015 勝利の後に
「それで、グレートベアがどこにいるかわかってるんですか?」
生徒たち三人はさておいて、ギルドからの調査員たちも遠慮があるのか、自然と俺が村長と話をすることになる。
「やつらの巣はわかってます。ですが私どもにはどうしようもなくて」
この村には、地元の狩人の他にはE級の冒険者しかいないという。
今までは農業や牧畜の他に、赤猪の肉が名産品だった。
グレートベアのようなC級モンスターの相手をするのは荷が重いだろう。
「やつらは何体いるんですか?」
「確認できたところでは二体です。今までこんなことはなかったのですが、どうしていいやら」
村長は困惑した様子で言う。
「それはお困りでしょう。まずそのグレートベアは倒します。これは問題ありません。全てはそれからです」
「おお、さすがは魔王を倒したロイどの!事態は解決したも同然ですな」
村長の顔がぱっと明るくなる。
なぜ俺が魔王を倒した事をしっているんだと思ったが、考えてみれば当然かもしれない。
大々的に発表されたし、ギルドから連絡もいっているだろう。
顔はばれていないだろうし、ロイという名もありふれているから、ウミネコ亭に来る客でも知らない奴はいる。
村長は地図と案内人を用意してくれるという。
あとはこちらの連携だ。
「これを」
ギルドの人間が腕輪を配る。
連絡用の魔導具だ。
振動によって、単純な事項を伝える事ができる。
これさえあれば戦場でも万全……とはいかない。
あまり距離が離れると信号が届かず、魔力密度の高い場所では使えない。
今回これが役に立つかはわからないが、万全を期してという事だろう。
「ところで、今までの被害状況は?」
俺の言葉に、村長は眉を曇らせる。
「数人、グレートベアに襲われまして。命はとりとめたもののですが……このままでは」
「ふむ。やつらの巣は?」
「この場所です」
村長が地図を指し示す。
グレートベアの巣というのは、村の東の沢のほとりにあった。
「どうしますか?二手に分かれて攻撃しますか?」
ギルドの調査員が俺に向かってたずねる。
俺は少し考えて首を振った。
「いや。俺たちは地元の人間ほど地理に詳しくない。固まって行動した方がいいだろう」
皆はうなずいた。
「では今回の指示役は、ロイどのにお願いします」
ギルドのB級冒険者が言う。
この中では俺が一番ランクが高いし、経験も豊富だから、それは自然な流れだった。
グレートベアの討伐は、通常なら一体はマルコ達に任せ、もう一体は俺が倒すのがセオリーだろう。
だがギルドでの模擬戦の様子を見ると、マルコ達の戦闘力は思ったより高い。
「今回は二体ともお前たちに任せる」
三人は戸惑ったようにそれぞれ見つめ合う。
「その……僕たちで大丈夫でしょうか?」
「お前たちには十分な実力がある。あとは経験だ。同時に二体を相手取らなければ大丈夫だ。もちろん俺も補佐する」
三人の顔が次第に決意に満ちてくる。
「はい!」
「頑張るっす」
「私、やります」
俺は黙って頷いた。
そしてギルドから派遣されたBランク冒険者達の方を向く。
「あなたたちは、今回は村に残って欲しい。万が一グレートベアが襲撃してきた時に備えて」
「わかりました」
俺の言葉を、Bランク冒険者たちも了承した。
「しかし山の生態系が変わっているとしたら、グレートベアを倒しても、どうにもならないのではありませんか?」
そこで村長が不安そうに言った。
「だとしても、放っておくわけにはいかないでしょう。それに関しては、そのためにこちらに調査員がおります」
「はぁ……いや。こちらとしては、お任せする他ありません。よろしくお願いします」
村長としても初めてのことで、どうしていいかわからないのだろう。
「では、明朝出発いたします、村長」
「本日着いたばかりで?一日休憩をとって、明後日からとりかかってはいかがですか、ロイ様?」
