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魔王殺しの最強剣士、居酒屋の親父になる~引退した元SS級冒険者のおじさんは、王都の片隅で正体隠してひっそりと無双する  作者: 流あきら
一章

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009 王と剣士と

 俺は敵の動きを、ぼっと待ってはいなかった。

 一番手ごわそうな魔術師に向けて、突進する。

 一瞬怯んだものの、再び魔法を発動しようとしたのはさすがだった。

 

 だが――


「遅い」


 おれはその魔術師を、大上段から真っ二つにする。

 返り血をよけながら、すぐさま次の相手に斬りかかる。

 二人目も仕留めると、三人目の炎が襲い掛かって来た。

 それを刃でそらしつつ、剣を回転させて切り伏せる。 


「おい、誰か!」

 

 その頃ようやく、悪党二人の部下達が集まりつつあった。

 だが俺の剣技にすっかり気おされたのか、遠巻きにしつつ立ちすくんでいるだけだった。

 

「こんな事をしてただですむと思ってるのか!こんな……大貴族たるこのわしの……」

「そりゃこっちの台詞さ。隠し武器、術式、魔術具。こいつらは暗殺教団だ。見ろ」


 俺はフードを剣の先でめくる。

 そこには蜘蛛の入れ墨があった。

 周囲の人間は一斉に黙り込む。


「だから何だというんだ?」


 バルビエはふてくされたように吐き出した。


「だから?暗殺教団は魔国と手を組み、アステリア王国と敵対した。俺たちの敵だ」

「もの知らずのお前に教えてやろう。正確にはギリヤル教団というんだ。彼らは魔族ではないし、魔国とも関係ない」

「ほう。暗殺教団への頼みごとが、暗殺以外にあるとでも?」


 バルビエは言葉につまり、いまいましそうに唇をゆがめた。

 集まって来たバルビエの部下達も、どうして良いかわからず、顔を見合わせている。

 みたところ、魔術師らしき人間はいない。


「何も証拠はない。わしは伯爵と商売の話をしていただけだ」

「へぇ。あっちやあっちを調べられるとまずいんじゃないかい?」


 俺は建物や倉庫を指し示す。


「多少は腕が立つかもしれんが、この人数相手に勝てるとでも思っているのか?」

「おやおや。小悪党らしい台詞を吐くじゃないか。じゃあ少し、俺の妄想ってやつを聞いてもらえないかな?」

「よかろう」


 俺を取り囲む大勢の部下達を見て、バルビエも多少余裕がでてきたのだろう。

 鷹揚にそう言った。


「かつてあんたたちは、表向きは禁じられていた奴隷や麻薬の密輸で暴利をあげ、その利益を前国王に献上していた」

「なるほど。それで?」

「そして暗殺教団に次々と反対者を殺させていた。あんたたちだけじゃなく、前国王にとって都合の悪い人間もな」


 暗殺教団は独自の価値基準や利害で動いている。

 魔大戦では、最終的には魔国の側についた。

 だがひそかに魔国とアステリア王国を天秤にかけ、双方を操って共倒れさせようとしていたのかもしれない。


「……」

「だが時代は変わった。ギルベルト三世が即位し、今までのような暴利を貪る事ができなくなった」

「お前のような風来坊がどこで情報を手に入れた」


 バルビエは落ち着きなく歩き回る。


「みんな薄々知っていることさ。あんたは手を広げすぎたんだよ。口の軽いろくでもない部下しかいないようだな」


「ふん!」


 バルビエはどさっと椅子に腰を落とすと、テーブルの杯を手に取った。


「魔国との戦いは勝利に終わった。だが王都をはじめ各地は被害をこうむり、多くの人が亡くなった。混乱している今しかないと思ったんだろ?」

「わしらのやろうとしてる事を、知っているのか?」

「さぁね。表では賭博場や貴族の別荘の建設から、裏では奴隷や麻薬の売買、暗殺依頼の請け負い。いずれにしてもろくでもないね」


 バルビエは先ほどから、ちらちらと周囲を見回している。

 いつ攻撃の指示を下そうか、迷っているのだろう。

 例の伯爵とやらは、ずっと黙ったままだった。


「なかなか面白い事を言う男だ。何の証拠があると?」

「証拠は持ってないよ。俺はね」

「あの子供はまさかお前の間諜か?」

「いや、ただの剣の弟子さ。それはともかく、あんたはあれもこれもやろうとしすぎた。そのせいで、一個一個が雑になる」

「もういいだろう、バルビエ。で、誰だか知らんが言いたいことはそれだけか?」


 今まで黙って聞いていた伯爵が口を挟む。


「まぁ大方こんな感じだ。そう的外れではないと思っている」

「お前のような風来坊なぞ、急に消えても誰も気にもせんだろうよ。明日には魚の餌になっておるかな。今までのようにな」


 伯爵はバルビエに目で合図する。

 バルビエが大きく息を吸い、命令を下そうとした。

 その時だった。


「そこを動くな!」


 鋭い声とともに、完全武装の王国兵たちが大挙して押し寄せてくる。

 百人はいたかもしれない。

 あっという間にバルビエの部下達を制圧する。

 率いているのはもちろん、警備隊長のレティシアだった。

 

