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魔王殺しの最強剣士、居酒屋の親父になる~引退した元SS級冒険者のおじさんは、王都の片隅で正体隠して無双する  作者: 流あきら
三章

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023 捜索

「そうか。俺を知っているならば話は早い。あの船の異変。あれはお前のせいか?」

「申し訳ございません。ですが、私にはどうにもならないのでございます」


 セイは事情を話し始めた。


 セイは吟遊詩人のジュスランという男と知り合い、恋仲になり、将来を誓い合う間柄となった。

 彼は人間であり、セイは海妖(セイレーン)族の王女だという。

 当然ながら、セイの両親は反対した。

 ただ色々あった挙句、ジュスランがセイの故郷で暮らす、という事で決着がついたらしい。


「ですが約束の日、約束のこの場所に、彼は来ませんでした」


 両親や周囲の海妖(セイレーン)たちは、騙されたのだとセイに言う。

 当然、セイは反発する。

 セイは狂ったようにジュスランを探し求めた。


「私どもの故郷では、海妖(セイレーン)は人の姿で暮らしております。ですがここでは、人の姿を保てるのは、ほんの短い間だけなのです」


 陸に上がっても短時間しかジュスランを探すこともできない。

 いくら待っても彼は来ない。

 それ以来、力の制御がうまくできなくなったらしい。


 海妖(セイレーン)の悲しみの歌は、人を狂わせる。

 俺やティータのような、よほど強い意志や魔力の持ち主でない限り、影響されてしまう。

 

「なるほどわかった。要はそのジュスランという男を探して連れてくればいいのだな」

「おお!お力をお貸しいただけますか」

「お前の歌で、商船主や漁師にも被害がでている。俺はその商会の主からこの事件の調査を依頼されてな」

「そうですか……本当に申し訳ありません……」


 セイはうなだれる。


「いや、いい。しかし本当に理由がわからないのか?別れ間際に喧嘩したとか気まずい間柄になったとか?」

「そんなことはありません!必ず来れなかった事情があります。もしや危険な目にあっているのか、捕らえられているのか……そう考えるだけで、私は胸が張り裂けそうで……」

「ああ、わかった。わかった。俺が悪かった。とにかくそのジュスラン探しに全力をつくすよ」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」


 商船が座礁した原因はわかった。

 だが理由もわからぬまま行方不明になった人間を探すのは、なかなか難儀なことだった。


「ねぇ、セイさん。わたしたちが必ずジュスランさんを見つけてあげますね」


 ふとティータを見ると、目に涙をためている。

 すっかりセイに感情移入してしまったようだ。

 思春期の女の子というのは、よくわからない。


「はい、お願いします。あなたは?」

「わたし、ティータっていいます。でもロイさんて、そんなに有名なんですか」

「もちろん。魔王を倒したロイ様と幸運団(フォルトゥナ)の皆様は、魔族に迫害されておりました種族にとっては、救い主なのです」

「じゃあ兄さんも、みんなに感謝されてるんだ」

「兄さんって……まさか?」

「ええ。幸運団(フォルトゥナ)の賢者レオンは、私の兄さんなんです」

「まぁ……」


 二人で何やら盛り上がっている。

 どうやら俺や幸運団(フォルトゥナ)は一部界隈では有名らしい。


「それはともかく。一刻も早くジュスランを見つけなければいけないのではないかな」

「おお、そうでした」

「あぁ、ちょっと待っててくださいね、ロイさん、セイさん」


 ティータは一旦、村長の館に戻ると、手にペンと紙をかかえて帰って来た。

 そこでティータの意外な特技を見る。

 ティータはセイからジュスランの特徴をきく。


「そこをもうすこし。そうそう。もうちょっと顎は細くて……」

「こうですか?」


 灯(ライト)の魔法で照らしながら、ジュスランの似顔絵を描いていく。

 

「そう。だいたいこんな感じです」

「じゃあこれで完成ですね」


 出来上がったものは、少し痩せた20代くらいの男だった。

 整った顔立ちなのでこれといって特徴は無い。

 だがこれでも無いよりマシだろう。

 頭の中の映像を、相手に伝える魔術でもあれば別だが、残念ながらそんな便利なものはまだ存在しない。


「もう少し何か手がかりはないかな?」

「ではこれを。ジュスランも同じものを持っております。彼が近くにいれば、腕輪が知らせてくれます」」


 そういってセイは、俺に腕輪を渡す。


「わかった。ではジュスランを探しに行くとしよう。できれば心穏やかに待っていて欲しい」

「はい。なるべく努力します。お願いいたします、ロイ様」

 

