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リオンは腕を組んで、私の説に異を唱えた。
「普通、こういう館で殺人事件が起こった場合、犯人は関係者というのがセオリーじゃないのか?」
「殺人事件の犯人は、基本的に何らかの関係者だと思います」
そこは肯定しておく。
そもそも関係者じゃなければ、無差別殺人だ。無差別殺人なんて物騒な事件、そんなにあってたまるか怖いじゃないですかー、と思う。だから私は繰り返した。
「犯人は関係者だと思います。ただ、この屋敷にはいないと思っただけ」
酒の瓶に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。ついでに倒れたグラスから流れている分も。……最初に検分した時と見立ては同じだ。
「無味無臭の毒、というわけではなさそうね」
酒から少し特殊な匂いがする。この酒の香りではないから、混入された別の成分から発生する香りなのだろう。
この匂いに気づかなかったということは、それを飲んだ時、既にグラート様の判断力は落ちていたということだろう。つまり、既に泥酔していた、ということだ。
「昨夜は酔っ払って帰って来られた?」
犯人扱いされていた男性に尋ねると、
「はい」
と即答された。
「誰と飲んでたかは……分からないのよね」
「あまりわたしたち使用人に、私的な話をされる方ではありませんでしたから」
申し訳なさそうに答えられた。うん、大丈夫。そんな気はしてたから。
私はリオンに向き直り、酒瓶を指さした。
「これ、すごく高級なお酒なんだよね」
知る人ぞ知る名品だ。しかし大きな問題がある。このお酒は、ここサレノ領では販売の認可が下りていない、ということだ。
ということは、販売経路はただ一つ。
「密輸でしか手に入らないものだと思います」
呟くと、リオンの眉が不快げにぴくり動いた。
密輸。その言葉は、領主として施政を行なっている者としては看過できないものだ。
そもそも、酒には酒税という領税がかかっていて、領地運営にとって重要な財源の一つだ。
まあ、密輸が横行すると税収が低下するという問題もあるけど、もう一つ、困ったことがある。
商人の倫理観が低下して、質の悪い酒が出回るようになる。そして、本来飲料用として適さない安いアルコールを混ぜた下級品は、人体に悪影響を及ぼしてしまうこともある。
(最悪の場合、死んじゃうものね……)
そういうわけで、酒の流通管理は領地の安定運営、そして衛生管理のためには、中央で押さえておきたい点の一つだ。
……この亡くなった大叔父様は、最近、何故か羽振りが良かったらしいから、一枚噛んでいたんだろうなあ。
「方針はお前に任せる」
リオンがそう言ったので、私は頷いた。
「放っておきたいけど……犯人は捕まえておかないといけないかな」
密輸のことも気になるけれど、それ以上に毒物の入手先も確認しておきたいところだ。そうそう人を殺すことができる毒物が出回ってはたまらない。
大抵の殺人は、物語のように複雑なトリックを使われることもない、単純なものが大多数だ。グラート様の交友関係を洗い出せば多分、犯人自体は、すぐに見つかるだろう。
「このお酒を売った人が犯人だと思う。密輸の共犯者だし、上がりの分け前で揉めたというのが一番のセンだと思います」
「まあ、それが妥当なところか」
というわけなので。
「違法な営業をしている酒店を、しらみ潰しに当たってみるしかないかな」
そう、とっても地味な捜査をするしかないのである。
「……分かった。人を回そう」
もっと派手な立ち回りを期待してたらしきリオンは、渋々といった顔で頷いた。




