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亡き婚約者の遺言〜20歳年上の婚約者に先立たれました。息子(20歳)を頼むと遺言されましても〜  作者: しののめ


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7-4

 メイアは、この上なく「どうやっ!」て顔をしてきたけれど、残念なことに。


「うーん、私、自分の評判ってあんまり気にならないんですよね」


 このサレノ領における私の評判なんて、元々地の底を這っている。今更、何を気にすることがあるだろうか。


「ただ、偽りの証言をされるのも嫌なので、こんな話をしていいですか?」


 するとメイアを押さえつけたままのリナが、器用にささっと数枚の資料を差し出してくれた。私はその資料を受け取り目を走らせる。ーーまあ、一回見たことがある内容だから全部覚えているのだけど。


「メイアさんって、グラート様の愛人なんですよね」


 メイアという名は、グラート様の身辺を洗っている時に出てきた名前だから聞き覚えがあったのだ。

 齢七十歳のグラート様の、三十代の愛人。


 うん。まあ、間違いなく金目当てだろう。


 私の指摘に、メイアはふてぶてしく嗤った。


「それがどうしたの? 奥様は既にお亡くなりですし、何も問題はないでしょう?」


 メイアが愛人であることは、この屋敷では公然の事実なのだろう。堂々としている。


「ええ、グラート様も貴女も独身ですからね。何も問題はありませんよ」


 私もまた、余裕を持って微笑んでみせながら、言葉を継いだ。


「ーーでも、貴女にも他に若い愛人がいますよね?」


 メイアがぴくっと体を震わせた。


「グラート様って、自分のものに手を出されることを、とても嫌がる方ですよ」


 自分が遊んで「やって」いると思っている女が、実は自分を金蔓としか見ておらず、弄んでいる。それを知ったグラート様のプライドは、ズタズタに切り裂かれることだろう。


「証拠を突きつけたら、グラート様はどんな反応をするでしょうね?」


 私はリナに地べたに押さえつけられているメイアの目の前に、調査書を突きつけた。そこには一人の青年の身元が詳らかに記載されている。

 メイアの顔色が一気に青ざめる。そんな彼女に私は畳み掛けた。


「グラート様が仕掛けた夕食会での誘惑は失敗しましたからね。リオンに警戒されたと判断したでしょうから、グラート様は今夜は大人しくしようと考えたはず。ーーとなると、この夜這いは貴女の独断でしょう? 今なら見逃しますから、引いてくれません?」


 私がリナに視線を送ると、私の意を察した彼女は、ぐっと力を入れてメイアの関節を極める。メイアの唇から小さな悲鳴が漏れた。


「引く! 引くから、離して!」


 メイアがバンバンと自由な方の手で床を叩く。

 ……これ以上、力を込めたら折れちゃうな、と考えていると、リナが力を緩めてメイアを解放した。

 はあはあと肩で息をしながら立ち上がったメイアは、憎しみを込めてぎろりと私を睨む。そんな彼女に向けて、リナがにやりと笑みを浮かべた。


「あ、言っておきますけど、エレナ様はやると言ったらやる方ですよ。甘く見ないように」


 指をぽきぽき鳴らしながら脅し文句を垂れるリナを見て、メイアの頰がひくついた。

 そうして彼女は、こけつまろびつして部屋から逃げ出したのだった。


 騒がしい侵入者が立ち去って、部屋に静寂が戻る。


「……うーん」


 私はこめかみを指で押しながら、先ほどの流れを頭の中で反芻する。


「私、すごく悪役っぽくない?」


 先ほどのリナの脅し文句は、ちょっといただけないと思うので抗議してみた。けれどリナはきょとんとした表情で、


「え? 違うんですか?」


と悪びれた様子もない。「私の認識は何も間違っていませんわ」という表情なので、しっかり訂正しておきたい。


「違います」


 私は善良な、虫も殺せない女なんですよ!

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