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魔王殺しの最強剣士、居酒屋の親父になる~引退した元SS級冒険者のおじさんは、王都の片隅で正体隠して無双する  作者: 流あきら
四章

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038 幻影騎士

 幻影騎士(ファントムナイト)の鎧は、魔法や魔力あるものの攻撃を全て無効化する。

 例え戦略級魔術だろうと、魔王の攻撃であろうと。

 これが魔剣の力の一つ、幻影騎士(ファントムナイト)だった。


 半ばは理性を失っているであろう魔物も、俺の異常さに気づいたらしい。

 だが大集団が狭い街道にひしめいているのだ。

 例え突進をやめたとしても、後ろから来た集団に踏みつぶされるだけだった。


 俺は魔剣をふるう。

 横殴りの一閃で、数十体の魔物が両断されて吹き飛ぶ。


 右へ、左へ、上へ。

 魔剣(ルドラ)は咆哮をあげながら、魔物を屠り、魂を吸い取る。


 もはや相手が誰か、何のために戦っているのかという思いすら、頭から消し飛ぶ。

 魔物の爪も、牙も、息吹(ブレス)も、魔法の風や氷の刃も、幻影騎士(ファントムナイト)の鎧を傷つけることはできなかった。

 向かってくるものは全て魔剣の餌食になる。


 魔剣は時にその刀身を伸ばし、形を変え、魔剣の風圧ですら魔物たちを冥界の神ジャデルの元へと送る。

 魔剣は魔物の魔力を吸うたびに威力を上げた。

 一度に千体を倒した事もあったかもしれない。 


 どのくらいの時間が過ぎたかも、もはやわからなかった。

 とはいえ時間にして十分くらいだったろう。

 いつの間にか、魔物たちの突進は止まっていた。


 そして魔物の群れをかき分け、前方からこちらに近づいてくる一団があった。

 走竜に乗り、巨大な体に曲がりくねった角を持つ姿。

 魔族だった。

 

