第102話 連邦暦261年3月
朝起きて顔を洗ったあと、エミリーから抱きつかれ動けない状態が1分ほど続いた。
解放されたあと準備運動をして、屋敷の周囲を5周ランニング。
部屋に戻ってシャワーを浴びる。
父上の専属メイドが、スープの味見(毒見?)で毒殺された事件が、朝のエミリーの行動につながったのだろう。もちろん、迷惑じゃないけど。
朝食前の料理の毒見が追加され、エミリーと執事見習いのローリー、侍女見習いのハナが毒見役となった。
3人の緊張した顔を見て、悪いと思ったが、笑いを我慢できなかった。
そもそも料理人たちの間で、一度、毒見をしているのだから、イベントみたいなものだ。
「セバス!いい加減にしなさい!」
さすがに3日目におじい様が切れて、毒見は終わった。
朝食が済むと、アキュラホームへ行き、集成材で娼館の骨組みを組んでみた。
内部構造は偵察組に調べてもらったので分かっている。
確認を終えると分解して、再度、パーツにして保管しておく。
これを2棟分準備しなければならない。
俺と父ヘンリーで西部エリアに行っている間に、警備隊の人員24名が採用されて、稼働が始まっていた。
今日は、エミリーに4人分のサンドイッチを作ってもらい、警備詰所に挨拶に行こうという事だ。
いままで無人だった警備詰所に人は居るが、私達がそのまま街道に出ると思っていたのだろう。
詰所のドアをノックすると、中ではバタバタと慌てたような音がした。
「はい、警備詰所です」
外からではなく、屋敷側からノックしたので、すぐにドアが開きリック隊長が出てきた。
「ご苦労さまです。ご挨拶がてら、軽食をお持ちしましたので、ご一緒にいかがですか?」
「ありがとうございます、アキュラさま」
詰所は後ろに仮眠室のある比較的広い空間だが、全員が後ろの部屋に移動するわけにはいかないから、窓口のある門扉側の交番所のような部屋で、エミリーに入れてもらったお茶で、サンドイッチを食べた。
「警備員の採用状況はどうだったのですか?」
砦に勤務している者60余名の中から26人を候補に採用面接をしたとの事だった。
既に12名はこちらに出勤していたので、移籍が完了すれば隊長以下30名になる。
この2日中には、騎士団員の装備を返却して、警備兵としてこちらに来るだろうとの事。
現状の警備隊の構成は以下の通り。
リック隊長
ルーシー副隊長
第1小隊はスタンリー小隊長:4名
第2小隊はエリオット小隊長:4名
第3小隊はグレイソン小隊長:4名
移籍準備中:14名(3小隊を編成予定+2名予備)
門番予備2名
隊長2名、隊員14名 合計16名→30名
05~13時、13~21時、22~05時の3交代制。
元々彼らが考えた人員計画では、4人編成3交代の12名に、自分達隊長が2名の予定だったのだが、警備隊寮は30人の定員で余裕があったので、侯爵から変更の指示があったとのこと。
彼らには『休暇』という考えがないうえに、護衛任務や要人警護などの任務も考慮されていなかった。
一方、屋敷のライアン邸戦闘部隊は、すでにライアン爺さんと共にダンジョン攻略を実践訓練として行っており、手に入れたダンジョン産のヒールポーションを惜しみなく使い切っているそうだ。
ダンジョン産のヒールポーションは、30分ほど時間を逆行して回復させる『リタイムキュア』らしい。
だから時間をかけず、一気に回復する。
この効果が、本物のダンジョン産の証しであり、薬草から作られた物との違いだと説明を受けた。
驚異的だが見える範囲(皮下脂肪)までの効果で、折れた骨が引っ付く事はないそうだ。
まぁ、飲んだ場合はどうなのかは不明だが…
当然だが、これを惜しみなく使う侯爵邸戦闘部隊の意気は上がるに決まっていた。
しかも、宝箱から出た物は公平に分配される。
3日ほどで帰還して、風呂で清潔な状態に保ち、休養を取り、翌日は寮で宴会が始まる。
持ち帰ったものが、金貨、銀貨、武器、防具の類であっても、人数分等価に分割して『くじ引き』で決める。
そのあとの売買は自由。
但し、魔法スクロールだけはスクロール研究所に送られる。
この訓練は魔法スクロール収集の目的を持つ活動なのだ。
俺は3学期直前にして、ようやく詠唱魔法を使えるようになった。
ルーシー副隊長のお蔭だ。
ルーシーは、エミリーの修行先であるクレメント男爵家の次女で、幼い頃から魔法師に憧れがあったそうだ。
現実には、エミリーを推薦した父親と、それを信用し採用するライアン侯爵との信頼関係が効いて、学園に入学する前から魔法訓練は受けていた。
今のところ、俺の使える詠唱魔法は4つ。
「内なる精霊に告げる! 我が怒りを、炎の矢にして打ち出せ!ファイアーアロー!」
「内なる精霊に告げる! 我が身を守りし大地の力をこの地に示し給え!アースウォール!」
「内なる精霊に告げる! 我が意を示す水の矢となって敵を貫け!ウォーターアロー!」
「内なる精霊に告げる! 我が思いに応え、風を刃にして打ち出せ!ウィンドカッター!」
残念ながら、魔力濃度も魔力量も平凡な俺では、脅威になるような威力ではなかった。
だが、木の実を落とすウィンドカッター
暗闇の先を確認できるファイアーアロー
お花摘みを隠すアースウォール
焚火を消すウォーターアローは、それなりに便利だ。




