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魔王殺しの最強剣士、居酒屋の親父になる~引退した元SS級冒険者のおじさんは、王都の片隅で正体隠して無双する  作者: 流あきら
四章

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032 予感

 その日、開店前に来客があった。


「ティータ……それに、マルコ、パメラ、ジーナ」


 彼らと会うのは夏休みぶりだった。


「近くまで来たから、寄っちゃいましたっす」


 元気少女パメラは、いたずらっぽく笑う。

 俺は蜂蜜入りのレモン水と、クッキーをだす。

 しばらくはよもやま話に花が咲いた。


「そうそう、明日から調査に同行するので一週間くらい帰ってきません」


 ティータが突然言う。


「なんだ一体?迷宮(ダンジョン)探索か?実習か?」

「龍脈に乱れがあるので、調べなければいけないんです」


 どういう事か話が見えない。


「ティータさんすごいんですよ」


 マルコが言う。

 どうも野外実習で、ティータが龍脈の乱れを見つけたらしい。

 魔物の発生の気配があったそうだ

 

「まさか……暴走(スタンピード)か?」

「まだわかりません。そのために調査団に呼ばれて」


 そして今度調査団が組織され、ティータだけでなく、マルコ達も行くらしい。

 学生の身でそんな公的な調査団に参加するとは、よほど優秀なのだろう。

 そういえば俺はティータの学校での成績を聞いた事がなかった。

 別に保護者というわけでもないが、あまりに無関心すぎたかもしれない。


 マルコ達が帰り、その日早めに店じまいした夜。

 俺は忙しく荷物をまとめるティータに声をかける。 


「危険な所や危ない魔物には近づかないようにな」

「わかってますよ!」

「危なくなったらすぐ逃げるんだぞ」

「はーい」


 ティータは返事をする。

 幼い頃は俺も、周囲の人の忠告を、時にうざったく思ったりもした。

 だがいざ自分がそういう立場になってみると、そんな平凡な言葉しか出てこない。


「おぉ、これは良いな」


 ティータの荷づくりを手伝っていたカーミラが、腕輪を手に取る。


「へぇー、やっぱりわかります?カーミラさん」

「勿論じゃ。海妖(セイレーン)族の腕輪であろう?」

「すごい!その通りです。さすがですね」 

「むふふふふ」


 カーミラは嬉しそうだった。

 海妖(セイレーン)の腕輪は、以前の事件で、セイとジュスランから貰ったものだ。


「これは持っていくがよい。ほれ、わらわが強化しておいてやろう」


 カーミラは空中で印を切る。

 一瞬、腕輪が光につつまれ、やがて徐々にその光が消えていく。


「わぁ、ありがとうございます」

「これでさらに役に立つじゃろう。必ず身に着けておくのじゃぞ」


 確かにあの事件で、腕輪はジュスランを守ってくれた。


「ところでロイさん、あの……」


 ティータが言いにくそうにする。


「ロイよ。これから着替えを用意するからの。出て行ってくれ」

「す、すまん」


 俺はあわてて退散する。

 周囲をうろうろとしては説教しかしない、邪魔なおじさんだったかもしれない。

 いささか自己嫌悪に陥る。

 そして、ティータは翌朝早く出発していった。

 