「何をする!卑しいその手で触るな!」


 伯爵だけは大声でどなっている。

 兵士たちも遠巻きに囲んで、少し困った様子だった。


「警備隊長のレティシア・マリアーノだ。大人しくお縄につけ、バルビエ伯よ」

「貴様のような馬の骨なぞ知らん。なぜわしがこのような……」


「そうか。ならばそなたの王の顔は知っておろう」


 兵士の背後から、声が響いた。

 人垣が割れ、一人の壮年の男が前へ進み出てくる。


「陛下……」


 それはアステリア王国の国王、ギルベルト三世だった。

 バルビエやガモンズは、慌ててひざまずく。

 それを見て、配下の荒くれどもも、ややぎこちなく平伏する。 


「ふむ。見覚えがある。ガモンズ伯爵であったかな。おぬしは幸運な男だ」

「まったくでございます。私めはこの卑しい暴漢に、酷い目にあわされておりました。陛下に助けていただき感謝に……」

「そうではない。もしロイがその気なら、そなたたちは皆殺しにされていた。だから幸運な男だと言ったのだ」

「なっ、なにをおっしゃい……」


 ガモンズは息を飲んだ。

 王は言葉を続けた。


「わしが何もしらぬと思っていたか。おぬしらの悪事はとっくに把握し、機をまっておったのだ」

「私は何もしておりません!全てこのバルビエたちのせいでございます」


 バルビエたちに動揺が広がる。

 何か叫ぼうとしたところを、レティシアが剣を突きつけ、バルビエは口を閉じた。


「なるほど。おぬしは何も知らぬと?」

「左様でございます。左様でございます、陛下!」

「わしはラッセル公爵に命じた。なるべく民の要望をきき、早急に元通りの生活ができるようにせよ、とな」

「はい。私めはラッセル公爵のご指示の通りに働いておりましただけで」

「だが、おぬしらの悪事は目に余る。そうわしに報告してきたのはラッセル公爵だ」


 王の顔に皮肉っぽい笑みが浮かぶ。

 バルビエとガモンズたちを陰で操っていたのはラッセル公爵だ。

 その公爵が知らないはずはない。

 

 おそらくこれ以上は危ないと見て、ガモンズとバルビエを切ったのだろう。

 さすがに前王の頃から暗躍する、年季の入った悪党だった。


「陛下!本当に私は何もしておりませぬ。それよりこの無礼な男は何者でございますか?こやつにこそ罰をお与えください」


 ガモンズは俺を指さして言った。


「こやつを知らぬか。無理もない。魔大戦での極秘任務であったからな」

「陛下……」

「この男は魔王を倒した幸運団(フォルトゥナ)の最後の生き残り。剣士ロイだ」

「まさか……魔王を倒した冒険者が……陛下はこやつにお命じになって、私どもを……」

 

 ガモンズ伯爵はがっくりとうなだれる。

 どうやら観念したらしかった。


 別に国王から依頼を受けたわけではなかった。

 俺の行動とバルビエやガモンズの逮捕が重なったのは、単なる偶然の一致である。

 バルビエの言葉は過大評価だった。

 もちろん俺は、この場で正直にしゃべる程お人よしではない。

 

 一旦その場が落ち着くと、俺はさっきから気になっていた事を王に告げる。


「陛下。屋内に私が探しておりました少年と、他にもおそらく何人か囚われております」

「今探させている。おぉ、どうやら無事らしいな」


「ロイのおじさん!」


 ダンが駆け寄ってきて、俺に抱き着く。


「大丈夫だったか?」

「うん、全然。ありがとね」


 兵士に連れられて、ミランダたちもやってくる。


「ダン!」

「ごめん、母ちゃん」

「まったくこの子は、全く……」


 ミランダは言葉に詰まり、それ以上何も言えないようだった。

 その様子にギルベルト三世は声をかける。


「なかなか利発で良い子だ。無事でなによりであった」 

「ロイさん、この方は……」


 ミランダは俺と王を交互に見る。


「アステリア王国の国王、ギルベルト三世陛下だ」

「ええ!」


 ミランダや周囲の男たちも慌てて平伏する。


「よいよい。このような時だ」


 国王はそれに鷹揚に応じ、そして俺に向かって告げる。


「さて、ロイよ。そなたに言わなければならない事がある」

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