8-3
「他殺ですね」
「他殺だな」
現場を一通り見た私とリオンは、そう断言して、揃って頭を押さえた。
突然のことに、家人も使用人も、どうして良いのか分からなかったのだろう、現場は荒らされることなく、保全されていた。
グラート様の私室は、まあ、私から見るとギラギラしていて、ちょっと悪趣味だ。統一感のない純金の装飾品があちらこちらに置かれ、シャンデリアの光を受けて輝いている。眩しい。
そんな中、机に突っ伏して事切れている、でっぷりとした大叔父様の体。その口からは血と妙なまだら色の泡が混ざった液体が垂れている。そして机の上には、酒の瓶と倒れて中身が溢れたグラス。
「えーと」
こそこそとリオンに耳打ちする。
「酒の飲み過ぎで死亡しましたって報告じゃ、駄目?」
「そうしたいが、駄目だ」
治安部に報告するの、面倒なんだよなあ。うるさい人いるし。
「だいたい、既に屋敷の者に見られているだろう。まず隠しおおせないな」
うう、やっぱりそうですよね。私は肩を落とした。
「あーあ。もし私が第一発見者だったら、急性の酒中毒です、で済ませていたのに……」
「お前が第一発見者だったら、間違いなくお前がしょっ引かれるな。普段から仲が悪かったお前が一番、怪しい」
私たちは、お互いをじっと見る。その後、私はポンと手を叩いた。
「私が第一発見者じゃなくて、本当に良かったな〜」
いや〜、本当に助かった。心底ほっと胸を撫で下ろしていると、
「さっさと歩け!」
という怒鳴り声と共に、部屋に新たな人物が入ってきた。こんな時に騒々しいなあ、と思っていると、屈強な男とひ弱そうな男性が部屋に入って来る。
引き立てられた男性は、服装から使用人であると見て取れ、もう一人の屈強な男に身動き取れないほど羽交い締めにされていた。
屈強な男は、私たちの方に使用人を荒っぽく突き出しながら、叫んだ。
「こいつが犯人だ!」
「違います! わたしは、やっていません!」
使用人が即座に訴えた。よく見ると泣き腫らした目をしている。頬も赤いので、もしかすると殴られたりしたのかもしれない。
取り敢えず、誰か適当な犯人を仕立て上げて、その場を収めようという意図だろう。可哀想に。
大体、使用人が主人を手にかけるなんて、事実なら死罪にもなりかねないことだ。なのに証拠もなく犯人扱いなんて……残念ながら、身分社会ではよくあることなんだろうけれど、悪習には違いない。
私は静かに口を開く。
「この方は、違うと思いますよ」
舶来品の上質な酒だ。値段は目が飛び出るほど高いが、流通も少ない。つまり希少価値の逸品ということだから。まず、末端の使用人が手に入れることは不可能だ。
私やリオンなら、リナやソールといった信頼する使用人に代理で購入してもらうんだけど。
「こんな高級なお酒、あの人が使用人に触らせたりするわけ、ないじゃないですかー」
高価なものは、自分以外には家族であっても触らせないと、昔、グラート様が偉そうにのたまっていたことを思い出す。
「そもそも中に入れてもらえなかったのでは?」
この純金ぎらぎらの部屋に、その辺の一使用人を入らせるわけがない。きっと、この使用人は今日、初めてこの部屋に入ったに違いない。
私は、使用人を拘束している男の逞しい腕に手を当てた。
「だから、手を離してあげて」
「しかし……」
「お願い」
少し上目遣いに見つめながら言うと、屈強な男は困惑したように視線を彷徨わせ、一瞬私の背後を見た。そして……不意に顔色を青ざめさせ、私から目を逸らす。ぱっと不自然なほど勢いよく私の手を振り解き、使用人の拘束も解いた。
私の背後に何が? と思いながら後ろを振り向くと、リオンが「ん?」と首を傾げているだけだ。……あの男の人は、一体何を見て怯えた顔をしたのだろう?
いや、まあ、使用人が解放されたから、細かいことは追求せずにいよう。
それでは気を取り直して。
「犯人はこの中に、いない!」
私はズバリ、宣言する。
……その場の空気が一気に白けたものに変わった。リオンが「えー?」って感じで、とても不服そうな顔をした。