「聞きしに勝る力だな」


 先頭の一体がにやりと笑う。

 その時俺の変身は解けかけていた。

 鎧も兜も籠手も、徐々に溶け、蒸発したように消え失せる。


「やはりか。幻影騎士(ファントムナイト)には制限時間がある。思ったより、魔法無効化の有効時間は短かったな」


 確かにその通りだ。

 残念ながら、ずっと幻影騎士(ファントムナイト)のままではいられない。

 魔力による攻撃を無効化する幻影騎士(ファントムナイト)の鎧をまとえるのは、一日わずか十分間だけだった。


 もし幻影騎士(ファントムナイト)に制限時間が無かったら。

 一日とはいわず、せめて一時間でも幻影騎士(ファントムナイト)のままでいられたら。

 そうすれば、レオン、イザベル、シェンたちは死なずにすんだろう。


「お前は誰だ?」


 俺は呼吸を整えつつ言った。


「俺はゲハルという。お前に殺された、魔将リュザの弟だ」

「そうか」

「他に言う事はないのか?他人の兄を殺しておいて」

「人であろうと魔族であろうと、殺すのは罪だと言うなら、その非難はうけよう。だがあれは一対一の堂々とした戦いの結果だ」

「ぬけぬけと」

「元はと言えばおまえの兄が、何の罪もない国境の村を焼いたからだ」

「ふん!」


 ゲハルは俺の言葉にまともに答えようとせず、いきなり傍らの魔物を掴み引き裂いた。

 そしてその魔物を喰らい始める。


 するとゲハルの身体が巨大化し始める。

 魔族の変身(メタモルフォーゼ)だがそれだけではなかった。

 金色の体毛と金色の瞳。

 通常の倍ほどの背丈。


「どうだ。これが古代魔術の力よ」


 にやりと笑って言う。

 周囲の部下達も、ゲハルに倣って魔物を喰らっていた。


「おいおい。魔物たちは仲間じゃなかったのか?」

「雑魚どもは、魔力を吸い取るための単なる生贄だ。これが真の変身(メタモルフォーゼ)よ」

「それで……そんな悪趣味な事してどうしようというんだ?」

「決まってる。この国を俺のものにするんだ」


 ゲハルは誇らしげに宣言した。


「やめておいた方がいいと思うがね」

「今、アステリア王国は弱っている。本来もっと時間をかけるつもりだったが……ちょくちょく余計な邪魔が入ったのでな」

「へぇ、そうかい」

「とぼけるな。あちこちうろちょろして、俺たちの邪魔をしたのはお前だときいているぞ」


 なるほど。

 暗殺教団を使って貴族をそそのかし、神狼(フェンリル)をとらえて操ろうとしていたのは、やはりゲハルの一味だったわけだ。


「そりゃすまんな。そんなつもりはなかったんだがね」


 俺の言葉は、半分くらい本気だった。

 様々な事件に巻き込まれたのは、必ずしも俺の意志ではない。

 とはいえ見過ごすこともできなかったわけだが。


「まぁいい。魔剣を渡してもらおうか、ロイ」

「嫌だと言ったら?」


 ゲハルはにやりと笑うと部下に合図する。

 巨大な台車が前へと進み出て、俺から二十メートルほどの距離で止まる。

 そこにいたのは――


「ティータ!」

「この女、思ったより魔力抵抗が高い。操っておぬしと戦わせてやろうと思ったが、うまくいかなかったわ。さすがは賢者レオンの妹と言うべきかな」


 白いローブをまとい、磔台に縛り付けられている。

 左手にはあの海妖(セイレーン)の腕輪があった。

 魔族や暗殺教団の魔術では対処できなかったらしい。

 あの腕輪が、最後の最後でティータを守ってくれたのかもしれない。


「ロイさん」


 ティータは目に一杯涙をためていた。


「ティータ!今助けてやる」

「居間の戸棚の奥に……クッキーの箱があるから……食べてくださいね……ロイさんにあげます」


 ティータは声を絞り出して、無理に笑顔をつくる。

 俺は素早く状況を計算する。

 敵の配置には隙が無い。

 倒せたとしても、ティータを救い出すのは無理だろう。


「もう一度言う。その剣をこちらに渡せ……さもないと」


 ゲハルが部下に目で合図する。


「きゃああああ」


 ティータの悲鳴が響く。

 出力を弱めてはいたのだろうが、飛来する雷光がティータを打ち据える。


「わかった。魔剣は渡す。だからやめろ」


 俺は魔剣を宙高く放った。

 剣は回転すると、俺とゲハルの中間の地面へと突き刺さる。

 ゲハルはゆっくりと近づくと剣を引き抜く。


「おぉ、この禍々しい魔力……これが魂を喰らう剣、魔剣ルドラか」

「魔剣は渡したぞ。ティータを解放しろ」


 ゲハルは嫌な笑い方をする。


「そんな約束などしとらんぞ」

「……もう一度言う。ティータを解放しろ。そして下らぬ陰謀などやめ、この地を去れ」

「ロイ、お前は魔法が使えない。魔剣もわが手にある。今のお前に我らに抗うすべはない」

「そうか。俺は忠告したぞ」

「ほほほ。強がりも心地よい」


 俺はゲハルの手にある魔剣に向かって叫んだ。


「出でよ、賢者の魂よ!少女を解き放て!」


 ふいに魔剣が光を放つ。

 そして一つの影が空中に出現する。

 それはローブをまとい、杖を手にした人の形をとっていた。

 

 影は杖をかかげると、ティータの周囲に薄い光の膜ができる。

 そしてその光の膜は、ティータと一緒に磔台ごと浮かび上がった。

 あわてて周囲の魔族達が攻撃しようとしたが、光はそれらの全てを跳ね返す。


 光の膜は俺の後ろにやってくると、ゆっくりと着地した。


「ティータ!大丈夫か!」


 だがティータは俺を見てはいなかった。

 彼女の視線は、空中に浮かぶ人影に一点に吸い寄せられている。


「え……まさか……兄さん?」


 ティータはあえぐように言葉をもらした。

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