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魔王殺しの最強剣士、居酒屋の親父になる~引退した元SS級冒険者のおじさんは、王都の片隅で正体隠してひっそりと無双する  作者: 流あきら
一章

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006 船大工

「てめぇ、ガキだからって容赦しねぇぞ」


 数人の大人と、子供がもめている。


「年寄りと子供ばかりの時を狙って来るのは卑怯だろ!」

 

 大人たちに立ち向かっているのは、まだ十歳くらいの少年だった。

 俺はひとまず物陰から見守る。


「だからよ。この場所を俺たちが使ってやるって言ってんのよ」

「いい加減しつこいぞ。みんな迷惑してるんだ」


 少年は勇敢に言い返した。

 ここでもいざこざがおこっている。

 おそらく、バルビエ商会の者だろう。 

 どうやらあちこちの商店や民家にまで、手あたり次第自分たちの物にしようとしているらしい。


 男たちは一様に、薄笑いを浮かべたり、舌打ちしたりしている。

 さすがに年端もいかない子供をまともに相手にはできないのだろう。

 だがその時、先頭の男が業を煮やしたのか少年に向かって進み出る。


「うるせえぞ、坊主」


 男は少年を突きとばすと、小さな体は道端に吹っ飛ばされる。

 少年は立ち上がるとそのまま、路地裏へと駆けこんだ。

 だが逃げたわけではなかった。

 すぐに戻ってくると、手にした棒を構えている。


「消えろ、ごろつき!」


 小さい体は闘志に満ち溢れていたが、ごろつきたちは、にやにや笑っているだけだ。

 だが男たちが次の行動を起こそうとした瞬間だった。

 

(これは……)


 少年は踏み出そうとした一人の男の足を払う。

 偶然かとも思ったが、その後も男たちが動き出す直前に、先手をうって攻撃を仕掛けてひるませる。

 明らかに少年は、男たちが攻撃に移るタイミングを読んでいた。

 我流だが振りも鋭い。

 

『実戦で重要なのは、目・足・技の順だ。だが相手の動きを見抜く目というのは、どうやら天性のものらしい』


 かつての剣の師によくそう言われた。

 相手の攻撃意志が発動した瞬間を察知し、攻撃が行われる前に制する事ができれば、理論上は百戦百勝である。

 極端な話、攻撃手段が剣だろうが魔法だろうが関係ないわけだ。


 もちろん才能が無くても、訓練である程度上達はできる。

 だが同じことをしていても、誰も俺のようにはなれなかった。

 超一流の魔術師であれば、魔力の流れを感知し、俺と似たようなことができるようだが。


 少年の狙いどころは良かったが、多人数の大人相手に勝てるはずもない。

 一瞬ひるんだものの、男たちは立ち直り、少年に向かって殴りかかる。

 そして男たちが少年に一斉に襲い掛かろうとした瞬間、俺は素早く近づいて一人の手をつかむ。


「まぁまぁ。子供相手に大人げないじゃないか」

「なんだてめぇは。関係ねぇやつはすっこんでろ」


 型どおりの時に、型どおりの事しか言えない奴だ。

 俺はそのままそいつを、男たちの集団相手に投げ飛ばす。


「まぁ、その棒を貸してみな、坊や」


 俺は少年に向かって手を伸ばす。


「坊やじゃねぇ。ダンだ。貸してもいいけど料金は?」

「言うねぇ。銀貨のかわりにいいもん見せてやるよ」


 ダンは黙って俺に棒を渡す。

 俺はごろつき達に向かって歩み寄る。


 基本的には、先ほどダンがやったことと同じだ。

 男たちが前に出る瞬間をとらえ、軽く棒を添えるようにするだけだ。

 攻撃に移る瞬間を攻められると、ほとんど力を入れなくても、相手は崩れる。

 ごろつきたちは全員、派手に転倒し吹っ飛んだ。

 

