第105話 見習いコンビ、始動!
宮廷から屋敷に戻りながら、考えた。
魔力波が音のように振動を伝えるものなら、空気中に有る魔力を媒体にしているのだろう。
もしそうなら、魔力溜まりなどの場所ほど伝達距離は伸びるのだろうか…。
少なくとも、地表に近い方が空気中の魔力の濃度は安定しているように思う。
周波数と波長の関係は電波と同じはずだから、魔力波の周波数が3GHzの時、波長は10㎝。
1.5GHzの時、波長は20㎝になる。
この距離を水晶内でアンテナとして受信している気がする。
隣国と干渉しない周波数で、水晶の直径を超えない事を条件とすれば、周波数は高い方にずらす事になる。
4GHz(7.5㎝)~5GHz(6㎝)に設定するか。
水晶のような球体なら、どんな距離でも内部で距離は合わせられる。
メカは単純な構造だから、問題は魔法陣を布に書けるかどうか…。
屋敷に戻ってきた。
寒いからと、アキュラホームで洗濯物を干していたエミリーを見つけて、一緒に3階の自室に戻り着替える。
上着を脱いだところで、エミリーを抱き締めて、そのままベッドのところまで連れていき、押し倒した。
エミリーは何も言わないけれど、俺の顔を見ながら、『なにか辛い事があったんですね…』そんな事を言いそうな表情で俺を見ている。
今は冬なので、エミリーの着ている服が半端なく多くて、ごそごそとまさぐってみても、肌に触れる事ができなかった。
スカートの中でさえ、もこもこしている。
「脱ぎましょうか?」
かわいい事を言ってくれるが、衝動が治まって、落ち着いて来た。
「いや、もう大丈夫だ。また昼食を食べ損なった。なにか簡単なものを用意できるかな?」
「はい!」
そう言って、元気よくベッドから起き上がり、階下へと行ってしまった。
アキュラは俺と同じ、情けない男だ。
母上が帰国して11年が経つ。
幸せになっていて、何が悪いというのか…。
そんな気持ちを、俺の奥深い所にいるアキュラに伝わるように、自分の中に閉じ込める。
気分を変えて食堂に下りると、ローリーとハナの見習いコンビが壁際の置物のように立っていた。
「どうした,やる事がないのか?」
「はい。一通りの事は教わりまして…」
「じゃあ、お爺さんの事業の状況を知りたい。まず、ライアン研究所の決算資料をセバスに貰って来てくれ」
「はい!」
「ハナは警備隊の費用明細と、寮の運営費用の明細を作ってくれ」
「はい!」
俺の右腕、左腕となって働くなら、コストがどうなっているかくらいは調べられないと使えない。
エミリーが野菜スープと白パンを持って来た。
食事が終わるタイミングを計ったように、セバスとローリーが食堂に現れて
セバス
「アキュラ様、確認をしたいのですが…」
「何かな?」
「研究所の『けっさん』というのは、何でしょう?」
「あぁ、言い方が悪かったね。支出と収入の明細だ。昨年分は既に報告されているのだろう?」
「それがその…発足時の計画書は侯爵様が作られましたが、報告は今まで頂いた事はありません」
「そうなのか? 今年からライアン研究所は私の管轄下にある。今までのような報告なしでは困る。悪いが2人で研究所に行き、支払いに見合う領収書や記帳がされているか、給料なども同様だ。また、収入も同様に、何をいくつ、誰に、いつ売って、いつ代金を回収したか、記録されているかを確認してきてくれないか?」
一生懸命にメモをしながら、返事をするセバス。
「しかし、所長がどのような反応をされますか…」
「あぁ、侯爵の愛人だからと今まで尊重されてきたからね…でも公式に第2夫人でもなく、側室でもないんだ。まして、お金の事ははっきりと把握しないと予算が組めないから。『有れば』でいいから確認をしてきてくれないか? 何かあれば、俺が行くから…」
「はい。分かりました」
ハナは今頃、リック隊長とルーシー副隊長とともに費用明細を確認してメモにしているだろう。
