7-3
敵地の夜は更ける。
あてがわれた部屋は、想像どおり贅を凝らしたものだったけど、純金の天使の像の横に東洋の陶器が置かれていたり、統一感のないものだった。
でも。
(ベッドはすごく豪華……!)
マホガニーの木目が温かみを与える寝台。敷布も掛布も肌触りの良い高級な生地で、これがグラート様の館でなければ、良い眠りに就けたことだろう。
就寝までの時間は読書をして過ごす。
本当は仕事を持ってきたかったのだけど、グラート様の屋敷に仕事の書類を持ってくるなんて、危険極まりない。仕方ないので、本を持ってくるにとどめたのだった。
そうして「酒税法の歴史」を読み終えた私は、本をテーブルに置くと、寝台に向かう。いつもなら、まだ起きている時間だけれど。
(今はすることもないし、寝よ)
さっさと寝ることにした。
ふかふかの寝台に横たわって頭から掛布を被ると、明かりが消えた。
⭐︎
そうしてどれくらいが経っただろう。多分、一時間も経ってはいないと思う。
ふと、かちゃり、とドアが開く音がした。
「……っ」
鍵をかけていたはずのドア。そして足音を潜めて近づいてくる人影。
侵入者に気配に心臓がどくどくと鳴ったけれど、私は身じろぎひとつしないよう心がける。相手をいたずらに刺激してはいけない。
やがてギシッと寝台が軋む。
そしてて私の上に覆い被さる気配。
するりと掛布越しに私の太腿を撫でる淫靡な手つき。
(ひぃ……!)
ぞわっと鳥肌が立って、思わず声が出そうになったけれど、何とか噛み殺す。そんな私の上方から、ねっとりした声が下りてきた。
「リオン様。もうお休みですの? 夜はこれからですわよ」
「……」
それは夕食時にメイアと呼ばれた女性の声だった。
私が無反応を貫くと、
「殿方の我慢は体に悪いですわよ」
と言いながら、彼女は器用に掛布の横から手を差し込んで、私の胸の辺りをさわさわと触ってきた。そして、
「ん? おかしいですわね」
と声を上げる。
「小さい、けど、胸ーー? 胸筋ーー?? でも鍛えてるにしては柔らかいような……?」
やだー、胸さわさわしないでほしい。それに、これは小さいけど女性の胸だからね。いくら自分が巨乳だからって、失礼すぎる。
辛抱たまらなくなった私は、頭まで被っていた掛布を取り払って、相手に顔を晒した。
「……同意なく殿方の寝台に潜り込むのは、淑女としていかがなものかと思います」
「ぎゃあぁ!」
不法侵入者は凄い声をあげた。まるで悪魔でも見たような反応だ。ーー驚くのは侵入されたこっちだと思うけど。
「あ、あなた……、どうしてここに!?」
私の上に乗ったまま、メイアは硬直している。重いから、そろそろ降りてほしいと思いながら、彼女の問いに答えた。
「こんなことがあろうかと、部屋を変わってもらいました」
夕食と懇談のグラート様の様子から、彼の今回の狙いは、リオンを懐柔もしくは弱みを握ることだと察した。
その手段が、色仕掛けだったので、夜もリオンの部屋に夜這いがあるかもと警戒していたら、見事、そのとおりになったというわけだ。
リオンのことをジーク様に託されている私は、まさかリオンに一夜の過ちを犯させるわけにはいかない。だから身代わりを買って出たというわけだ。
ーーしかし、この色気のかけらもない私が夜這いされる日が来るとは、人生、何が起こるか分からない。
「どうしました? 私のお相手をしてくださらないの?」
私が身を起こそうとすると、メイアはようやく寝台から飛びすさり、逃げ出そうとする。
けれど、それは叶わない。
「させるか!」
控えていたリナが鋭く声を上げると、女豹の如き素早さで飛び出してくる。たちまちのうちに、メイアを取り押さえていた。
「あ、ちなみにこの部屋、護衛もいますよ?」
事後報告になったけど、警告してみた。
私には一応、領主の娘という立場がある。けれど戦闘能力皆無だから、必要に応じて護衛の一人くらいはつけておくんだな、これが。ーーグラート様には報告していなかったけれど。
メイアはギリギリと唇を噛みながら、私をキッと睨みつける。
私は今度こそ寝台から降りて、照明をつける。するとメイアの姿が明らかになった。
(おお、この前リオンと見た、際どい下着とそっくりだ)
透ける布地と、こぼれ出そうなほどたわわな胸。ほとんど裸体と変わらない。
同性の私でも、ちょっと目のやり場に困って視線を逸らしてしまった。彼女を押さえつけているリナは、何だか嫌そうな顔をしている。
そんな中、リナに組み伏せられていたメイアが、
「貴方に暴行を受けたって言ってやる! 事実なんて、どうでにでも捏造できるんだから」
と勝ち誇ったようにそう叫んだ。




