023 捜索
「そうか。俺を知っているならば話は早い。あの船の異変。あれはお前のせいか?」
「申し訳ございません。ですが、私にはどうにもならないのでございます」
セイは事情を話し始めた。
セイは吟遊詩人のジュスランという男と知り合い、恋仲になり、将来を誓い合う間柄となった。
彼は人間であり、セイは海妖族の王女だという。
当然ながら、セイの両親は反対した。
ただ色々あった挙句、ジュスランがセイの故郷で暮らす、という事で決着がついたらしい。
「ですが約束の日、約束のこの場所に、彼は来ませんでした」
両親や周囲の海妖たちは、騙されたのだとセイに言う。
当然、セイは反発する。
セイは狂ったようにジュスランを探し求めた。
「私どもの故郷では、海妖は人の姿で暮らしております。ですがここでは、人の姿を保てるのは、ほんの短い間だけなのです」
陸に上がっても短時間しかジュスランを探すこともできない。
いくら待っても彼は来ない。
それ以来、力の制御がうまくできなくなったらしい。
海妖の悲しみの歌は、人を狂わせる。
俺やティータのような、よほど強い意志や魔力の持ち主でない限り、影響されてしまう。
「なるほどわかった。要はそのジュスランという男を探して連れてくればいいのだな」
「おお!お力をお貸しいただけますか」
「お前の歌で、商船主や漁師にも被害がでている。俺はその商会の主からこの事件の調査を依頼されてな」
「そうですか……本当に申し訳ありません……」
セイはうなだれる。
「いや、いい。しかし本当に理由がわからないのか?別れ間際に喧嘩したとか気まずい間柄になったとか?」
「そんなことはありません!必ず来れなかった事情があります。もしや危険な目にあっているのか、捕らえられているのか……そう考えるだけで、私は胸が張り裂けそうで……」
「ああ、わかった。わかった。俺が悪かった。とにかくそのジュスラン探しに全力をつくすよ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
商船が座礁した原因はわかった。
だが理由もわからぬまま行方不明になった人間を探すのは、なかなか難儀なことだった。
「ねぇ、セイさん。わたしたちが必ずジュスランさんを見つけてあげますね」
ふとティータを見ると、目に涙をためている。
すっかりセイに感情移入してしまったようだ。
思春期の女の子というのは、よくわからない。
「はい、お願いします。あなたは?」
「わたし、ティータっていいます。でもロイさんて、そんなに有名なんですか」
「もちろん。魔王を倒したロイ様と幸運団の皆様は、魔族に迫害されておりました種族にとっては、救い主なのです」
「じゃあ兄さんも、みんなに感謝されてるんだ」
「兄さんって……まさか?」
「ええ。幸運団の賢者レオンは、私の兄さんなんです」
「まぁ……」
二人で何やら盛り上がっている。
どうやら俺や幸運団は一部界隈では有名らしい。
「それはともかく。一刻も早くジュスランを見つけなければいけないのではないかな」
「おお、そうでした」
「あぁ、ちょっと待っててくださいね、ロイさん、セイさん」
ティータは一旦、村長の館に戻ると、手にペンと紙をかかえて帰って来た。
そこでティータの意外な特技を見る。
ティータはセイからジュスランの特徴をきく。
「そこをもうすこし。そうそう。もうちょっと顎は細くて……」
「こうですか?」
灯の魔法で照らしながら、ジュスランの似顔絵を描いていく。
「そう。だいたいこんな感じです」
「じゃあこれで完成ですね」
出来上がったものは、少し痩せた20代くらいの男だった。
整った顔立ちなのでこれといって特徴は無い。
だがこれでも無いよりマシだろう。
頭の中の映像を、相手に伝える魔術でもあれば別だが、残念ながらそんな便利なものはまだ存在しない。
「もう少し何か手がかりはないかな?」
「ではこれを。ジュスランも同じものを持っております。彼が近くにいれば、腕輪が知らせてくれます」」
そういってセイは、俺に腕輪を渡す。
「わかった。ではジュスランを探しに行くとしよう。できれば心穏やかに待っていて欲しい」
「はい。なるべく努力します。お願いいたします、ロイ様」
