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※このお話はミステリーではありません
みんなが呆れたような目で私を見ている。それも当然のことで、流通が許可されていない酒の売買は違法なのだ。
でも私はそんな彼らの視線をものともせず、準備していたそのお酒の瓶を差し出した。
「これです」
外国語のラベルが貼られたお酒。今日の本当の議題はこちらだ。
「すっごく安かったの」
「……」
瓶を見ながら押し黙る三人、特にリオンに向けて、私はもう一度、強調した。
「もう、すっごく! 安かったの」
私が言わんとせんことは、リオンにも伝わったことだろう。リオンはじとっとした目で私を見た。
「……お前は、それを分かってて買ったのか?」
「だって安かったし…」
安いは庶民にとって正義である。非難がましい目で見られたって、売ってあったなら買ってしまうのは仕方ない。でも念のため。
「あ、でも調査のためのサンプルとして購入するって申請は出してましたし、許可も得てます」
「それを先に言え!」
……と、そんなやり取りをしていたところ。
激しく扉を叩く音がした。かなり慌てている様子である。私たちは顔を見合わせた。ソールが一つ頷いて、扉を開ける。
扉の向こうには、青い顔をした若い男が立っていた。見覚えのない顔なので、この屋敷の人間ではないだろう。
けれどソールが、
「どうなさいました?」
と丁寧に尋ねたので、リオンの親族の関係者か何かなのだろう。
「ご連絡もなしの突然の訪問、お許しください。しかし、大変なのです!」
どうも未だ混乱状態にあるのだろう、すぐに状況を説明できないようだ。しかし、本当に大変な出来事が起こったのなら、時間との勝負になるので早く伝えてほしい。その考えはリオンも同じらしい。
「どうした」
大変なのは分かったから、早く結論を言え。そんな顔をしながらリオンが先を促す。
「グラート様が」
グラート様、といえばこの間会ったばかりのリオンの大叔父様だ。私の存在が大層お気に召さないようで、顔を合わせれば、ネチネチネチネチ嫌味を言われたものだ。
また、何か、私の粗でも見つけて、怒鳴り込んで来たのだろうか。
そんなことを考えて憂鬱になっていると、その使者は、驚くべきことを知らせた。
「グラート様が、お亡くなりになりました!」
「……え?」
その場にいた全員が言葉を失った。正直なところ、全く予想だにしていなかった知らせである。
しかし、ここにいる皆は、緊急事態に耐性がある者ばかりだ。すぐに冷静さを取り戻す。
すると、今度はみんなの視線が私に集まってきた。
え? どうして皆さん、私を見るの??
確かに常日頃、
「このくそ爺、肥溜めに中に落ちて、一週間汚臭にまみれてしまえ」
って呪い続けていたけれども、心の中に留めていたし、会えばちゃんと笑顔で対応していましたよ? 大人ですもの。だから。
「……私は無実です」
取り敢えず両手をあげて、身の潔白を訴えておいた。
「今、それを言うな。本当に疑わしくなるだろう!?」
リオンから、じろりと睨まれた。でも、今、みんな、私を見たでしょう!? 今、そう言わないといけない流れでしたよね?
………。
気を取り直して。
私はコホンと一つ、咳払いをした。
「でも大叔父様って言ったら、結構お年でしょう? 健康そうに見えていても、どこかしら悪いところもあったでしょうし、ぽっくり逝っちゃうこともあると思うけど」
ご高齢のうえ、暴飲暴食気味で体重もかなり重く、心臓に負担がかかっていそうだったから、急死してもおかしくないところではある。しかし使者は首をぶるぶると横に振り、縋り付くような勢いで訴えた。
「とにかく、屋敷に向かわれてください」
先日お邪魔したばかりの大叔父様の屋敷までは、馬車で一時間程度の距離だ。私とリオンは、急ぎ、そちらへ向かうことにした。
……嫌な予感しかしませんが。




