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亡き婚約者の遺言〜20歳年上の婚約者に先立たれました。息子(20歳)を頼むと遺言されましても〜  作者: しののめ


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8-5

「こんにちは」


 私は店の扉をくぐり、店員に声をかけた。

 大通りの脇に伸びる、ひっそりとした小道。その入り口に建つ小さな店構えの酒店だ。


(前にリオンと出かけた時から、ちょっと気になっていたんだよねぇ)


 特に闇営業をしているという怪しい雰囲気もなく、普通に一般のお客さんが出入りしていることは、事前に確認済みだ。客数が少なく、店舗での売買比率が少ない様子であることも。


(飲食店か何かの契約店に卸しているってとこね)


 配達が主なのだろう。


 ぐるりとあたりを見回す。やっぱり、ごくごく普通の店内で、現在の客は私一人だった。


「いらっしゃいませ」


 四十代くらいの男性が、カウンターに立っている。店主だろうか。それとも雇われ人だろうか。彼以外の店員もいない。


「お安いですね」


 私は、扉近くの棚の陳列された葡萄酒の瓶を手に取り、気軽な感じを装って話しかける。


「スレー地方で取れる葡萄で作られた、うーんと……辛口? のお酒でしたっけ?」


 敢えて中途半端、かつ誤った知識を披露してみる。すると男性は苦笑しながら、私の言葉を訂正した。


「スレー地方で取れる、というところまでは合ってますが、辛口、ではないですね。寒さに耐えて、ぎゅっと糖分を溜め込んだ葡萄から絞り出す、希少な逸品で、甘口ですよ」

「すみません、生半可な知識を披露してしまって……。さすが、お詳しいですね。店主さんですか?」


 尋ねると、男性は頷いた。

 なるほど。この人は店主本人か。だったら話は早い。

 私は葡萄酒の瓶を元の場所に戻しつつ、会話を繋げた。


「実は私も、今、ちょっと勉強している分野があるんです」


 優しく微笑んだつもりだったけど、何故か店主が警戒した目つきになる。

 ……ん? 私の笑顔って、もしかして胡散臭い?


「酒税法っていうんですけど……三日間、寝ないで頭に詰め込みました」


 私がそう告げると、店主の笑顔がみるみる間に強ばった。殺気立った目で私を睨みつける。飛びかかって来ないよう、警告しておこう。


「あ、入り口には警ら隊を配置してますからね」


 自慢じゃないけど体力に自信がない。へなちょこな私が、成人男性と殴り合って勝てる要素など皆無だ。だから、勝てる人を呼んでおくしかないのである。


 それに私は一応、隣の領主の娘だ。私の身に何かあったら、リオンが責任を感じるだろう。リオンはああ見えて、新領主として、私の身の安全には注意を払ってくれている。


 店主は、ちらと入り口に視線を走らせた。人の気配を感じ取ったのだろうか、舌打ちをし、激昂した口調で訴える。


「密輸品なんて、他の店だって扱ってる! どうして俺の店なんだ!?」


 まあ、確かに密輸なんていうのは、よくある犯罪だ。極刑とかにはならない犯罪の部類ではあるけれど。


「あら、密輸されていたんですか?」


 私は首を傾げてみせた。だって私、密輸のみの字も出していないのに、向こうから言及してきたのだもの。


 まあ、密輸の事実は、既に調べてもらって掴んでいたんですけどね。

 私は微笑んだ。


「確かに密輸だけなら、追徴金の徴収とか、もうちょっと穏便に済ませますよ。でも……分かってますよね? 本当は。どうして警ら隊が張り付いているのか」


 そう、この男性が容疑を受けている犯罪の名は殺人だ。密輸のようにお金で解決できるものではない。


「グラート様とは、どうやってお知り合いに?」


 直球で尋ねてみる。しかし当然ながら、


「何のことでしょう」


ととぼけられた。まあ、認めたら即、牢獄行きですからね。


 仕方ないので私は寂しく、独り言を披露することにした。

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