寮は、仕入れについては必ず記録にしているはずだ。
以前に壁に貼られたローガンのメモを見た事がある。
----- ----- ハナ視点 ----- -----
夕食後、私とイスラさんがローガン寮長を訪ねて、会計の記載に関する調査に協力をお願いしました。
ダンジョンの攻略で戦闘部隊がいないため、食事の準備や片付けに余裕があると言って協力してくれました。
アキュラ様は、ローガンさんは経験豊富で会計の事もある程度の知識があると言ってました。
私はクリップで止めてある領収書の束を日付け順にノートに貼って、支払い明細書と比べました。
警備隊と違うのは、寮の納入業者は1週間ごとの支払いだった事です。
その日に納入された品物は、ローガンさんが走り書きでノートに書いていましたが、金額が分かりません。
生鮮野菜やお肉などは、毎日値段が変わるのに、これで週単位の金額が正しいかどうか計算できません。
確かに、週単位ならお金は毎日払わなくてもいいんですが、数が多くなりすぎて計算もむつかしいです。
「ローガンさん、先週の領収書の金額、本当に正しいんですか?私には分からないので聞きたいんですけど、いいですか?」
「ああ、もちろんだとも」
「先週に買ったものは、確かノートに書いてありましたね?」
「え~と、これが買った商品の明細で、先週はこんだけ持ってきてもらったんだが…」
「このダイコン、3本はいくらですか?」
「え? それは、わかんねぇな…」
「じゃあ、この日に買ったものは全部でおいくらでしたか?」
「いや、だから…それはわかんねぇな…」
奥さんのゾーイさんも、主婦の経験で、おかしいという事に気がついた。
「ちょっとあんた! いい奴だって言ってホイホイ持って来たもん買ってたけど、値段も知らずに買ってたのかい?」
どうやら、費用は誰も高いとは言わないから、こんな事になっていたみたい。
屋敷の料理人が持ち込む材料は高いかも知れないけど、ご主人たちの食べる料理と、ここのは全く違う。
ローガンさんも、何がいけないのか、理解できたみたいだった。
「寮長なんてみんなから言われて、浮かれちまってたみたいだ。ゾーイ、すまねぇ。お前が言ってたように、自分で買いに行けば良かったんだよな。不精した俺が悪い。イスラさん、どうしよう?」
ハナ
「私、アキュラ様に相談して来ます!」
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息を切らせてハナが部屋に飛び込んで来て、寮長のローガンが食品卸し業者に騙されている事を話して、どうすれば良いか、相談したいと言って来た。
「じゃあ、寮に行こうか?」
「はい」
寮に行き、寮長とともに耐熱レンガが組まれた食品倉庫へ行き、中に入った。
「ではまず、このダイコン、いくらなら買います?」
寮長は、いきなり何を聞くのか?という顔をしていたが、それでも真剣にダイコンを見て、金額を言った。
「つまり、買い物はそれが妥当な金額か、自分が作ろうとしている料理にふさわしい品質の物か、自分がほしいと思う物かを確認して買うものだと思うのですが、どうです?」
「えぇ、持って来てくれるって言うもんで、つい、不精しちまいましたから、明日からは買いに行きます」
「必ずしも、市場で買う必要はありません。この屋敷は防壁に近い郊外にあるので、近くには農家がたくさんありますから、とれたての野菜を、旬の野菜を買ってくる事は可能ですよ。何もケチってほしい訳ではないんです」
「なるほど…」
「近所で手に入らないものだけ、王都中心部で買ってきてはどうです? 新鮮でいい品物を、少し高く買ってあげれば、農家の人も、食べる人も喜びますよ」
『タン』
「分かりました!やってみます!」
自分の脚をたたいて納得したようすのローガン。
ゾーイもニコニコしていて、良かったんじゃないかな。