 もちろん強敵相手には、こう上手くはいかない。

 上達すればするほど、攻撃を読まれにくくする技術も発達していくからだ。

 だがこんなごろつき共は、俺の敵ではなかった。


「す、すげぇ」


 俺が振り返ると、ダンはぽつりとそう言った。


「まぁ、こんな感じかな」

「すげぇよ。あんな風にできるなんて……それにおじさんの動きも全然読めねぇし」


 ダンはえらく感銘を受けたようだった。

 だが戦いは終わったわけではない。

 相手を崩しただけで、ダメージは与えていないからだ。

 男たちを全員叩きのめして退散させるか、ひっつかまえて衛兵の詰所にだすか、一瞬迷った時だった。


「何してんだい、お前ら」


 路地の向こうから声が響く。

 そこには大柄な赤毛の女が立っていた。


「かあちゃん!」


 ダンが叫ぶ。

 そして赤毛の女の後ろから、十人以上の体格のいい男たちが出現する。

 それを見て、完全に闘志を失ったのか、ごろつきたちは一斉に逃げ出した。


「二度と来るんじゃないよ!」


 赤毛の女は叫んだ。


「かあちゃん。この人に助けてもらったんだ」

「ダン、あんたねぇ。いつも無茶ばっかりで……ああ、ありがとね。私はミランダ、この子は私の息子でダンさ」


 ミランダは俺に向かって笑顔を見せる。


「ロイだ。ちょっとした行きがかりでな。大したことはないさ」

「そうかいそうかい。まぁ狭い所だが、入っとくれ」


 俺はミランダの家に招かれる。

 長屋の一棟で、中はそれなりの広さの部屋が数室あるようだった。

 部屋の片隅に、仕事道具らしきものがおいてあった。

 椅子に座るとお茶が出される。 

  

「これはすまない」

「東方のお茶さ。本来あたしたちにゃ手が届かないもんだけど、安く分けてくれる人がいてね。あたしは船大工でね。ここらの人間は皆そうだけど」

「なるほどな。ところであの男たちは?」


 ミランダの答えは、半ば予想していた通りだった。


「バルビエ商会の手先どもさ。多分ね」

「奴らはちょくちょく来てるのかい?」

「ここを立ち退けってさ。冗談じゃないって、あたしらいつも言ってんのさ」

「ここの住人追い出して、奴らはどうしようっていうんだ?」

「それがよくわからないんだけどね。再開発だか何だかしらないけどさ」


 ミランダによると、バルビエ商会は元々は港湾荷役の元締めだったらしい。

 それがここ十年ほど急速に力をつけ、手広く商売をするようになったという。 


「へぇ。貴族だかなんだかが、後ろ盾にいるのかい?」

「どうやらガモンズ伯爵の庇護を受けているってさ。その後ろには更に大物も控えてるってもっぱらの噂でね」


 『黄金の牙』のデニスと同じことを言う。

 

「何だかうさんくさい裏がありそうだな」

「まぁねぇ。ところであんたは傭兵?それとも冒険者かい?」


 ミランダは一旦お茶を飲むと、俺をしげしげと眺める。


「元冒険者さ。引退して、友達の酒場を一緒に手伝うつもりだったんだ。ウミネコ亭っていうんだが」

「ウミネコ亭!もちろん知ってるよ!あそこの親父さん達は本当にお気の毒で……まさかレオン坊やも?」

「あぁ」


 否定しても仕方ないことだった。

 俺は短く答える。


「そっか……戦争が終わって一ヶ月以上たつもんねぇ。何の音沙汰もないから、多分……って思ってたんだけどさ。ティータも気の毒にねぇ」


 ミランダはそっと涙をぬぐう。


「あぁ。それで親友のためにも、ウミネコ亭を再建したいんだが、建物や設備をなおす職人が見つからなくてな」

「そんな事ならお安いご用……と言いたいところだけど。船の仕事が無い時は、あちこち手伝いに行ってたんだけどさ」


 戦争が終わって、予定されていた様々な船の建造も中止になったらしい。

 それで仕事にあぶれているという事だった。

 船大工であっても今までは、様々な建築や工事に携わって糧を得てきたということだったが……


「あちこちで仕事を断られてるって?こっちはあんたみたいな人を探してるんだが」

「なぜか今まで付き合いのあったところが渋い顔してね。仕事は頼めないってさ。あんたの申し出は、それこそ渡りに船ってやつなんだけど」


 どうも色々きなくさい。

 破壊された王都の再建となると、とてつもない利権が動く。

 住んでいる人たちを追い出して、彼らは何をしようというのだろうか?




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