所で声を掛けて来たのは、例のカメロン嬢だ。
「アキュラくん!」
襲撃事件の混乱で、彼女に声を掛けていたのを忘れていた。
ローリーとハナは1年生なので授業中には護衛任務はできないが、行き帰りの馬車では同行している。
「ちょっと相談したい事があるんだけど、家に寄って行ってくれない?」
俺から声を掛けた事もあり、断りづらい。
「え~と、家ってどこ?」
「第5区の保税倉庫の近くに輸送隊の事務所があって、今はそこから通っているのよ」




