8-1 五番街の殺人
「私じゃありません」
談話室の中、私の前には三人の人物が立っている。私に疑いの目を向ける彼らに向かって、私は己の主張を訴えた。しかし、彼らの内の一人……新領主(仮)が首を横に振る。
「開口一番に、そう言う奴が一番怪しいと相場が決まっているな」
しかし、私にも反論の権利があるはずだ。
「私じゃありません」
すると新領主の使用人が、同じく首を横に振った。
「と、容疑者はそのように申しております」
彼らの唇が、一様に腫れているのが目に入って、私はそっと目を逸らした。
「容疑者は目を逸らしています。やましいことがある証拠です」
女の使用人が、私の挙動に敏感に勘付き、それを指摘した。
ーーいや、そろそろ私の方からも突っ込ませてください。
「いやいやいや。リオンだけならともかく、どうしてリナとソールまでが、こんなことに??」
リオンについては、故意である。それは認めよう。しかし、リナとソールについては過失だと主張したい。
「いえ、リオン様が、あまりにも嬉しそうにチョコレートを見せびらかすものだから、ちょっと、お裾分けしていただきまして」
「同じく」
私が手作りしてリオンに贈ったチョコレート。それは先日、甘いものが苦手なくせに私のパンケーキのチョコレートを横取りしたリオンのための、特製激辛粉末入りチョコレートだった。あまりの辛さに唇が腫れること請け合いである。
……………。
まさか、リナやソールまで食べちゃうなんて思わないですかー。
しかし、このままじゃ解放されそうにもない。リオンだけならともかく、リナやソールを敵に回すのは得策じゃない。
恨みがましい目で私をじっと見つめる彼らに向かって、私は頭を下げた。
「すみませんでした。どうか、これで罪一等減じてくださいませんか?」
私は懐から、そっと小さな箱を取り出して机の上に置いた。そう、ここはもう賄賂だ。賄賂しか道はない。とっておきを差し出しておこう。
品の良い箱を開けると、宝石のように綺麗なチョコレートが六つ並んでいた。
「またチョコレートか……」
胡散臭げに、私が差し出したチョコレートを見やるリオン。いつまでも手を出すのをためらっているので、私はしびれを切らす。ルビーのように赤いチョコレートを一つ、手で摘んで、
「いいから食え」
とリオンの口に、それを無理矢理、突っ込んだ。
リオンは一瞬、びっくりした目で私を見たけど、すぐに観念したのか、もぐもぐと口の中のチョコレートを食す。そして、目を見開いた。
「うまい」
リオンが感嘆の声を上げる。その声に応じて、リナとソールが、チョコレートに手を伸ばしてきた。
……主人に毒見をさせてはいけません。
と思ったけど、ここは私たちだけしかいない空間だ。リナとソールは私たちにとって家族に等しい存在だ。堅苦しいことは抜きにしよう。
ソールは、もぐもぐと口を動かしながら、うんうんと同意するよう頷いている。
「甘さは控えめながら、コクがあってフルーティな味わい。エレナ様がリオン様の好みに合わせて選んでくださった最高の一品ですね」
「いや、リオンのためじゃないから」
ソールはリオンの側近だけあって、全てが「リオンのためであるか否か」が判断基準だ。
確かに、激辛チョコレートのお口直しもできるかな、と想定はしていた。けれど、他にも理由があるので「リオンのために」というのは語弊がある。
一方で、純粋にチョコレートを味わっているのはリナだ。
「お酒が入ってますね」
という彼女の言葉を聞きながら、私も少し堅めのチョコレートをかじる。すると、中からとろりとした上質な酒がとろけ出て、口いっぱいに広がった。香り高味わいに思わずうっとりしてしまった。
食べ終えたリナが、不思議そうに首を傾げた。
「美味しいですけど、あまり馴染みがない風味でしたね。ーーこれは、どんなお酒なんですか?」
「この領地では流通していないはずのお酒」
そう答えると、皆、一様に「えっ!?」という顔で私を見た。




