010 ウミネコ亭再始動
王が俺に言わなければならないこととは見当がつかない。
「はい。何でございましょう」
「おぬしが事態に感づいていると聞いてな。会えるやもしれぬと思って、念のため持ってきておいて良かった」
王は周囲の人間に合図をする。
お付きの人間が、一つの書状をうやうやしく王に差し出した。
王はそれを読み上げる。
「戦士ロイ。こたびの魔大戦での数々の武勲、また魔王を討伐した功績により、王国の名誉伯爵に任ずる……一代限りのもので領地はないが、王との謁見が許可され、年金もつくぞ」
「陛下!そんな……自分には過ぎた地位でございます」
「功績を評価し、それにふさわしき恩賞を与えるのも王の役目。そなたが何も受け取らぬでは、他のものにも示しがつかぬ」
それは確かにそうかもしれない。
宮仕えは性に合わないので断ったが、単なる名誉とあれば、ここは受けるべきだろう。
「わかりました。レオン、イザベル、シェン。彼らの代わりに拝領いたします。どうか彼らの功績にも報いてくださるよう、僭越ながら陛下にお願い申し上げます」
「もちろん彼らにも、おぬしと同様の恩賞が与えられるだろう」
「重ね重ねのご好意、感謝いたします」
「うむ」
ギルベルト三世は満足そうにうなずいたあと、周囲に向かって宣言した。
「剣士ロイは王国貴族であり、国家の功労者である。以後ロイに仇なす者は、予の意志を無視し王国に敵対するものと心得よ」
伯爵やバルガスの顔が微妙にうごめいた。
レティシアはじめ部下達は、うやうやしく頭を下げる。
「しかし、陛下。なぜこのような場所に」
「なに。いつも王宮にいては、息が詰まる。それにおぬしがあまりに何も受け取らぬでな。無理やり押し付ける趣向を考えたわけだ」
「はい……その……申し訳ございません」
「いや、いい。改めてきこう、ロイ。わしに仕える気はないか?」
「重ね重ねのお申し出、感謝致します。ですが俺はウミネコ亭を継ぎます。それが亡きレオンとの約束ですので」
俺はギルベルト三世の目をまっすぐに見つめた。
しばらくして、ギルベルト三世はかすかに笑みをみせると、ゆっくりとうなづいた。
「そうか。大陸最強の剣士は、一介の酒場の主となるか。それもまた一興」
王の笑い声が響く。
そしてそれは周囲の人々にも広がっていった。
それがこの事件の終わりの合図だった。
それから一か月後。
レオンやイザベル、シェンを含む、戦没者たちの葬儀は盛大に執り行われた。
あらためて、魔王を倒したのが幸運団であることが大々的に公表され、功績が称えられる。
当然俺だけでなく、彼らにも貴族の称号が与えられた。
「しかしなぜお前があそこにいたのだ?」
レティシアは胡散臭そうに聞く。
「ただの偶然さ」
「やはりお前はあやしい奴だ。これからも監視せねばならん」
冗談なのか本気なのか、よくわからない事を言う。
「ロイのおじさんって、魔王を倒したんだ!そりゃ強いに決まってるよね。ねぇ、やっぱり剣を教えてよ」
「そのうちな」
ダンは相変わらずだった。
「これ、ダン。ずうずうしい。ロイさん、色々ありがとね」
「ありがとう、ミランダ。ウミネコ亭の件は頼んだよ」
「任せとけって。腕をふるって、元通りに……元よりずっと立派に建て直すよ」
三人の功績を賞する書状と勲章は俺に預けられた。
レオンの分はティータの家に保管するとして、残りの二つは託すべきところがあった。
「おぉ、これは。ここに置かせていただいてよろしいのですか?」
女司祭のヴァレリーは、俺と書状を交互に見ながら言う。
「ええ。イザベルが帰るべき場所は、ここですから」
「わかりました。大切に保管させていただきます。これも何かのご縁ですわ。いつでも遊びに来てくださいね」
それから孤児院を出ると、俺は冒険者ギルドに向かった。
「お、来たかロイ。あのな……」
「だから冒険者には戻らねぇって言ってんだろ、デニス」
「ちぇっ。最後まで言わせろ」
シェンの身寄りは俺たちも知らない。
天涯孤独だときいていたが、本当かどうかもわからない。
「シェンへの書状と勲章を預けるのはここしかないと思ってね」
「いいのかねぇ。こんなとこに置いて……あぁ、半年たったら開けてくれって箱の件もあったな」
「頼むよ」
「なぁ、ロイ。今回、俺の情報は役にたったろ?」
「まぁ、そう言えなくもないかな」
「そうだろ?だからさ……」
ということで、新米冒険者の訓練に付き合うことを約束させられてしまう。
確かにデニスには世話になったし、仕方ないだろう。
そして今俺は、王都の北の戦士の丘にいる。
国家のために戦い亡くなった人たちを祀る場所だ。
元来、国などとはかかわりのない風来坊である冒険者が、ここに埋葬されるのも妙なものだった。
俺と、カーミラ、ティータは、レオンたちの墓の前に立っていた。
墓石には、姓名と生没年、そして「この世で最も勇敢なるもの、ここに眠る」とだけ刻まれている。
その横には、特別な石の棺を作ってもらっていた。
「今まで世話になったな。ゆっくり休んでくれ」
俺は魔剣を棺の中に入れる。
「なんかもったいなくないですか?持っていればいいのに」
ティータが俺と魔剣を交互に見ながら言った。
「俺にはもう必要ないよ」
「でも……」
「魔族や魔物との戦いも終わった。もうこの剣を振るうこともないさ。これからは居酒屋のおやじになるんだからな」
するとそれまで黙って聞いていたカーミラが言った。
「ふむふむ。だが魔剣がおぬしを選んだのじゃ。そうそう絆は切れるものではないぞ。時が来ればいずれ」
「へぇ。予言かね?」
カーミラは不思議な力を持つ古代種族だ。
彼女なりに何か予感のようなものはあったのだろうか?
だが今回のトラブルでも、魔剣を使う事はなかった。
もう二度と、この魂を吸う魔剣を手にする機会も訪れないだろう。
やるべきことは、数限りなくある。
ウミネコ亭の新装開店。
料理の修行もやり直しだ。
今までのメニューも復活させたいし、余裕があれば、宿や雑貨屋もまたやりたい。
「さて、行くか」
「はい!」
「うむ」
俺たちは丘を降り、これから暮らすべき街へと向かった。
(第一章 了)
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この話で一章は終了です。次話からは毎朝7時過ぎに投稿予定です。
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