「いや、一刻も早い方がいい。明朝からです。かまわないな?」
俺は仲間の意志を確かめる。
「僕は大丈夫です!全然疲れてませんから」
マルコは元気一杯に言い、その他のメンバーも賛同した。
その日は夕食後、早めに就寝する。
そして翌日。
夜明け前に起き、準備の後、俺たちは出発する。
事前の打ち合わせ通り、B級冒険者はと調査員二人は村に残る。
調査員もD級冒険者相当の腕はあるという。
仮にグレートベア二体だったとしても、協力すれば撃退できるだろう。
マルコ、ジーナ、パメラ、それと村長のつけてくれた案内人二人の、俺を含めて計6人となる。
村の案内人は索敵役だ。
正直グレートベアなど何体出ても、俺の敵ではない。
ただ今回は、マルコたちに経験を積ませる意味があるから、俺が全部倒しても仕方がない。
冒険者というのは通常、4~5人でパーティーを組む。
長年の試行錯誤の結果、この人数に落ち着いたらしい。
攻撃、回復、補助、魔法、索敵といった役割分担のせいかもしれない。
そういえば、軍における部隊の最小単位も五人が多い。
二時間ほど歩くと、目的地に着く。
「あそこです」
灌木の繁みの間に、洞窟が見える。
あれが住家らしい。
「今は……いないようだな。いつ現れるんだ?」
「わかりません。ただ必ず夕暮れまでには、この巣に戻るのは間違いないかと」
案内人が答える。
俺たちは少し離れたところで、気配を消し、待つことにする。
待つのも仕事だ。
魔大戦でも、戦闘時間そのものよりも、実際は待機時間の方が長かった。
幸運な事に、一時間ほど待つと、目的のグレートベアが現れる。
「来ました!」
斥候役の案内人が告げる。
「いくぞ。俺は一人で右の一体の注意を引き付ける。その隙に森の中に引きずり込んで、もう一体を仕留めろ」
「わかりました!」
マルコ達と案内人は頷くと動き出す。
俺たちは気配を消しつつ、風下から近づいた。
どのみち気づかれるだろうが、少しでも遅い方がいい。
残り二十メートルの距離で、グレートベアはこちらを振り向く。
両方とも、四メートルを超えるだろう。
俺は右の相手に全速力で突進する。
グレートベアは立ち上がり、咆哮をあげた。
うまい具合に、右の一体は俺の動きにつられる。
もう一体はマルコ達の方へと向かった。
その巨大な爪が振り下ろされる前に、俺は飛び上がって避ける。
そしてマルコ達のいる森へと駆け出した。
マルコ達は危なげなく、グレートベアを制圧しつつあった。
ジーナが動きをとめたところを、パメラの魔法とマルコの剣でとどめをさす。
「もう一体だ!」
俺は横っ飛びに林道から森の中へと飛び込む。
グレートベアは突進の勢いをとめられず、マルコ達へ向かった。
もちろん危なそうなら、俺が一刀のもとに切り伏せるつもりだった。
だがマルコ達は、そちらもあっという間に仕留めた。
「よし。よくやった」
「いやぁ、緊張しました」
「あたしも」
「わたしも」
マルコ、パメラ、ジーナは、それぞれ笑顔を見せた。
倒したグレートベアをそのまま村へ運ぶわけにもいかない。
討伐の証拠となる左手だけ回収し、残りは放置する。
肉はともかく皮や爪は素材となるので、後で取りにくればいい。
「ありがとうございました」
案内人が頭を下げる。
「これで、終わりかな」
あっけない決着に、俺はいささか不審なものを感じていた。
「これで終わりとなることを願ってます。とりあえず帰還しましょう」
案内人の言葉に頷くと、俺たちは村への帰り道をたどる。
だがしばらくして――
「どうも様子がおかしいです」
ジーナと案内人が同時に言う。
俺たちは慎重に様子をうかがいながら前進する。
「あれは!」
誰の叫びだったかはわからない。
だが俺の目の前に見えたのは、村の方へ向かって突進していく、三体のグレートベアだった。




