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魔王殺しの最強剣士、居酒屋の親父になる~引退した元SS級冒険者のおじさんは、王都の片隅で正体隠して無双する  作者: 流あきら
三章

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026 別邸

「シャロン伯爵の別邸にいるって?」


 シャロン伯爵といえば確か、例のガモンズの後に王都南の復興担当となった貴族だ。


「そう。伯爵じゃなくてその奥方のマドレーヌが、別邸に男を引っ張り込んでるってよ」


 カサンドラはランタン通りやその周辺に片っ端から聞き込みをしたらしい。

 その結果、ジュスランらしき男を連れて、マドレーヌがランタン通りを訪れたという情報が得られた。

 マドレーヌは以前にも、何回もランタン通りの占いの館やら、怪しげな魔術師のもとに通っていたという事だった。


「なんで貴族の奥方があんなところに」

「あそこは、貴族様の御用達の後ろ暗い店があるんだよ」


 貴族の夫人が占いに傾倒するというのはよくあることだ。

 それだけでなく、睡眠薬や毒薬、怪しげな魔術具、はては不義の子をひそかに始末する堕胎まで。

 こっそりと通う人達も多くいるという。


 カサンドアラから聞いた事実だけなら何とも言えなかったろう。

 だが商業ギルドで会った青年が言っていた事とも合致する。

 これは確度の高い情報かもしれない。


「それ以上は、わからないか」

「そりゃ使用人を買収していくらか情報はとれると思う。だけどその男があんたの言ってるジュスランかどうかは、直接見ない限りわかんないじゃないかい?」

「それもそうだな」


 俺にはセイから貰った腕輪がある。

 本物のジュスランであれば腕輪が反応するはずだ。

 とするなら、その邸宅に乗り込むしかない。


「なぁ、カサンドラ。そのマドレーヌとやらに、何とかして会えないかな」

「ええ?どうするつもりだい?」

「あんたの言う通り、実際に会わないとジュスラン本人かはわからんしな。貴族の邸宅に出入りする人間に紛れ込めるならそれが一番いい」


 カサンドラは少し考えこむ。


「情報収集だけならともかく、そこまで手を貸すとなるとね」

「あんたに迷惑はかけない。俺が勝手に乗り込むんだからな。それに追加料金は払うよ」

「そういう事なら話は別だ。しかし、貴族が相手となると面倒だよ、ロイ」

「何とかなるさ。相手にも弱みがあることだ」

「そっか。そういやあんたも一応貴族だったね。わかった」


 ということで、カサンドラの手配で、俺はマドレーヌ夫人がいるという、シャロン伯爵の別邸へと潜入することにした。

 といっても正面から訪ねても、門前払いされるだろう。

 こっそり忍び込む方法では、落ち着いた話し合いもできない

 というわけで、シャロン伯爵の館に出入りする商人に扮して訪問する事にする。

 

 そしてウミネコ亭へ帰ると、ティータへ報告する。


「ジュスランが見つかったかもしれん。情報が手に入ったよ」

「え?じゃあさっそく行きましょ」

「それがどうやらシャロン伯爵という貴族の邸宅にいるらしい」

「つかまってるって事ですか?」

「それはわからん。今回は俺一人で行く。ティータは待っていてくれ」

「わかりました」


 何かを察したのか、ティータは素直にそう言った。


 そして三日後。

 俺は『青竜の翼』にいた。


「サンボル商会に話はつけた。あそこの主人は、博打の借金で首がまわらないからね」

「俺一人でいい。付き添いはいらん」

「大丈夫かい?……ってあんたの心配なんざ、するだけ無駄だよね」


 という事で俺は、商人に扮してそのシャロン伯爵の別邸へと行く事になる。

 出たとこ勝負だが仕方ない。

 何も手がかりがなければ、素知らぬ顔をして、立ち去るだけだ。


 俺は馬車に乗り、シャロン伯爵の邸宅へと向かう。

 伯爵の別邸は、王都の中心部から少し離れた高台にあった。

 俺が着ているのはサンボル商会のお仕着せの服であり、セイに渡された腕輪も身に着けている。


 当然ながら、武器は持って入れないとのことだ。

 こういう時に左腕の中に隠せる魔剣(ルドラ)は便利だったが、今はそんな事を言っても仕方ない。

 