 というわけで俺とティータはそのジュスランを探すことになった。

 村長の館に戻った後、ティータは興奮気味に話す。


「とにかく!これは是非解決しなければいけませんね」

「ああ、そうだな」


 俺はそう答えたが、大人としての別の推測もある。

 ジュスランがどこまで本気だったかもわからない。

 人の心は変わるものだ。

 永遠の誓いも愛もない。


 セイから腕輪だけせしめて、どこかの娼館にしけこんでいる可能性だってある。

 あるいは何かのトラブルで、既に殺されている未来だってありうる。


「人間と海妖(セイレーン)!これぞ種族を超えた、真実の愛ですよ!」

「真実の愛ね……」

「あれ?ロイさん。信じないんですか?」

「俺のようなおじさんには、あんまりピンと来ないかな」

「今学校で流行ってるんです、ロマンス小説。知りません?」

「小説と一緒にされてもな」


 ティータはすっかり乗り気だった。

 そして翌日、俺たちは王都へと戻る。

 一旦レオパルド商会へと向かい、ベルントへ中間報告をすることにした。


「原因はほぼわかりました、ベルントさん」

「おお、それは素晴らしい。さすがでございますな」


 俺はティータの似顔絵を見せる。

 元の絵をあらかじめ、書き写したものだ。


「この男が何か?」

「ジュスランという吟遊詩人です。この男をまずは探します」

「この男を見つければ、今回の件は解決するのですか?」

「はい。ジュスランの居所がわかれば、後は俺たちが何とかします」

「事情をお話しいただくわけにはいきませんか?」

「すいません。詳しくは話せません。俺たちを信じて下さいとしか、申し上げられません」


 ベルントはしばらく難しい顔をして考え込んだ。


「私どもとしては、事件の根本原因を発見し、解決したいと思っております。ロイ様を信じましょう」

「ありがとうございます」


 俺は海妖(セイレーン)に関しては、あえて詳しく話さなかった。

 セイさえいなくなればいいと、短絡的な考えを起こされてもかなわない。

 セイは海妖(セイレーン)族の王女だという。

 仮に殺されるような事があれば、面倒な事態になりかねない。


「私どもも、できるかぎりこの男の居場所を見つけるようにいたします」

「お願いします。ジュスランを探すのに費用もかかります。その実費負担をできればお願いしたいです」

「いいでしょう」


 ベルントは冒険者ギルドへの依頼書に手早く記入し、俺に見せる。

 そこには追加項目として、ジュスランという男の捜索と、それに関わる実費を商会が負担するとあった。

 俺が確認したあと、ベルントは封をし、『黄金の牙』へ送る手配をした。


 俺たちはレオパルド商会を出て、ウミネコ亭へと帰宅する。

 早速情報収集だが、あまり店をあけるわけにはいかない。

 

 王都の治安は、大陸諸国の中では良い方だ。

 とはいえ万が一の危険もあるので、主に俺が捜索にあたることにする。 


 この王都では、人一人探すのもかなり困難な事だった。

 一応はティータの似顔絵は、セイのお墨付きはもらっっている。

 

 だが不幸な事に、なまじ顔立ちが整っているせいで、あまり特徴というものが無い。

 黒髪に黒い瞳、中肉中背と、該当する人間は王都にたくさんいそうだった。

 何なら幸運団(フォルトゥナ)のシェンにすら似ている。


「俺たちができる範囲の事はやるとして、冒険者ギルドにも捜索を頼んでみようと思う」

「ギルドって、人探しもやってるんですか?」

「殺し以外は何でもやるさ」


 冒険者の仕事は、護衛や迷宮(ダンジョン)探索や魔物退治だけではない。

 E級冒険者となると、薬草採取や溝掃除にペット探しなんて依頼もある。


 ティータの似顔絵を、絵描きに頼んで書き写してもらう。

 多少は元の顔とずれてくるが、仕方ない。

 それを商業ギルドを通じて、集会所や市場や宿屋においてもらう。

 有力な情報を知らせた場合は、金貨を礼に出すことにする。

 

 他にも聖アントワーヌ孤児院の教会をたずね、似顔絵を置かせてもらう。

 女司祭のヴァレリーは快く了承してくれた。

 ついでに協力してくれそうな教会を何ヶ所か紹介してくれる。


 俺はデニスの『黄金の牙』だけでなく、エックハルトの『黒竜の爪』やカサンドラの『青竜の翼』にも協力を頼むことにする。

 

 各ギルドはライバル関係にある。

 だが時には協力しあったり、他のギルドに冒険者を派遣したり、依頼を融通し合ったりもする。

 もちつもたれつであった。

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