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魔王殺しの最強剣士、居酒屋の親父になる~引退した元SS級冒険者のおじさんは、王都の片隅で正体隠して無双する  作者: 流あきら
四章

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034 再び剣を手に

 俺は王都北の丘に来ていた。

 レオンたちが眠る場所、そして魔剣ルドラを棺に納めた場所だ。

 俺は丘のふもとの小川の近くで馬を降りる。

 

「ここで待っていてくれ。戻ってこないようなら、先に帰っていていいぞ」


 軽く頭をなでて言い聞かせる。

 馬は俺に頭をこすりつけ、了解したようにブルルっと鳴いた。

 俺はあえて、木に手綱を繋がなかった。


 そして丘を登り始める。

 魔王を倒したが、全てが終わったわけではなかったらしい。

 

 暗殺教団。

 古代種族を封印する力。

 人の心を操る魔術。

 そしておそらくその裏にいる魔族。


 今までの事を思い返せば、生半可な相手ではない。

 以前はレオン、イザベル、シェンたちがいた。

 正直魔剣があっても、今の俺に勝てるかどうかわからない。


 だがやっと見つけたささやかな片隅の安らぎ。

 俺の大切な人々。

 彼らがそれを脅かそうというなら、容赦はしない。

 

 しばらく歩くと、レオン達の墓に到着する。

 横にあるのが魔剣ルドラを納めた棺だ。

 俺はその前に立ち、ひとつ大きく息をつく。


 その時――

 

「ロイ!」


 ふいに後ろから蹄の音と、俺を呼ぶ声がした。

 馬から降り立ったのは、レティシアだった。


「レティシア、どうしてここに?」

「部下から事情は聞いた。お前ひとりを戦わせるわけにはいかん」

「これは俺の問題だ。それにまだ謹慎中だろう?」

「いや、騎士として助太刀しないわけにはいかん。ここにあるのが、ひょっとして魔剣ルドラか?」  


 その言葉が終わるや否や、俺は腰の剣を抜きざまに切りつける。

 殺す気はなかったが、相手の反応は早かった。

 俺の剣はレティシアの髪の毛ひと房を切り落としただけだった。


「なぜだ、ロイ?なぜこんな真似を……」

「いい加減下手な芝居はよしてもらおう。お前がレティシアに化けて辻斬りをしていたのだろう?」

「な……」

「俺がここに魔剣を封印した事を知っているのは二人だけだ」

「今はそんな事を言っている場合ではない!ティータが危ないんだ!」

「舐められたもんだな。歩き方一つで別人とわかる。それに何よりお前の【気】はレティシアが発する【気】と違う」


 これ以上胡麻化せないと悟ったのか。

 レティシア……に偽装した女は、一気に飛び退る。

 俺は周囲を囲む気配に既に気づいていた。


「さすがだな、ロイよ」


 いつのまにか、フード被った魔術師や鎧を身に着けた戦士たちがいる。

 ざっと三十人ほどだろうか。


「俺一人にご苦労なこった」

「SS級冒険者を高く評価しているのさ。感謝して欲しいね」

「ちょっと野暮用でね。そこをどいてくれないか」

「残念ながら、そうはいかんさ」

「ティータはどこにいる?」


 俺はさりげなく移動しながら、相手の隙をうかがう。

 

「言う必要があるかね」

「だろうな。待ち合わせは王都の東のリデル湖じゃなかったのか?」

「君に御足労願うのは申し訳なくてね。こちらから出向いたわけだ」

「なるほど」


 最初からティータを引き渡す気などなかったのだろう。


「そこにあるのが、魔剣ルドラだろう」

「勘がいいな」

「どうあってもそれを渡してもらうぞ」

「あんたらには扱えないと思うがね」


 俺はのんびりと、相手の出方を待ってはいなかった。

 全速力で突進すると、目の前に立ちふさがる、二人を切り伏せた。

 