というわけで俺とティータはそのジュスランを探すことになった。
村長の館に戻った後、ティータは興奮気味に話す。
「とにかく!これは是非解決しなければいけませんね」
「ああ、そうだな」
俺はそう答えたが、大人としての別の推測もある。
ジュスランがどこまで本気だったかもわからない。
人の心は変わるものだ。
永遠の誓いも愛もない。
セイから腕輪だけせしめて、どこかの娼館にしけこんでいる可能性だってある。
あるいは何かのトラブルで、既に殺されている未来だってありうる。
「人間と海妖!これぞ種族を超えた、真実の愛ですよ!」
「真実の愛ね……」
「あれ?ロイさん。信じないんですか?」
「俺のようなおじさんには、あんまりピンと来ないかな」
「今学校で流行ってるんです、ロマンス小説。知りません?」
「小説と一緒にされてもな」
ティータはすっかり乗り気だった。
そして翌日、俺たちは王都へと戻る。
一旦レオパルド商会へと向かい、ベルントへ中間報告をすることにした。
「原因はほぼわかりました、ベルントさん」
「おお、それは素晴らしい。さすがでございますな」
俺はティータの似顔絵を見せる。
元の絵をあらかじめ、書き写したものだ。
「この男が何か?」
「ジュスランという吟遊詩人です。この男をまずは探します」
「この男を見つければ、今回の件は解決するのですか?」
「はい。ジュスランの居所がわかれば、後は俺たちが何とかします」
「事情をお話しいただくわけにはいきませんか?」
「すいません。詳しくは話せません。俺たちを信じて下さいとしか、申し上げられません」
ベルントはしばらく難しい顔をして考え込んだ。
「私どもとしては、事件の根本原因を発見し、解決したいと思っております。ロイ様を信じましょう」
「ありがとうございます」
俺は海妖に関しては、あえて詳しく話さなかった。
セイさえいなくなればいいと、短絡的な考えを起こされてもかなわない。
セイは海妖族の王女だという。
仮に殺されるような事があれば、面倒な事態になりかねない。
「私どもも、できるかぎりこの男の居場所を見つけるようにいたします」
「お願いします。ジュスランを探すのに費用もかかります。その実費負担をできればお願いしたいです」
「いいでしょう」
ベルントは冒険者ギルドへの依頼書に手早く記入し、俺に見せる。
そこには追加項目として、ジュスランという男の捜索と、それに関わる実費を商会が負担するとあった。
俺が確認したあと、ベルントは封をし、『黄金の牙』へ送る手配をした。
俺たちはレオパルド商会を出て、ウミネコ亭へと帰宅する。
早速情報収集だが、あまり店をあけるわけにはいかない。
王都の治安は、大陸諸国の中では良い方だ。
とはいえ万が一の危険もあるので、主に俺が捜索にあたることにする。
この王都では、人一人探すのもかなり困難な事だった。
一応はティータの似顔絵は、セイのお墨付きはもらっっている。
だが不幸な事に、なまじ顔立ちが整っているせいで、あまり特徴というものが無い。
黒髪に黒い瞳、中肉中背と、該当する人間は王都にたくさんいそうだった。
何なら幸運団のシェンにすら似ている。
「俺たちができる範囲の事はやるとして、冒険者ギルドにも捜索を頼んでみようと思う」
「ギルドって、人探しもやってるんですか?」
「殺し以外は何でもやるさ」
冒険者の仕事は、護衛や迷宮探索や魔物退治だけではない。
E級冒険者となると、薬草採取や溝掃除にペット探しなんて依頼もある。
ティータの似顔絵を、絵描きに頼んで書き写してもらう。
多少は元の顔とずれてくるが、仕方ない。
それを商業ギルドを通じて、集会所や市場や宿屋においてもらう。
有力な情報を知らせた場合は、金貨を礼に出すことにする。
他にも聖アントワーヌ孤児院の教会をたずね、似顔絵を置かせてもらう。
女司祭のヴァレリーは快く了承してくれた。
ついでに協力してくれそうな教会を何ヶ所か紹介してくれる。
俺はデニスの『黄金の牙』だけでなく、エックハルトの『黒竜の爪』やカサンドラの『青竜の翼』にも協力を頼むことにする。
各ギルドはライバル関係にある。
だが時には協力しあったり、他のギルドに冒険者を派遣したり、依頼を融通し合ったりもする。
もちつもたれつであった。




