018 新たな敵
「忙しいところ、すまねぇ、ロイ。サスピナに今度は、Bランクの翼竜があらわれてな」
「仕方ない、乗りかかった船さ」
冒険者ギルドには、俺の他に、マルコ、ジーナ、パメラもいた。
「そんな……せっかく討伐したのに」
マルコが気落ちした声を出す。
「まぁなぁ。何か原因があるんだろう。サスピナに残った奴に調べさせているが、まだわからん」
「翼竜の被害は?」
「今のところは無いそうだ、ロイ。おかしな事に、翼竜も混乱しているようでな」
デニスの言葉に、俺は考え込む。
ふと、モーガン老人の言葉を思い出した。
(本当に強い奴は山にいる……か)
「冒険者ギルドだけじゃ、手に余るんじゃないか。王都の騎士団はなにしてるんだ?」
「サスピナの村長も派兵を要請したらしいが、あと二週間はかかるってよ」
「二週間も?とんだ給料泥棒たちだな」
「まぁそう言うなよ、ロイ。先方も大変なんだろうよ。あの戦争でな」
このギルドに所属する、SとAランクの冒険者は討伐に出払っているという。
残っているのはBランク以下だ。
「僕たちに行かせてください」
「そうです」
「そうよ」
マルコ、ジーナ、パメラが言う。
「まぁ、お前たちの手に余るだろうな。今回は事後報告に呼んだだけでな」
デニスは口ひげを撫でながら言う。
その時扉が開いて、一人の少女が入って来た。
「わたし行きます!わたし、Bランクですから」
それはティータだった。
既に戦闘用のローブをまとい、杖を手にしている。
「おいおい。店はどうするんだ?」
「大丈夫です、ロイさん。ミラーカさんもいますし、人の手配はしました。赤猪ですよ、赤猪。ウミネコ亭のメニューに加えなきゃ」
「しかしなぁ」
俺一人でも行くつもりではいた。
デニスにも言った通り、依頼を途中で投げ出すのも気分が良くない。
元冒険者の性のようなものだ。
「しかしいつBランクになったんだ?」
「特別授業であったんですよ。ランクテストであっさり勝っちゃって。Bランクになれました」
平然と言う。
さすがはレオンの妹と言うべきだろうか。
少し前にデニスにも聞いたことがある。
魔術学校と冒険者ギルドの交流の結果、学校に在籍しながら冒険者認定を受けられるようになった。
冒険者としての実績も、成績に加算されるそうだ。
ただ俺としては勘ぐっている事があった。
魔術学校の生徒として徴兵することはできずとも、冒険者として戦いに協力させることはできたかもしれない。
まかり間違えば、この子達も戦場に駆り出されていた可能性もある。
それに比べれば、今回の件はまだマシだろう。
俺はティータを見る。
強い【気】を感じる。
魔力量も相当なものだろう。
ランクテストを受けていないだけで、Aランク相当の実力があるかもしれない。
「僕たちも行くよ、ティータ」
「ロイさん、この子たちも連れて行ってあげてください。ランク以上の実力はあると思います」
確かにグレートベアを倒した連携はスムーズだった。
それに彼らなりに責任を感じているのかもしれない。
授業の一環というだけでなく、困っている人を助けたいという純粋な気持ちや正義感なのだろう。
それを無下に叩き潰すような事はしたくなかった。
「わかった。ただし、危険な事はしないこと。俺の指示に従うこと。これが守れるならな」
「はい!」
ティータと三人は答える。
「ミラーカさんが言ってました。サスピナの方角に、面白いものがいるって」
「ミラーカ……がね」
ティータの言葉に俺はそう返事をしたが、多少心配な点もある。
カーミラは邪悪な存在ではないが、長命種であるだけに、通常人とは感性が異なる。
色々な物事を面白がりすぎる面もあった。
あまり意味ありげな事を言って、若者を惑わせないでほしいものだ。
「まだ現地にはBランク冒険者が一人いる。これ以上本部の人員を減らすわけにもいかなくてな」
「かまわん。俺たちだけで行くさ、デニス」
「ありがてぇ」
ということで、俺はティータ、マルコ、ジーナ、パメラとともに、再びサスピナへと向かった。
「おお、ロイさん。皆さん。来てくださったんですね」
俺たちの顔を目にするなり、村長の顔がぱっと明るくなった。
「状況は?」
俺は余計な挨拶は抜きに、単刀直入に聞く。
「はい。あれ以来、グレートベアは見なくなってのですが……」
かわりにBランクの魔物の翼竜が現れるようになったという。
今のところは、向こうはパニックになったように飛び回るだけらしい。
だが一部の個体が攻撃的姿勢を見せる事もあるそうだ。
俺が冒険者ギルドで聞いた状況と変化がないのは、ある意味幸いだ。
「わかりました。その程度であれば何とかなります」
俺はきっぱりと言う。
こういう時はなるべく自信満々に断言すべきだった。
「翼竜なんてここから数百キロ離れた山岳部にしかいないのに。しかも人里に出てくる事もめったにない。なぜ…」