 警備の兵意外は、女主人と召使しかいない邸宅の中で戦うことなど無いはずだ。

 普通なら。


 門で一度馬車を止められ、一応は形だけの身体検査をされる。

 内部はかなり広く、手入れされた木々と花壇が配されていた。

 噴水の中央には、海神の像から水が流れ落ちている。

 

 それから邸宅の一室に通され、しばらく待つ。

 単なる食材や日用品の配達なら、屋敷の主人が商人に直接会う事などない。

 だがサンボル商会は、比較的高価な装身具や魔導具、高級な家具や食器を扱っていた。


 まもなく、一人の女性が室内に入って来た。

 俺は立ち上がり、うやうやしく頭を下げる。

 栗色の髪と鳶色の瞳。

 まだ二十代半ばくらいだろう。


「あなたは見ない顔ですね」

「はじめてお目にかかります。ロイと申します」

「東方の魔導具が手に入ったと聞きましたが」

「それもありますが、今日は奥様にお伺いしたい事がございまして、参上いたしました」

「なんです?」

「吟遊詩人のジュスランはどこにいるか、ご存じありませんか?」


 俺はずばり核心に触れる。

 仮に彼女が口で否定したとしても、無駄だったろう。

 急に視線が定まらなくなり、呼吸が荒くなり、手に持ったハンカチをいじりだす。

 

「あなたは一体だれなんですか?本当に商人?」

「今はそんなことはいいでしょう。ジュスランを探している人がいるんです。彼の恋人です」

「ジュスランなんて人は知りません」


 俺はマドレーヌをじっと見つめる。

 ジュスランは、おそらくこの館にいる。

 だがなぜ彼女はジュスランをここに閉じ込めているのか?

 彼女の様子をみても、陰謀や策略が似合う人間には思えない。


「奥様。実はジュスランは高貴な身分なのでございます。吟遊詩人に身をやつし諸国を放浪しているのです。そして彼はとある東方の国の姫君の婚約者なのです」


 よくもまぁ、こんな口からでまかせが出てくるものだなと、自分でも感心する。

 

「あ、あの人がまさかそんな……わ、わたしは……そんな……べつに……そのような」

「もしジュスランがいなくなれば大変な事になりますぞ。わが国と東方の国とも関係も悪化するでしょう」


 ジュスランの事はよく知らないが、セイが海妖(セイレーン)の姫君であることは確かだ。

 今は勘当同然の身らしいが、それでもセイの身に何かあれば、人間族やアステリア王国と海妖(セイレーン)族の関係が悪化することは間違いない。


「なんであなたがそんな事を知っているのです?東方の国って?あなたは誰の使いなのですか?」

「このままジュスランをお渡しいただければ、全ては内密に致します。よくお考え下さい」


 マドレーヌは何か言おうと口をあけるが声にならず、荒い息をつく。

 その時、背後から声が聞こえた。


「奥方様。そのような男の言う事に、惑わされてはいけませぬ」


 俺は既にその気配に気づいていた。

 振りむくと、部屋の隅に魔術師のローブとフードを被った男がいる。

 その時、左腕につけていたセイの腕輪がかすかに熱を帯びた。


 腕輪が反応した。

 間違いない。

 ジュスランは近くにいる。


「あんたは誰だ?」


 俺は部屋の隅にいる男に向かって言った。


「名乗る必要はない」


 ぶっきらぼうにその男は答えた。

 既に部屋の周囲には、複数の気配がする。

 制圧するのは簡単だろうが、もう少し情報を引き出す必要がある。


「何が目的だ?伯爵夫人をたぶらかして、何をしようというんだ?」

「知ってどうするというのだ?」

「いや、貴族相手の商売の役に立つかなと思ってね。後学のために聞いておこうかと」


 するとその男は笑い出した。


「なかなか面白い男だな。いいだろう。少し話してやろう。われらの事をな」

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