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魔王殺しの最強剣士、居酒屋の親父になる~引退した元SS級冒険者のおじさんは、王都の片隅で正体隠して無双する  作者: 流あきら
四章

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033 激流

「よぉ、デニス。麦酒(エール)でいいかい?」

「今日はその話じゃねぇ。ちょっと裏で話せないか」


 デニスはいつになく真剣な顔だった。

 カウンターに座り、じっと俺を見る。


「わかった」


 俺は店内をカーミラと従業員に任せ、店の裏手の休憩室へと移動する。


「招集がかかった」

 

 冒険者は、普段はそれぞれ、個人や団(パーティー)で活動する。

 複数の団がやギルドがからむ合同討伐もある。

 だがこの国で冒険者に招集がかかるといえば、意味は一つしかない。

 すなわち国王による、ギルドへの協力依頼だ。 


「ほう。相手は?魔国の残党か?それとも魔物かい?まさか他国の侵攻があるから、ていうんじゃないだろうな?」

「わからん。わからんが、その全部の可能性がある」


 そこまで事態が進行しているとは意外だった。

 俺は戸棚へ向かいコップを二つ取り出すと、容器から水を注いでテーブルに置く。


「それで?」

「わかってるだろ?お前も協力しろって事だ」

「俺は引退してる」


 デニスはそこで一気に水を飲み干し、話題を変えた。


「実はな。グルカンドとの国境にあやしい動きがあってな。王都の騎士団が、一週間前に応援に向かった」

「ほう」


 それも初耳だった。


「もちろんそれは王国の問題だ。けどよ、そうすると魔物相手の兵が足りなくなる。それで招集だ」

「なるほどね。だが俺にできることはないな」

「そりゃねぇよ、ロイ。今までだって、魔物討伐にあれにこれに、協力してきたじゃねぇか」

「それは俺が必要と思ったからさ」

「今回も必要かもしれねぇんだ。お前と魔剣ルドラの力がありゃあ、少々の事があろうと……」

「悪いが、あれはもう使いたくないんだ」


 俺はきっぱりと言う。


「……そうか。気が変わったらいつでも連絡してくれ」


 デニスは一つため息をついてそう言うと、立ち上がり部屋を出て行った。

 

 招集がかかるとは普通ではない。

 以前の招集とはすなわち魔大戦であった。


 もしかして国王直々に命令が下ることはあるのだろうか?

 俺は名誉伯爵にはなっている。

 だがこれはあくまで儀礼的なものだ。

 別にギルベルト三世の臣下ではない。


 それに魔剣ルドラを使いたくないというのは本当だ。

 剣の師匠の元での修業、魔大戦での実戦経験を経て、魔剣をコントロールできるようになったとは思う。

 

 だが魔剣はあまりにも強力すぎる。

 多くの罪なき者の魂を吸った記憶が、俺をおしとどめていた。

 戦場や魔物地帯で使うのとは違う。

 市街地や人口の多い密集地で使うとなるとどうなるか、今一つ自信が無い。


 しかしそんな俺の思いとは裏腹に、事態は激流のごとく流れ変転していく。

 それは、そろそろティータが調査実習から帰ってくる頃だと思っていた時だった。 

 朝早く店の扉が叩かれる。


「ロイさん!」


 駆けこんできて、開口一番叫んだのはマルコだった。

マルコ、パメラ、ジーナ、そして見知らぬ騎士風の男が一人。


「ティータが……ティータが」

「どうした?落ち着いて話せ」

「誘拐されたんです!」

「何だと!」

「これを」


 そこには赤い文字でこう書かれていた。


『ロイ殿へ。魔剣ルドラを持って明日の正午、王都東のリデル湖まで一人で来られたし』


 そして裏返してみれみれば、そこにあるのは蜘蛛の紋章。

 暗殺教団だった。


「何があった?順をおって説明してくれ」


 ともすれば大声をあげたくなる気持ちをおさえて、俺は言葉を絞り出す。

 

