7-5
翌朝。
メイアに快くお帰りいただいた後、ふかふかのベッドで快適な睡眠を取った私の寝覚めは、とてもすっきりだった。
大きく伸びをしながら、
「ベッドはすごく寝心地良くて、良い睡眠が取れました」
と傍に控えているリナに報告すると、彼女は少し呆れたように、
「あんな騒動のあとで熟睡できるエレナ様の図太さを、心から尊敬しています」
と言った。
「リナを信頼しているんですよ」
「まあ、私がお側にいる時は、安心してくださって結構ですけどね」
リナは胸を張る。彼女は自分の仕事に誇りを持っているし、私も彼女の能力を疑うことはない。
そんなふうに雑談を交えながら手早く着替えていると、
「あ、そういえば朝食の準備ができているようですよ」
と勧められたので、食堂に向かうことにした。
⭐︎
食堂では既にリオンとグラート様が席に着いていた。テーブルには食事が並んでいるけれど、昨夜とは違って給仕の人たちはいない。人払いをしているのだろう。
まだ私の入室に気付いていないグラート様は、昨夜とは打って変わって上機嫌な様子でリオンに話しかける。
「昨夜は楽しく過ごせたか?」
おっと。
どうやらメイアが「独断で」リオンに夜這いをかけることを推測していたらしい。
(お前にはがっかりだ。もうお前に期待しない、とか挑発したのかも)
そんなふうに言われたら、汚名を返上するため独断で行動せざるをえないだろう。そうしなければ自分の地位が危うくなる。
何にせよ。
リオンがメイアの誘惑に籠絡したと吹聴されたら一大事だ。
(先手必勝!)
私は食堂に入るなり、空気を読まずリオンの側に寄ると、
「すみません、グラート様。昨夜、リオンは私と過ごしておりまして」
と言ってリオンの腕に片手を添えた。
「……は?」
リオンが何か言おうとしているのを目で制した。全て私に任せて欲しいという気持ちが伝わったのかリオンも、
「館では二人きりになれる機会がなかなかないもので」
と私の手に自分の手を重ね、親密さを醸し出す手伝いをしてくれた。ーーさらに手を握りしめ指を絡められ「そこまでしなくても」と思いつつも、私は恥じらうように頰にもう片方の手を当てた。
「昨夜は何かありましたか? 私、全然気付かなくて……」
私とリオンが、他のことに気付かないほど「とても仲良く」濃密に過ごしていたことを匂わせる。ーーまあ、実際は何もないんだけど。
でも、グラート様には、私とリオンが仲睦まじく「過ごさなかった」証拠を見つける手立てはないはずだ。
私の言葉の裏の意味を察したグラート様は、みるみる間に目を吊り上げる。テーブルをばんっと叩いて立ち上がった。
「お前たちは人の屋敷で、一体何をしている! 破廉恥な!!」
ごもっともな言説だけれど、自分の愛人をリオンにけしかけるなんて、破廉恥なのは貴方では? と思う。けれど口はしっかり閉ざしておく。余計なことを喋るとボロが出てしまいそうだし。
ただ、私はそっとリオンに微笑みかけるだけでいい。グラート様には、その方が効果的だろう。
リオンも私の意図を汲んで、微笑みを返す。この辺は、上手く調子を合わせてくれたので、側から見ると、とても幸せな朝を迎えた初々しい恋人同士のような雰囲気が出ているーーはずだ。多分。
グラート様は、見つめ合う私たちを憎々しげに見やったのち、
「儂は気分が悪いので失礼する。ーー急な来客も入ってお前たちの相手もできそうにない。お前もその不愉快な女を連れて、さっさと帰るがいい」
と言い残し、肩を怒らせて食堂を出ていったのだった。