村長はうめくように言う。
俺にも原因なんてわからない。
仮に山に「何か」がいるとしても、なぜそうなったのだろうか。
誰かが魔物を操っているのか。
俺は、バルビエ商会やガモンズ伯爵と暗殺教団がかかわっていた事を思いだす。
戦争が終わっても、全てが解決したわけではない。
魔王の仇を討とうという勢力もあるかもしれない。
そして、その目的や狙いが今一つはっきりしない暗殺教団。
さらには、不気味な沈黙を続ける、魔大戦では中立を守ったグルカンド王国。
彼らがアステリア王国を狙っているのだろうか。
そこまで考えたところで、俺は気づく。
いくら何でも取り越し苦労というやつだ。
俺はこの国にもこの国の民にも、何の権限も責任もない。
単なる風来坊にしか過ぎないのだ。
「今は考えても仕方ありません。まずは目の前の翼竜討伐に集中しましょう」
俺は自分に言い聞かせるように言った。
「それで、どのようになさいますか?」
「そうですな」
村長の言葉に俺は一同に説明する。
基本的に、同ランクの魔物は三人以上で討伐可能、一つ下のランクの魔物はソロ討伐可能である。
これらの法則は正しい。
だが死なないように防御する、あるいは逃げるという事に徹すれば、低ランクでも意外と対処のしようはある。
正面から戦わないこと。
戦いはBランク以上の者に任せること。
以上を徹底してもらう。
そして翌日。
待つだけではいつ翼竜がやってくるかはわからない。
こちらからおびき寄せる必要がある。
おとりには、村人が捕獲してきた小動物と、殺処分の予定だった牛が使われる。
狩猟の女神キリエに祈りがささげられた。
翼竜は鼻がいい。
数キロ先からの血の匂いにも反応すると言われていた。
村付近にあらわれたということは、おそらくこの近辺を周回しているだろう。
おとりを配置してからしばらくして、翼竜があらわれた。
「十……いえ十二頭います」
偵察係が緊張した声で叫ぶ。
「倒そうと思うな。こちらに注意をひきつけろ」
すぐさま周囲から、炎や氷が飛ぶ。
翼竜は咆哮をあげると、こちらへめがけて一斉に飛行してきた。
翼竜は通常、体長10メートルほどである。
それが近づいてくるのは、なかなかの迫力だ。
「大丈夫ですか、あれ?」
ティータがさすがに緊張した声をあげる。
「問題ない。上位種と違って、翼竜は炎や氷の息は使えない」
仮に戦闘力自体は同じであっても、空を飛べる魔物はそれだけでランクが上とされていた。
俺は弓に矢をつがえる。
矢尻の先端に【気】をこめる。
思いっきり引き絞ると、矢を放った。
(これは……)
それはやはり通常の矢では無かった。
虹色の航跡を残しながら、一直線に翼竜へと飛んでいく。
「おぉ、やったぞ」
周囲から声があがる。
見事先頭の一体を射ち落とす。
それを見た残りの翼竜は、さらに勢いを増して突進してきた。
だが急にその勢いが減衰する。
「今だ!攻撃しろ!一体ずつ確実にしとめるんだ」
翼竜は空中でもがいていた。
村の周囲に張り巡らしていた、ジーナとティータによる、魔糸の魔術だ。
相手に感知されないよう、ギリギリまで魔力の糸を細くしている。
大陸一の賢者と言われたレオンならともかく、これで翼竜を倒すことはできない。
だが少しでも動きを鈍らせればいいのだ。
俺は次々と射落としていく。
全て一撃で翼竜は絶命した。
ギルドの冒険者やティータも翼竜を攻撃する。
マルス、ジーナ、パメラたちも、この状態であれば、十分なダメージを与えられた。
じきに全ての翼竜が地に落ちて倒れ伏した。
「よし。まずは生死の確認だ。生きていたらとどめを刺すぞ!」
翼竜を倒した安堵感に気が緩みそうになる皆に向けて、俺は叫ぶ。
そして俺を先頭に、翼竜の死体を調べる。
しばらくして、一番最初に倒したものも含め、全て死亡している確認がとれた。
ティータは何やら目を閉じて一心不乱に念じている。
そしてしばらくして口を開く。
「翼竜はやはり全て死んでいます。そしてここから二十キロ四方の距離には、脅威となる魔物はいません」
「そこまでわかるのか?」
「はい」
ティータは頷いた。
さすがはレオンの妹といったところか。
だがこれで終わる保証はない。
モーガン老人やカーミラのいう、「山にいるもの」を見つけない限り、また同じ事が起こるかもしれない。
「ティータ、何か感じるか?」
「やっぱり……山に、何かいます。邪悪なものでは無いと思います……ここからそんなに遠くはないです」
俺の目を見て、きっぱりと言う。
レオンの探知能力は大陸一と言われ、魔大戦でも何度も助けられた。
同じ血を引くティータも、いずれは賢者と呼ばれるようになるのかもしれない。
「わかった。ティータ。案内してくれ」
「はい!」
迷っている暇はない。
異変の元をさぐり、決着をつける。
今は行動あるのみだ。




