第104話 同じ運命を背負う少年
学園から宮廷まで移動する途中、昼食を取りそこなった事を思い出した。
途中でなにか食べて行こうか悩むが、初めての店に飛び込む勇気がない。
そのまま王城に着いてしまった。
城壁の警備兵に侯爵家のペンダントを見せると、今回は行き先も聞かれず、待合室へ案内された。
身分証代わりの学生カードを当てて、面会申請を入力する。
『ヘンリー・グラハム通産官』
5分ほどすると、補佐官のベーカーさんが警備棟の待合室へやって来た。
宮廷へ整地された坂道を上り、騎士団員の目視確認を受け、階段を2階まで上る。
『コンコン』
「お連れしました」
「入ってくれ、アキュラ」
「失礼します」
「呼び出して済まない」
ニコニコ顔で話す父上。
「何かいい事でもありましたか? 父上」
「お前の事だよ、アキュラ。Sクラスだったそうじゃないか」
「はい、まぁ、父上の子ですし、おじい様の孫ですし…」
「もっと自慢したらどうなんだ? 謙虚すぎるのも嫌みになるぞ」
「ははは。でも、所詮は学園の試験ですからね…勉強がきらいじゃなきゃ、誰でもできますって」
「でも数学講師の話では、解答に書かれた数式を理解するのが難しい、お前の解答が逆に勉強になるんだとか…俺の遺伝とは思えんな」
「あらら…」
「どうだ、なにか褒美はいらないか?」
「いえ、いまのところは…」
「そうか…ところで」
父上の顔が笑顔からきびしい顔になった。
「シャーロットからお前に通信の魔道具が届いている。例の手紙に書いてあった物だ。隣国に伝わるアーティファクトのコピー品だそうだ。本物の土台に予備の魔法陣の布が入っていて、それを使って作られたものだ」
「水晶は割れても、同じ大きさなら問題はないらしいが、魔法陣の布が水晶に密着する必要があって、しわが出来て付かない所ができると起動はしないらしい。魔石は入っていないから、入れて使ってくれと書いてあった」
手紙を封書ごとくれたが、箱の中に投げ入れた。
おっと、逆に箱から綿にくるまれた土台を取り出して、魔法陣の布を観察する。
5点で支えていて、その接点になっている部分をメモした。
そっと魔法陣の布を取り出して、観察する。
「良かったら、私の机をお使いください」
ベーカーさんの優しいお言葉。
「では補佐官殿の机をお借りします」
改めて魔法陣の布を広げて、観察する。
外周には魔力波の周波数、1.5~2.7GHzがチャンネルとして書かれている。
電波でいうところのUHFと呼ばれる領域。
計算式には変数の代わりに『5』が入っている。
つまり、1.5、1.8、2.1、2.4、2.7の『2.7GHz』が設定されているという事だ。
第2円周部は、魔力波の強さと書かれている。魔力濃度なのか魔力量なのかは不明。
計算式には変数の代わりに『3』が入っている。
水晶の大きさはアンテナの長さ、魔法陣から出た5つの接点は発光部で、結像の距離も水晶の大きさが絡んでいる気がする。
仕方がない。魔石を入れて起動してみよう。
「魔石はある?」
「あぁ、用意した。これをここにセットすればいいらしい」
魔法陣の布を元の位置にセットして、水晶を上に置く。
横にある鍵穴に、同梱されていた鍵を入れて回すと、水晶に5の数字が映った。
そして、次に3の数字が映る。
と言う事は、魔力濃度にせよ、魔力量にせよ、3の強さにセットされるという事だ。
しばらくすると、『呼び出し中』の文字が表示された。
次に『同期中』と表示されて、うっすらと女性の顔が見えはじめた。
「アキュラ! アキュラなの?」
「…アキュラです」
「大きくなったわね~ お母さんを覚えてる?」
お母さんと称する女性の右肩には、知らない男の大きな顔が映っていた。
「初めまして、スミス・ウィルソンと言います。君のお母さんの旦那さんになりました」
ニコニコしたその男の顔を見せられて、思わず鍵を回して抜いていた。
『ブン!』
通信機のスイッチが切れた…
「俺の事を捨てておいて、何を勝手に幸せになってんだよ!ふざけるな!」
うしろから父上が俺を抱き締めてくれた。
「アキュラ落ち着け! 俺がいるから!」
元のアキュラの感情が、俺の奥から湧き出て来て、俺を支配していた。
悔しそうに唇を震わせて泣いていて、俺にはどうにも制御できない。
補佐官だけでなく、奥からオリビア・アウレットまで出て来て、おろおろしている。
しばらくすると、元のアキュラは消えていた。
(どうもアキュラは石山章と同じ運命を背負う少年だったようだ…)
「父上、ごめんなさい。もう大丈夫です…」
「そうか…済まなかった。シャーロットの顔を覚えていないと言ったお前だったが、心に傷を負っていないはずが無かった。俺のミスだ。だが、もう一度言うぞ。俺が付いているから!お前は一人じゃない!いいな!」
父上の方が泣きそうになっていた。
いつも冷静なこの人が、こんなに熱く言ってくれているんだから、アキュラよ、安心しろ!
「父上にお願いがあります」
「なんだ…」
「通信の魔道具を研究所に送って下さい。おそらくですが、複製できます。期限は1か月」
「は?1か月で複製できるというのか?」
「だって、研究所では魔法スクロールを複製できるんですから、この魔法陣も複製できますよ」
「まぁ、そう言われれば、できそうな気がしてきたな」
「ですが、完全な複製品なので、母上の所にしか通信できないものです。そのあと国内通信に利用できるように改造してみるつもりです」
「分かった」
「本当に何も思っていなかったんですけど、どうやら勝手に、寂しい母上の姿を想像していたようです。でも父上に彼女が出来ていて、助かりました」
「どうして俺に彼女が出来ていて助かるんだ?」
「だって、『親子ともども寂しい思いをしてます』なんて、ぼろ負けじゃないですか。報われませんよ」
「はははは。ま~な」
「まぁ、お前に笑顔が戻って良かった。一時はどうなる事かと心配したぞ」
「すみません、まだまだ子供で…これからも父上に助けてもらう事になりそうです。これで失礼します」
「あぁ、またいつでも立ち寄ってくれ」
今回も昼食をご一緒することなく、宮廷をあとにした。
ベーカー補佐官
「それにしても、数学講師がアキュラ様の解答に書かれた数式を理解するのが難しいとは…」
「いや、あれは嘘だ。もちろん数式の理解に相当時間が掛かったのは事実だが、その解答が逆に勉強になると言ったのは私だ。…あいつは紛れもなく天才だと思う」




