第103話 3学期がなくなった
3学期の初日4月1日。
入出門ゲートに学生カードを当てると『2A教室-1学期の説明』と表示された。
2Aクラスは2階の中央。
職員室や教務室は1階で、校庭や入出門が見える位置にある。
教室内の席は、従来とは違い窓側からの席順のようで、俺は1列目窓側の指定席であった。
3人席だが真ん中は使われない。これは貴族への配慮として当たり前の事だ。
空白席を挟んで隣の席には、色白、金髪の女生徒が座った。
ん?男女共学は来期からのはずだが…。
実母と同じリモージュ王国の特徴を有するのは、ロレッタ・トンプソンだろう。
講師が入って来たが、顔見知りのネイサン・ジラール学園長である。
「おはよう!諸君。転入生もいるので自己紹介をしておく、私は当校学園長のネイサン・ジラールだ。
基本的に窓側は貴族席で2人ずつ。中央は女子席で3人。廊下側は男子席で3人になっている」
「まず、窓側、前列から4段目まで、自己紹介をお願いする。アキュラ男爵から…」
俺は来期の学校編成で不自由がないようにと、ライアン侯爵配下のアキュラ男爵として登録されたのだ。
「アキュラ・グラハムです」
「すまん。アキュラ・グラハム男爵は本来Sクラスだったのだが、ひとりだったので、Aクラスに入れさせてもらった。続きをどうぞ」
「…そういう訳で、時々、授業を受けない日もありますが、よろしく」
「ロレッタ・トンプソンです。リモージュ王国トンプソン公爵家からの留学生です。よろしくお願い致しますわ」
「西部エリア、アーサー・ミラー。ミラー子爵家からの派遣です」
「同じく西部エリア、アメリア・ミラーです。よろしく」
「北部エリア、レジー・スコット。スコット子爵家からの派遣です」
「同じく、クレア・スコットです。よろしく」
「東部エリア、ハンター・トーマス。トーマス子爵家からの派遣です」
「同じく、エイヴェリー・トーマスです。よろしく」
「貴族席は以上だが、本来は北部エリアのジュリア・カメロン男爵嬢が、今期だけは例外的に平民席に座ってもらっている。もし、本人たちが良ければ、同じ北部エリアのスコット子爵の机を3人席にして座ってもらっても良いし、2学期にはクラスの定員を減らして対応する予定だ。どうする、カメロン男爵嬢」
「あ、いえ、私はこの席でも大丈夫です。左右ともに女性ですし…」
「すまんな。今も少し言ったが、席は学期ごとの成績によって変動する。貴族席は貴族席の中で移動するし、平民席は平民席の中で移動する。成績の良い順に前の段に座る。従って、4段目の者は頑張らねばBクラスに入る事もある」
「何か質問はあるかな?」
「アキュラ・グラハムです。えっと、3学期のつもりで来たのですが、いきなり2年生ですか?」
「あ~ ライアン侯爵は編成会議にほとんど出て来ないので、決定事項を文章で通知していたのだが、それさえ伝えていないようだね~。要は来期を7月からとすると1週間で共学に変更する事になり、新入生や転校生の対応が難しいという意見が大勢を占めてね。そこで本年度の開始を4月からとしたのだ」
「そもそも、在校生にDランク評価者がいなかったので、全員進級させても問題は無かったからね」
「他に質問はあるかな?」
「ハンター・トーマスです。私達は貴族の中で最も成績が悪かったという事でしょうか?」
「いや、西部エリアのミラー子爵家。北部エリアのスコット子爵家。東部エリアのトーマス子爵家の方々(かたがた)は、全員、域外からの転入生であり、それぞれ送付頂いた答案用紙の採点結果と、派遣されている講師からの推薦状に基づき、Aクラスとしたまでだ。来期からは今期の成績でクラス判定と席順が決まるから、今期のテストを頑張って頂きたい」
「分かりました」
(問題と答案用紙を送付したのか? それじゃレベルなんて分かるはずが無い)
