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魔王殺しの最強剣士、居酒屋の親父になる~引退した元SS級冒険者のおじさんは、王都の片隅で正体隠してひっそりと無双する  作者: 流あきら
一章

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008 乱闘

「ダンはいないが……あんたは?」

「ミランダさんの使いのもんで」


 そういえば、どことなく見覚えがあった。

 あの時ミランダと一緒にいた船大工だろう。


「ダンがどうかしたのか?」

「実は朝から姿が見えねぇんでさ」


 嫌な予感がする。


「わかった。すぐ行く」


 俺は男と共に、ミランダの家へと向かった。


「あぁ、ロイさん。来てくれたんだね」

「余計なことはいい。何が起こったか話してくれ」

「地主に何も聞かずに出ていってくれって言われてさ。大方バルビエ商会の奴らが手をまわしたんだろうけど」


 どうしたらいいのか、どこに相談したらいいのか、ほとほと困り果てていた。

 するとダンが、奴らの悪事を暴いてやると言ったきり、姿を消したのだという。

 

「ふむ。まさか……な」

「子供の言うことだって、ほうっておいたんだけど、その……まさか……」


 その時、家の外から声が響く。


「おぉ、ミランダ。手分けして探したんだけど、さっぱりだ。邪魔するぜ」


 数人の日焼けした男たちが入って来た。


「ありがとよ。こっちも、何もわかんなくてさ。衛兵のとこへ行こうかと」

「へっ。奴らは平民同士の争いには首つっこまねぇよ。なんかあっても、犯人捕まえて連れてこいっていう腰抜けどもさ」

 

 リーダー格らしき男が顔をしかめて言う。


「やっぱりさ。一人でバルビエ商会のとこに行ったのかも……」

「面白れぇ。なかなか見どころのある子じゃねぇか、ダンは」

「腹決めたよ。あたしもバルビエ商会の所に行く」

「おぉ、いいねぇ。付き合うぜ」

「駄目だ。これ以上、あんたらに迷惑かけられないよ」

「なに、あそこにゃ俺の仲間も嫌がらせされてなぁ。腹に据えかねてたんだ。大商人様だか、貴族様だかしらねぇが、海の男たちを舐めてもらっちゃ困るぜ」

 

 周囲から賛同の声があがる。


「待ってくれ!」


 俺はあわてて口を挟む。


「ミランダ、誰だいこいつは?」

「冒険者のロイだよ。こないだ知り合ってね」

「ほう」


 男は俺を上から下までじろじろと見た。

 どうやらおめがねにかなったらしく、にやりと笑みを浮かべた。

 

「こうまで強引に事を進めるとしたら、やばいのがついてると思う。後ろ盾の貴族だけでなくてな。おそらく魔術師が何人かいるだろう」

「うーん。そうか。魔法となると、こっちはさっぱりわからねぇ」

「だから俺が行く」


 ミランダが驚いたように俺の方を見る。


「そこまでしてもらうわけにはいかないよ。これはあたしたちの問題だ」

「バルビエの手先にはこっちも迷惑かけられてる。いずれ決着をつけなければならんと思っていたんだ。愚図愚図している暇はない」


 俺はきっぱりと言った。


「わかった。あんたに任せるよ。でも、あたしたちもついていくよ」


 ミランダの決断は早かった。

 

「もちろんだ。ただし俺の指示に従ってもらう」

「承知した。あんたがリーダーだ」

「無駄かもしれんが、衛兵の詰所へ連絡してくれ。念のためだ」


 男たちの一人は衛兵の所へ行き、俺たちは埠頭の倉庫へと向かった。

 元々こちらがバルビエ商会の本店だったらしい。

 リーダー格の男の知り合いにも声をかけ、増援も頼むことにした。


「船大工だけじゃねぇぜ。船乗りに漁師に、荷運び人に……荒っぽいのが揃ってるからよ」

「そりゃ頼もしい」


 半分は本気で言った言葉だった。

 ただ何人いようが、魔法や魔族との戦いとなるとまた別だ。

 強大な軍事力を誇るアステリア王国も結局、冒険者たちの力を借りざるを得なかった。


 俺たちは埠頭の一角にある、バルビエ商会の事務所へと向かう。

 さほど時間もかからず、目的地についた。

 倉庫が立ち並び、港のメイン埠頭からは少し離れたところにあった。


「ここで待っててくれ。何かあれば呼ぶ。三十分して戻らなければ、逃げた方がいい。できればだがな」

「けっ。尻尾巻いて退散したとなりゃ、男がすたるぜ。これを持って行ってくれ」


 男の一人が呼び笛を差し出した。

 俺は受け取ると、彼らを待たせたまま、俺は一人で目的の場所へと近づく。


(思ったより見張りが少ないな)


 俺は気配を消して、ゆっくりと進む。

 人が少ないということは、おそらく魔術結界で防御しているのだろう。

 俺は額に【気】を集中する。


 ふと、一つの豪華な建物が目につく。

 その周囲には、一人も見張りがいない。

 何かを感じて、俺はそこに向かった。

 近づくにつれ、左手の魔剣が熱を帯びる。


「しかしこんな所で大丈夫かな」

「大げさな障壁(バリア)など張ったら、魔力反応でかえって目立ちますから、結界で十分です」


 テーブルの中央には、二人の男が向かい合わせに座っている。

 一人は商人風のいでたち。

 もう一人は服装からして貴族だろう。

 後ろに何人か、剣を帯びた奴やフードを被った魔術師らしき人間がいる。


「だがあの小僧には破られたではないか、バルビエ」

「これは面目ありません。特別な「目」を持つもの以外はわからないはずですが、伯爵閣下」


 おそらくバルビエと、ガモンズ伯爵か。

 こんな開けた場所で密談とは、不用心なことだ。

 もっとも普通の人間なら、ここまでたどり着けないだろう。


 その後の会話は、どこそこの酒は美味いだとか、新しく入団した新人女優だとかいった、世間話だった。

 このままでは埒があかない。


 いきなり会えたのは幸運だった。

 あの二人と俺の間には、護衛が何人かいる。

 ここは先制攻撃しかない。

 

「お話し中すまんがね」


 不意を突かれて、その場にいた全員が一瞬固まり、驚愕の表情を浮かべた。

 その間抜け面は、王都中の人間に見せたやりたいほどだった。


「な、なんだ貴様は……」

「ダンを返してくれ。それだけでいいんだ。そうすれば今日の事は黙っておく」


 何かを言おうとした商人に対して、俺はすばやく言葉をかぶせる。


「ふむ。何をどこまで聞いた?」


 貴族が余裕のあるそぶりを見せる。

 だが瞳は若干落ち着きがない。


「俺は何も知らないし、何も聞いていない。物覚えも悪くてね。ここであったこともすぐ忘れるよ」 

「わかった。ちょっとした手違いだった。あの子供は奥にいる」


 貴族が屋内の一室を指し示した。

 俺はそちらへ向けて歩き出す。

 どうせこういう奴は、後ろから斬りかかってくるタイプだ。


 案の定、俺が屋内に入るやいなや、背後に激しい殺気が渦巻く。

 俺は素早く振り向くと、剣を抜き【気】をこめ、襲い掛かってくる炎や風の刃を弾き、逸らす。

 

 周囲から声にならないどよめきがおこった。

 障壁(バリア)で防ぐならともかく、剣で魔法を弾き飛ばすなど、常識外だったのだろう。

 俺のこの技を初めて見た奴は、大抵驚いてくれる。


「昔師匠に習った技でな。受け流しさ」


 喋り終わる前に、俺は敵目掛けて走り出していた。

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