「はぁ……その……」


 騎士はグレンといい、警備隊の副隊長であるということだった。

 グレンは言いにくそうに説明を始める。

 ただ事情と言っても、そう複雑なものではない。


 要は調査に同行していたティータが、集団から少し離れた隙に攫われたという事だった。

 魔術師も騎士もいたが、あくまで調査団の護衛程度の人数と戦力にしかすぎない。 

 仮に全員の力をあわせたところで、ティータの誘拐は防げなかったかもしれない。

 そしてあのメッセージが残されたというわけだ。


「わかった」

「ロイさん、どうされるのですか?」


 騎士が俺に言った。


「どうするもこうするも、とりあえずは、相手の言う通りにするしか無いだろう」

「しかし……王都警備隊にお任せいただければ」

「暗殺教団相手にどれだけの人数を割ける?それに魔剣を持って行くのが条件だからな」 

 

 返す言葉がなかったのか、騎士は黙った。


「ロイさん、すいません」


 マルコ、パメラ、ジーナは、三人揃ってうなだれている。


「いや、お前たちのせいじゃないさ」


 俺はなるべく穏やかに話しかける。


「僕たちも連れて行ってください」

「あたしも」

「私も」


「いや、だめだ。俺一人でと書いてある。大勢で行ったら、奴らは姿を見せないだろう」


 俺はゆっくりと首を振った。


「申し遅れましたが、この事は上に報告しております」


 騎士が言う。


「それは仕方ないだろう。俺は魔剣をもう一度手に入れる。そしてティータを取り返す。後の事は俺の知った事ではない」


 俺は騎士を見る。


「わかりました」


 グレンは何かを悟ったように一礼すると去っていった。


「さて。ティータの事は気になるだろうが、お前たちは待っていてくれ。ティータは俺が必ず救い出す」


 マルコ達はそれぞれ顔を見合わせていた。

 だが彼らがついてこようが、出来る事はないと思いなおしたのだろう。


「わかりました」

「お願いしますっす」

「ティータさんを助けてください」


 そういって店を出ていった。

 俺は自室に戻る。


 戸棚の奥から引っ張り出したのは、つけ慣れた鎧と、最近愛用の魔法銀の剣だ。

 鎧は火竜(ファイアドレイク)の皮をなめし、魔法銀の銀糸を編み込んだものだった。

 籠手に脛当て、そして海妖(セイレーン)の腕輪も身に着ける。

 

「まぁ、悪くないな」


 俺は鏡の前で一人呟く。

 結局俺は、血生臭い戦いからは逃げられないらしい。


「魔剣ルドラ……か」


 聖剣アルマティ、神剣アスラとともに、古代遺物(アーティファクト)として伝わる、三つの剣の一つ。

 奴らが魔剣を狙うのは当然かもしれない。

 

 魔大戦が終わってからこの半年ほどに起こった様々な事件。

 かかわっているのは暗殺教団だけだろうか?

 デニスの話から考えるに、魔族の残党やグルカンドまで絡んでいるかもしれない。 


 とはいえ、奴らは魔剣の秘密を知らない。

 魔族だろうと大魔導師だろうと、あれを扱えるものではない。

 

 魔大戦で起こった事。

 遥か昔の故郷で起こった事。

 もう二度と、あんな事はたくさんだった。

 これで終わらせなければならなかった。


 準備が終わると、地下への階段を降り、カーミラの部屋をノックする。


「……なんじゃ……ふぁあ」


 目の前の扉が開くと、カーミラがベッドから起き上がるのが見える。


「ティータがさらわれた」


 俺は短くそれだけ言う。


「なんとな……どれどれ」


 カーミラは目を閉じて念じる。


「どうだ?何かわかるか」

「うーん。だめじゃ。うまく集中できんが、いまどのあたりにおるかもわからんのぉ」


 朝は想像以上に力が出ないらしい。


「そうか。ティータを攫った奴らからの伝言でな。魔剣を持ってこいと。今から向かう」

「ふむ」


 カーミラは俺の腕輪に手をかざす。


「手を貸してくれと言いたいが、動けなさそうだな」

「残念ながら。腕輪にわらわの念をこめておいた。いくらかは役に立つじゃろう……それと、ほれ」


 いつの間にか、地下の部屋に黒鳥が現れる。

 カーミラは紙になにやらしたためると、短い筒に入れて、黒鳥の足にくくりつける。

 「いつものところじゃ」とカーミラが言うと、入り口の扉が自然と開き、黒鳥は部屋から飛び去って行った。 


「どうした?」

「応援を頼んだ。今起きても役に立たぬ故、わらわはもう寝るぞ」

「わかった」


 今はこれ以上、カーミラと話している場合ではなかった。

 俺は部屋を出ると、馬小屋へと向かった。

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