「悪いが時間がない。平民席の者は各自、自己紹介でもしてくれ。あと15分後には、次の授業というか魔法力判定とその次には体力測定になるから、準備も忘れないように、え~と、カメロン嬢の隣!君が今期の号令係だ。よろしくな!」
「起立!礼!」
「よろしい!では、解散!」
休憩中はいつもトイレに行き、用を足したあとは薬草園の風景を眺めて時間をつぶす事にしている。
このあとは、いつものように水晶玉による魔力判定があり、1番目で測定を終えた。
2番目に測定を終えた、隣の席のロレッタ嬢が話しかけてきた。
「あなたはこの学園の創設者、グラハム侯爵の関係者ですの?」
「はぁ、そうだけど…」
何と言う上から目線の態度なのか…そして3番目に終えた北部領カメロン嬢。
「グラハム男爵! 昨年末はお助け頂き、ありがとうございました」
「いえ、域外輸送隊を持たない南部領の者としては、カメロン男爵とはこれからも長くお付き合いするでしょうから…」
「そう言って頂けるとありがたいです」
「それにしても、北部領は中学を延長したので、もう学園には派遣して来ないかと思っていましたが…」
「あぁ、私は既に1年こちらで勉強していましたし、王都にも輸送拠点がありますから」
「そうか…北部用の保税倉庫もあるから、あの周囲かな?」
「そうです」
次に測定している西部領のミラー子爵家の兄妹を見て、アキュラはカメロン嬢に聞いてみた。
「どうして兄妹なのに、同学年に転入してきたのか、知ってる?」
カメロン嬢は驚いた表情で
「それは、あなたと人脈を作りたいからに決まってますでしょ!」
いや…もう魔物素材の取引契約も終わっていて、なぜ人脈作りなのか不明だ。
「スコット子爵家やトーマス子爵家もか?」
「そもそも北部領スコット子爵家はライアン侯爵の奥様の御実家。わが男爵家の寄り親でもあります。知りたいのはわたくしの方ですわ」
スコット子爵家は『犬ぞり』研究が特徴だが、北海沿岸以外では使えない。
東部領トーマス子爵家と言えば、農耕馬を使ったダンプカーみたいな輸送隊が有名だ。
そして、確かに両家の意図は、考えても分からないが、南部担当の輸送隊である事には違いない。
ここに居ても、絡まれるだけと思い図書室に行く事にする。
カメロン嬢もついて来ようとしたが、講師に止められた。
「え~、アキュラ君が行くから私も…」
「彼はSクラスなので、自由参加です!あなたは違うでしょ!」
それを聞いて、笑いをこらえながら、図書室へ向かった。
図書室にはガーショム講師が居た。さすが歴史オタク。
「ガーショム講師、関係ない事を聞いてもいいですか?」
「ん? なんです?」
「あと体力測定だけなんですが、必要ですかね」
「あ~ アキュラ君はSクラスでしたね。では、私が測定係をしましょうか…」
そう言って、運動場に出て、腕立て伏せ、上体起こし、懸垂、反復横とび、長座体前屈で柔軟性を確認して、この日の予定は終了した。
「ガーショム講師、ありがとうございました」
「いいえ、Sクラスの特権ですから…」
と言い、にっこり笑って、測定結果を持って職員室に向かって歩いて行った。
屋敷に戻ろうと、入出門ゲートにカードを当てると、ビー音とエラー表示。
カードを見るとガーショム講師からの面接依頼が入っていた。
食堂に行くまで運動場を横目で見てみると、各クラスの体力測定で新しい発見があった。
女性講師が1年の女子を集めて指導しているのは、ゼスチャーからして、胸下着の事らしい。
数え年で15~6歳だから、まだ、下着の適切な着用をしていないのだろう。
特に平民クラスでは、平気で揺らしている女子もいる。
面接機にカードを当てて、しばらくしてガーショム講師から言われた。
「宮廷子爵ヘンリー・グラハム通産官からの伝言です。帰りに宮廷に来てほしいとの事です」




