014 過去への旅路
翌朝、俺たちは冒険者ギルドが用意した馬車で、目的地のサスピナへと出発した。
王都から一日の距離である。
冒険者ギルドからは、他に調査員として二人。
Bランク冒険者が一人つく。
二台で行く事になり、俺と魔術学校の生徒三人が同乗し、残りは調査員とBランク冒険者だ。
御者はそれぞれ交代で行うことになり、馬車は一路、北へと向かう。
王都の北は王宮があり、比較的被害も少なかったようだ。
城門を出ると、辺り一面小麦畑が広がり、遠くに緑の山々が見える。
窓から後ろを振り向くと、遠くに紺碧の海が広がっていた。
美しい景色であり、美しい国だ。
俺がここを終の棲家と決めた理由でもある。
だが時にあの岩と砂漠と灌木の光景が懐かしく思えるのは、きっと感傷というやつなのだろう。
そして王都の城門を出てから、一時間ほどたった頃だった。
「ここは元のリルの村っす。王都近辺で一番被害が大きかった場所っす」
ふいにパメラが窓の外を見て言った。
そこはかつて村であった場所だった。
そうとしか言い様がなかった。
焼け焦げた家や木々、崩れ落ちた塀や柵。
畑も牧草地も荒れ果て、当然ながら、人っ子一人いない。
「こいつは……全滅か」
「魔物の部隊に襲われたそうっす」
ずっと魔国で戦っていたせいで、正直俺は王国の被害状況をよく知らなかった。
戦場を除いては、俺が見た中では一番ひどい。
「こんな事になっているとはな」
「ここは特に酷かった所っす……確か、村の生き残りが一人いると聞きましたけど。でもロイさんたちが、魔王を倒してくれたっすから」
「ああ」
俺は何といってよいかわからなかった。
「ねぇ、ロイさん。レオンさん、イザベルさん、シェンさん……先生たちは強かったですよね?」
ふいにジーナが言う。
「もちろんさ。なぜそんな事を?」
俺は少し驚いた。
「学校で先生たちを悪く言う人もいるんです。平民出身の魔術師なんて大したことないって。逃げ回ってただけで、魔王も他の奴が倒したんだろうって」
「そんな事はないさ」
「わたし、悔しくて。ロイさん。先生たちは、堂々と正面から戦って勝ったんですよね?」
「その通りだ。奴らの力が無ければ魔王に勝てなかった。俺が生き残ったのは、運が良かったからだ」
俺は力をこめて断言した。
ジーナの隣にいるパメラと、手綱を握っているマルコは何も言わなかった。
だがジーナと同じ事を感じている空気は伝わってくる。
「そうですよね!先生たちは堂々と戦って、尊い命を散らされて……あの……ごめんなさい。ロイさんを非難しているわけではないんです」
「わかるよ。確かに奴らが大陸一の魔術師、賢者、魔剣士だったことは間違いない」
確かに彼らは強かった。
才能も情熱も責任感もあった。
俺の教える魔物の知識、武器術、戦術、意識の集中方法や身体強化を、驚くほどのスピードで吸収していった。
またたくまに幸運団はSランク冒険者からこの国唯一のSSランクとなり、武勇や名声は諸国に知れ渡った。
そして、魔王の討伐作戦へと参加することになり……そこで命を落とした。
あまりにも強すぎたために。
もし彼らに大した才能がなく、平凡な使い手だったら、戦場に駆り出されることもなかった。
常人では太刀打ちできないような、強大な魔族と戦うこともなかった。
己の実力に、さっさと見切りをつけられる程度の強さであれば、どこかで逃げ出して生き延びられた。
それはレオンたちだけでなく、魔将や魔王自身もそうなのかもしれない。
皆、自分の信ずるもののために戦い、死んでいった。
もしかすると彼らは、俺なんかよりもずっと立派だったのかもしれない。
「先生たちは、いつもロイさんの事を話されてましたっす」
今まで黙っていたパメラが口を開く。
「へぇー。なんて言ってたか、聞くのが怖いね」
「あれほど優れた剣士はいないって。機会があれば是非学ぶといいって」
「そんなことをね。誰が?」
「全員ですよ!全員そうおっしゃってました」
そこでマルコが口を挟んだ。
俺は何となく面映ゆかった。
死者に褒められるというのも、妙なものだ。
目的地のサスピナに着くまで、特にやることもないので、俺は彼らの身の上話を聞く。
マルコは男爵家の三男。
パメラは農民の長女。
ジーナは商人の次女。
とのことだった。
全員現在魔術学校の五年生で、十五歳だという。
「やっぱり最近は、貴族じゃない家の子も多いのかな」
「そうですね。私達が入るころくらいから変わったみたいで」
俺の言葉にジーナが答えた。
俺に関しては、東方の出であちこち流浪の末、この国に住むようになった。
とだけ言った。
彼らもそれ以上、俺の出自について詳しくたずねてこなかった。
「しかしロイさんの剣は独特ですね。東方で学ばれたのですか?」
「まぁ、そんなところかな」
マルコの言葉にそう答えたが、実のところ自分の流派については、俺もよく知らない。
俺の師は、はるか東の果ての国の出身だと言っていたが。
その他色々な事を話した。
学校の事、将来の夢……
もっぱら俺は聞き役にまわる。
彼らを見ていると俺はどうしても、レオンたちの事を思い出さずにはいられなかった。
なぜあいつらが死に、俺は生き延びているのだろう。
もしあの時、俺がレオンの誘いを断っていたら、もしかして彼らは死なずにすんだのだろうか。
俺と出会う事が無ければ、ひょっとしたら彼らはまだ生きていたのかもしれない……
俺が過去へと思いをめぐらせている間も、特になんのトラブルもなく、馬車は進む。
途中で御者を交代し、休憩を挟む。
緑の平原や山々をぬける道は、石畳で舗装されていた。
これはアステリア王国ではなく、かつて大陸全土を支配していた伝説の古代王国がつくったものだという。
夕暮れが近づくと、街道沿いに小さな集落が見えてきた。
その中に、一際大きな三階建ての木造の建物がある。
俺たちは先導する馬車についていく。
じきに家に到着した。
門番に連絡すると、まもなく一人の初老の男が出てくる。
「お待ちしておりました。村長のラースと申します。どうぞこちらへ」
俺たちは客室に通される。
一通りの自己紹介の後、早速本題に入る。
「このところ、赤猪が捕れないのです。それどころか、今まで見た事がない魔獣を見るようになって」
「それはいつからですか?」
「一月ほど前です。それからあの、グレートベアがあらわれたのです」
「グレートベアね」
確かにこのあたりにはいないはずの魔物だった。
本来の生息域はもっと北だろう。




