表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

二回目のデート


 家に帰ると、俺は悪友の木村貴史に電話をした。

「貴史? 今いい?」

『いいよ。そういや、デートどうだった?』

「それがさぁ。俺は、単なる好奇心から長谷部さんをデートに誘ったんだけどさぁ、彼女、俺と付き合ってるつもりみたいなのよ」

『いいじゃん』

「いいのかな? ただの好奇心だよ?」

『……龍輝。お前さ、花菜さんと散歩したい?』

「どうしたん、急に」

『いいから答えろよ。花菜さんと散歩したいのか?』

「したいよ。一緒にいたい」

『オーケー。金賞だ。お前は花菜さんと付き合う権利がある』

「わけわからん。ちなみに、『散歩は嫌だ』って言ったらどうなるん?」

『それは銀賞。それもアリだ』

「アリなのかよ! やっぱりわからん」

『『縁は異なもの味なもの』って言うだろ』

 どうやら、俺の悪友は、その名に恥じるとてもいいヤツのようだ。いや、長谷部花菜さんのことをずっと『花菜さん』呼び。やっぱ悪友だな。

 その日の夜、俺は『幽閉された炎の魔女』下巻の執筆に入った。相棒のノートパソコンを一週間ぶりに起動させる。デートがうまくいくかどうか、長谷部さんが直前に断ってこないか、この六日間は気が気ではなかったのだ。

 懸案事項がひとつ消えたお陰か、きょうは六千字も書けた。最高記録ではないが、ベターな状態だ。花菜さんの感想を参考に、いいものが書けたと思う。これがゾーンというやつだろうか?


 翌日の学校。

 俺と花菜さんは、一緒に昼食をとることになった。

 昼食中の話題は、ファンタジー以外ならなんでも。ファンタジーは極秘だからね。

 月曜は、俺の家族構成などを話した。俺には、両親以外に一緒に住む家族は、お婆ちゃんと生意気な妹がいる。だが、花菜さんは自分の家族構成について、あまり話したがらなかった。彼女の両親が離婚していることもあり、俺も深追いはしなかった。