 リーダー格の男と、偽レティシアはできれば生かしてとらえたい。

 ティータの行方を吐いてもらわねばならない。


 だがさすがに今までの相手とは違い、一筋縄ではいかなかった。

 剣を帯びた戦士風の男たちの身体がみるみる膨れ上がる。

 角が伸び、筋肉が盛り上がり、体中が狼のような体毛で覆われ、巨大化していく。

 魔族の行う、変身(メタモルフォーゼ)だ。


「お前が魔王を倒した剣士とはいえ、仲間もいない。魔剣もない。どうする?」


 男は勝ち誇った笑いを挙げる。

 だが再び状況は変わる。

 その時、俺は暗黒の【気】を感じる。

 魔剣を納めた棺から黒い霧が漂い、辺りに充満する。


 石の棺の蓋がひとりでに開き、中から浮かび出てきたものがあった。

 そして俺の視線の先に、宙に漂う魔剣が出現する。


「おぉ。あれが魔剣ルドラ。素晴らしいぞ!」


 そして魔術師達数人が、何やら印を結び、魔剣に向かって念じる。

 

 だが――


 グルルウォオオオオオオオオン


 周囲を圧するような重々しい音が響き渡る。

 皆一様に、魔剣から目が離せない。

 魔剣の放つ、禍々しい【気】に身体が硬直し、その場から動けないようだ。


 魔剣は俺の元まで、宙を滑るようにやってくる。

 そして短い間隔で何回か、野獣の方向のような音を発した。

 まるで、なぜ自分を手放したのだと、抗議しているかのようだった。

 俺は魔法銀の剣を鞘に納めると、魔剣を握る。


「さぁ、魔剣を手に入れたぞ。どうする?」


 その時ようやく、魔術師や魔族が動き出した。

 雷光や炎が飛び交い、まっすぐ俺を狙ってくる。

 だが相手の魔法が到達するより早く、俺は既に動き出していた。

 魔族が俺にめがけて突進してくる。

 

 魔剣からの【気】が俺の体に流れ込んでくる。

 魔族が腕を振り上げ、俺に向かって振り下ろす。

 俺は身を沈めざま、横なぎに魔剣をふるう。


「!!」


 周囲から声にならないどよめきがおきる。

 魔族の体は、血しぶきをあげながら文字通り真っ二つになった。

 魔剣は通常の戦闘では、少し切れ味の良い剣にしかすぎない。

 魔力あるもの、この世ならぬもの相手にこそ、真価を発揮するのだ。


 次々と炎の刃が俺に襲い掛かる。

 俺は剣先で円を描くように魔剣を回転させる。

 魔術によって発生した炎は、魔剣に吸い込まれて消滅する。

 

 なおも攻撃してくる魔族を、ある者は飛び上がりざま正面から真っ二つに両断し、ある者は袈裟斬りで仕留めていく。


「ちっ。ひけ、ひけぇえ」


 かなわないとみたのか、退却の命令が下り、一斉に逃げ出す。

 このまま逃がすわけにはいかない。

 せめてティータの行方を知るためにも、何人かは捕らえたい。

 そう思って、追いかけようとした時だった。


「そこを動くな!」


 鋭い声と、丘を駆けのぼってくる馬の蹄の音が響く。

 来ている鎧や紋章からして、王都の警備隊の騎士らしき者たちだ。

 数十人、いやもっといたかもしれない。

 

 警備隊は次々と、暴漢たちを拘束していく。

 魔族は俺が全て倒していたので、彼らにとってはたやすい仕事だった。


「ロイ殿!」


 兵士の一団がこちらへとやってくる。

 先頭の騎士は先日ティータの件で報告に来たグレンだった。


「悪いね、助かるよ」

「いえ、職務ですから」


 グレンは笑顔を見せる。


「あのレティシアの偽物。あいつが何か知ってそうだ」

「はい。これで隊長の名誉も挽回できます」

「奥歯に毒を仕込んでいるかもしれん。自殺されないように気をつけてくれ」

「それは大丈夫です。うちの魔術部隊が拘束してますので」


 俺は魔剣を一振りすると、小さくなって俺の腕の中に吸い込まれた。


「ずっと俺をつけていたようだな」

「お気づきでしたか。万一を考えて。お気を悪くしたら申し訳ないです」

「そんなこともない。元々はリデル湖に来いという事だった。無駄かもしれないが、行ってみるつもりだ」

「わかりました。われわれも協力致します」


 翌日リデル湖に行ってみたが、案の定誰も現れなかった。

 その後の監視は警備隊に任せる。


 ティータの行方は全くつかめない。

 一応はギルドに捜索願は出したが、見込みは薄い。

 そしてその俺の元に使者がやってくる。

 それは王宮からの呼び出しだった。

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