「大丈夫かねぇ」

「気にしすぎじゃ。ティータは強いぞ……ふわぁ。さて夜まで寝るとするか」


 カーミラに気にしすぎと言われても、気になるものは仕方ない。

 現に魔大戦ではティータの家族は殺された。

 万が一ティータに何かあったら、レオンに申し訳ない。


 とはいえ、今のところ、ティータが狙われる理由が思い当たらない。 

 暗殺教団といざこざがあったのは俺である。

 魔国の残党という線も考えられなくはないが、今のところアステリア王国と魔国は条約を結んでいる。

 魔王を倒したレオンの妹だからというのも、直接的な仇でもないのに、実行の労力とリスクに見合わない。


 それに調査には、同級生や教師はもちろん、魔術師や騎士団もついていくらしい。

 俺と一緒に行くより、よっぽど安全かもしれない。

 俺はそう思いなおしたが、心の奥の胸騒ぎは収まらなかった。


 珍しいことは続くものである。


「いらっしゃい……おや」

「蜂蜜酒(ミード)を頼む」


 短く言ってカウンターに座ったのは、王都警備隊長のレティシアだった。

 初めての来店だ。


「はいよ。他に何か頼むかい?」


 俺はレティシアの前に蜂蜜酒(ミード)の杯を置いた。



 レティシアは壁のメニューを見る。

 一応は木の札に内容を書いているのだが、文字が読めない者もいる。

 そのため、ティータが描いた絵と併用だ。

 大抵は俺や店員がメニューを読んだり、文字が読める他の客が読んだりして事足りる。

 

「そうだな……貝のワイン蒸しに、季節魚のマリネをいただこう」

「はいよ」


 せっかく海の近くである。

 生魚を食べられるのが魅力だ。

 それにウミネコ亭には、珍しい魔導冷蔵庫があった。


 季節メニューにもチャレンジしているし、味も上々で評判は良い。

 それにしては今一つ客足が伸びない。

 やはり宣伝が足りないのか。


 戦争が終わって一年もたっていない。

 まだ外食にまわす余裕がないのか。


 レティシアは蜂蜜酒(ミード)を飲み、料理に舌鼓をうつ。


「蜂蜜酒(ミード)をもう一杯。あと、鴨のローストを頼む」


 俺は手早く切り分けると、ソースをかける。

 それもレティシアはあっという間に平らげた。


「まだ頼むかい?」

「もう充分だ。さすがは王都だな」

「何がだ?」

「田舎では、こんな風に庶民が手軽に美味い料理等食えん」


 レティシアは何かに思いをはせる風だった。

 そういえば彼女は確か、地方貴族の出身だったはずだ。

 

「こういう所はよく来るのかい?」


 俺はレティシアに話しかける。

 半ば返事は期待していなかった。

 

「まぁ、たまにな」


 彼女はぽつりとつぶやく。


「意外だな」

「かもな。養わねばならぬ者が大勢いる。そうそう遊び歩いてもいられないさ。今はこのざまだがな」


 レティシアは少し迷った挙句、蜂蜜酒(ミード)を注文した。


「何かあったのかい?」


 もちろん見当はついていたが、俺はあえてそう聞いた。


「クビになった……いや、停職かな」

「なぜだ?あんたがいなくて、警備隊は大丈夫か?」

「お前も噂は知っているだろう?色々あってな。それに副隊長のグレンもいる。私がいなくても何とかなるさ」

「黒幕はラッセル公爵か?」


 俺は核心をつく。


「奴は何も言わんよ。いつも。むしろ私の処遇に反対したくらいさ」


 レティシアも公爵に何か含むところがあるようだった。


「大変だね、あんたも」

「大したことはないさ。どこぞの伯爵だの男爵だのが、警備隊に子息をねじ込みたいのだろう」

「いずれあんたの力が必要な時が来るさ。前にも言ったかもしれんが、あんたの真価は多人数連携での防御魔術だ」


 そこまで言ったところで俺はふと俺は気づく。

 もし王都での攻防戦に、レティシアがいたら、何か変わっていたのだろうか?

 過去の出来事にティータの両親も死なずにすんだのかもしれない……

 

「ふん!」


 だがレティシアは蜂蜜酒(ミード)をぐいっと飲んで、そう言っただけだった。

 俺は自分の発言のおかしさに気づく。

 確かに考えてみれば、もう一度魔国が攻めてくるような状況は、まずありえなかった。 


「邪魔したな」


 まもなくして、レティシアは店を出て言った。

 そしてレティシアの来店から数日たって、見知った顔がやってくる。

 

「よぉ、ロイ」


 デニスの表情を見た瞬間、何かが起こった事を俺は察した。

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