 花菜さんが家族構成を話したがらない理由は、次のデートで判明する。


 翌週の日曜日。

 美術館を巡る、俺と花菜さん。

 きょうの花菜さんは、黒のワンピースにジャケットを羽織っている。市営の美術館は、弱暖房中のようだ。

「わかんないね」

 と俺。

「わかりませんね」

 と花菜さん。

 さっきからずっと、この会話が続いている。

 美術館は、先週から『現代アート展』を開催中なのだ。俺と花菜さんの目の前には、科学雑誌に載ってそうな幾何学模様の絵が飾られている。

 俺と花菜さんの後から来るおじさんが、「なるほどなるほど」「ほほう、これは新しい」「これはダメだ、全然わかってない」などと言い続けている。

「本当に分かってるんだろうな、ジジイ」

 小声で俺が言った。

「『ジジイ』なんてSNSで発言したら、炎上しちゃうかもよ」

 小声で花菜さんが反応した。彼女は笑っていて、つられて俺も笑った。

「ヤバい、それはヤバい。出版社がお断りしてくる」

「先生、自費出版があるよ」

「それはそれでヤバい」

 ああヤバい、気をつけないと。

 ジジイ……もといおじさんが、俺と花菜さんに笑顔を与えてくれた。


 それで、レストラン。

 先週とは違う店だ。午後十二時代なので、割と混んでいる。

「はっ? ジラーラとエイバがくっつかない? 結婚しないの? 何でよ! 何でよ!」

 ナポリタンを食べている最中の花菜さんが、少し大きい声を上げた。驚天動地という風にも見える。

 俺は今、食事をしながら『幽閉された炎の魔女』下巻のあらすじを、花菜さんに説明中だ。

「リアリズムってやつだよ。確かにジラーラとエイバは冒険旅行をするけど、最後にジラーラが気づくんだ。『エイバとは一生添い遂げられない』って」

「いや、そこは意地でもくっつけるでしょう。あのジラーラとエイバだよ。ふたりはお似合いじゃない」

「だ~か~ら~、クロサワ的リアリズムだってば。ハッピーエンドよりビターエンドのほうがこの作品にはあってるよ」

 ハッピーエンドは、物事がすっきり解決して終わる話のことで、ビターエンドは、うまくいかなかった部分を残して終わる話だ。ハリウッド映画はハッピーエンドが多いね。

 花菜さんは頬杖をついた。

「はぁ~、これにはおっとりなお父さんもびっくりだよ」

 えっ、お父さん? 疑問に思った俺は質問をしてみた。

「……離婚したお父さん?」

「ううん違うよ、新しいお父さん」

「じゃあ、長谷部は新しいお父さんの名字?」

「違うよ」

「だよね。長谷部は母親の名字だって、先週言ってたもんね。あ~、もうすぐ再婚するってこと?」

「半分あってるよ。半年前には再婚が決まったんだけど、私が高校生の途中に名字が変わるのはどうだろう、って気を回してくれて、再婚は私の大学進学と同時にってことになったの」

「ああ、なるほど。でも数年もよく待てるな」

「ふたりともバツイチ同士だから、急いでないんだって」

「あのさ、言いたくないけど……結婚詐欺師かもよ」

 最後の『結婚詐欺師かもよ』は、もちろん小声で言った。

「それは無いと思う。もう一緒に住んでるし」

 複雑なんだな。それで花菜さんは、学校では家族構成について話したがらなかったんだ。

「そうか。変なこと聞いちゃってゴメン」

「それはいいけど、ジラーラとエイバをくっつけないのは詐欺でしょ。ファンタジー詐欺だよ」

 花菜さんが(しつ)(よう)に蒸し返してきた。

「リアリズムだって」

「ファンタジーにそんなリアリズム、いらない」

 花菜さんは語気を強めた。

「トールキンの前でも同じこと言える? ルイスやグウィンの前でも」

 それを聞いた花菜さんは、口をつぐんだ。

 やった、論破したぞ。俺の勝ちだ。

 おや、花菜さんがナポリタンの皿などを横にどかしだしたぞ。まずい、右手を前に出して肘をテーブルに着けた。これは非常にまずい。

「龍輝くん、これで決めよう。私が勝ったらハッピーエンド、ジラーラとエイバは結婚する。龍輝くんが勝ったらビターエンド、ふたりは別れる」

「いや、でも、創作はそういうものじゃないし」

 焦りながら俺は反論した。

「龍輝くん、地球が温暖化してるか、これで決めてたよね。腕相撲で!」

「花菜ちゃんは有段者だし」

「ただの初段だよ」

「ハンデくれる?」

「十秒以内に勝ったら私の勝ち。十秒以上かかったら龍輝くんの勝ち」

 俺は少し考え込んだ。

「五秒じゃダメ?」

「さすがに五秒は……」

「よし、いいよ。十秒ね。妥当なハンデだ」

 十秒のハンデは当然だ、という風に装った俺は、テーブルのナポリタンを横にどけた。花菜さんと手を組み合わせる。周囲の客や店員の視線を感じるが、不思議とあまり気にならない。ファンタジーの話ができる仲間ができたという心強さのほうが、ほかの外的刺激よりも大きかったのだ。

「ルルドン、三十秒数えて」

 花菜さんが言った。

『わかりました。ゼロ、イチ、ニー』

 花菜さんのスマホが反応したのだ。AIのルルドンが秒読みを開始している。

「二十秒で勝負開始ね」

 花菜さんは俺を睨んでいる。

 なるほど、そういうことか。二十秒で腕相撲開始、三十秒までに負けていなければいいんだな。楽勝だ。

 だが、二十四秒であっさり負けた。

「やった、ハッピーエンドだ。ハッピー!」

 喜ぶ花菜さん、俺は口を尖らせた。

「龍輝くん、三本勝負でもいいよ」

 彼女は余裕だ。

 俺は無言で食事を再開した。

 花菜さんは鼻歌を歌いながら食事を再開した。


 家に帰ると、母に呼び止められた。

「龍ちゃん、どこへ行ってたの?」

「だからデートだよ」

「あのねぇ。龍輝。人間はね、一に正直、二に正直、三、四がなくて、五に人を傷つけないための良い嘘なんだよ。お前のは悪い嘘だよ。友達と遊びたいなら素直に言えばいいじゃない。デートだなんて親に嘘までついて、この子はもう」

 俺は、スマホの写真を母に見せた。花菜さんとのツーショット写真だ。母はたいへん驚いているようだ。

「龍輝。デートって、本当だったの?」

「まさか、こんなに信頼されてないとはね」

「このお嬢さん、こんど家に連れてらっしゃい」

「考えておくよ」

 俺は自室のある二階に上がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