第7話 良き先輩とは、
うちの学園には『姫と君』制度がある。なんだ、二次元か! いや、ここ元は二次元だったわ。
ざっくり言っちゃえば、学園きっての人気者ってやつかな。でも結構不思議なもんで、生徒会とかそういう公的な役員を呼んでるじゃなくて、ミスコンとかの人気投票で決まったんでもない。その人物のカリスマ性で呼ばれてるみたい。中二病チックに、通り名とか二つ名とか言った方が分かり易いかな。
ただ本人に直接呼ばないのがこの『姫と君』制度のマナーなんで、つけられちゃってる本人が知らないってこともあるらしい。『姫と君』制度っていうのは、勝手にアタシが名付けたんで、そこんところよろしく。センスは投げ捨てるもの!
この制度は特徴的な人物を直接呼ぶのは憚られたもので、名前に直接『姫』とか『君』とつけない。その人物の特徴や得意分野・印象で決まって、不特定多数に定着すると、そう呼称される。
『姫と君』制度で、特別な呼称がある。それは六属性(光・闇・火・水・土・風)を冠した名称だ。この名をつけられた人物は、カリスマ性にしろ、才能にしろ、他者を圧倒している。ちなみに、光の姫は大天使レギーナで、闇の君は魔王なメルヒオールだったりする。似合い過ぎだね! レギーナのコミュ力と包容力は人誑しだし、メルヒオールの腹黒さと威圧感は魔王級だから。
で、今目の前には、黒髪ブルーアイのできる女系のスレンダー美女__水の姫であるエルシーリア・アマーリア・コッチ先輩と最近遭遇率が異常に上がってるリリト嬢がいるんだよねー。学園全体は結構な規模なのにこの遭遇率はなんだろうね。
二人の間に流れる雰囲気は和やかとは言い難い。そもそもリリト嬢の擦り寄りモードはイケメン専用らしく、同性には結構ドライみたいだね。典型的な同性に嫌われる肉食系女子ってやつ?
エルシーリア先輩は留学生の一人で、女子留学生側のまとめ役を担っているらしい。だから問題行動おこしまくりのリリト嬢に注意しに来たのかなぁ。お疲れ様です。
「リリトさん、婚約者や恋人のいる男子を口説くのはやめたほうがいい」
「アンタになんの関係があるの? 鬱陶しい」
完全に小馬鹿にしたリリト嬢は大丈夫かな。エルシーリア先輩には熱烈なファンがついている。それも男女問わないところがすごい。人通りがあまりないからって、まるでいないってわけじゃない。ましてや水の姫たるエルシーリア先輩にストーカーのごとく、精霊とか使い魔とかが張り付いているに決まってる。全校生徒の四〜五割を敵に回したかも。
大人な態度で説得を続けるエルシーリア先輩に対して、どんどん苛立ってく様子のリリア嬢。火がついた癇癪玉は破裂する運命だもんねぇ。
「それに君は複数人に好意を向けているね? 女神教において褒められた行動ではないんだよ」
「あーもう!! アンタとの会話は無駄なの!! モブの分際で邪魔しないでよね!!?」
「モブ?」
疑問符を浮かべてるエルシーリア先輩の脇を抜けてリリト嬢逃走。無駄骨なのはわかってるみたいで、エルシーリア先輩も無理には追っかけない。はぁあ、と憂い顔でため息を吐く姿さえ、絵になる。
って、あ。
「あら、ごめんなさい。うるさくしちゃって」
「いえ、……お気になさらず」
うわあああああああああ。話し掛けられた!?!?!? 上手い切り返しの仕方ってなに!? どうすればいいんですかぁ!!! コミュ力くだしゃーい。
それならよかった、って微笑むエルシーリア先輩プライスレス。キリッとし感じの美女だけど、笑うと可愛らしい。軽く会釈して、その場を速やかに去ったお。
いや、学園の高嶺の花ポジションのエルシーリア先輩に、モブ中のモブが和気藹々と恐れ多くて話しかけられない!!! もう! 後ろからナイフ刺されても文句言えない!! いや、やっぱり刺されるのはちょっと遠慮いたします。ストーカー的なファンがいたらやりそうなのが、冗談にならないよね。
でも、エルシーリア先輩が、自分の直の先輩って憧れる。たしかエルシーリア先輩は高等魔道科__前世風に言えば特進クラスがニュアンスとして近い__の超絶エリート。召喚科のアタシとは正直関わり合いがないんで、ちょっと残念。
顔良し、頭良し、性格良しのエルシーリア先輩が、リリト嬢は不満なんだろうねぇ。もったいないし、羨ましい。はー、気分切り替えて、教室に向かうかぁ。
____ありがたいと思うんだけど。
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