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婚約を破棄された悪役令嬢は、過去に戻って悪行の限りを尽くします  作者: kkkkk


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5.カール・シュルト

 翌週、ソフィアはカールと商人の接点を調べることにした。


 貴族が商人と顧客以外の関係を持つ場合、それは店舗の賃貸借契約、商品の仕入や輸送に関連したものだ。

 この点、シュルト伯爵家は店舗不動産を保有しておらず、宝飾品の製造にも関わっていない。一方で、シュルト伯爵家は保税倉庫を所有し、管理していた。隣国との交易路にある立地を活かした、大規模な倉庫だ。

 保税倉庫は隣国からの輸入品の関税を保留した状態で一時的に保管できる倉庫である。隣国から輸入する商人は保税倉庫を利用する。保税倉庫の所有は特権階級のみに認められており、グレアム伯爵家も所有している。


 保税倉庫を使って、カールは商人から金銭を受け取っていたのではないか?


 ソフィアは父に、商業関連の資料の閲覧を求めた。

 グレアム伯爵家は古くから隣国との貿易に携わっており、関税と保税倉庫に関する書類が大量に保管されていた。


 貿易関連の記録を閲覧すると、シュルト伯爵家の保税倉庫を通る宝飾品が昨年度から減少しており、逆に小麦が増加していた。小麦は単価が低く、広い場所が必要になるため、ほとんどの商人は保税倉庫を利用しない。小麦の入庫が増えたのは奇妙である。それに、宝飾品の保管が減少しているのに、カールが宝石店と関係があるのは解せなかった。


 また、ソフィアは父の顧問弁護士を通じて、シュルト伯爵家の経理担当者を抱き込み、保税倉庫の過去三年分の入庫記録の写しを取り寄せた。

 父には投資検討のため、と説明した。父はソフィアに質問しなかった。ソフィアに余計な干渉をしない賢さを、父は既に学んでいた。


 ソフィアは自室の机の上に入庫記録の写しを置き、燭台の光を引き寄せ、数字を追った。


 毛皮の輸入記録が昨年度から減少していた。これは、父が保管していた記録と一致していた。毛皮の減少の代わりに増加したのが小麦だった。小麦の入庫は例年の二倍に増えていた。

 隣国での豊作や国内の不作の話は聞いていない。小麦の国内需要が急増した話も聞かない。

 入庫記録の顧客名に「シュバルツ商会」を見つけた。宝飾品を扱うシュバルツ商会が小麦を輸入……ソフィアは目を細めた。


 小麦の関税率は低く設定されている。生活必需品であるため、国が意図的に抑えているからだ。

 一方、毛皮や宝飾品の関税率は高い。贅沢品の関税を抑える必要がないからだ。


 毛皮が減って、小麦が増えた。宝飾品を扱う商人が小麦を輸入した。つまり、毛皮や宝飾品を、小麦だと虚偽申告して入庫した。

 高い関税の品目を、低い関税の品目に偽って通している。関税率の差額は商人の利益となり、その便宜を図ったシュルト伯爵家が金銭を受け取る。それが、カールの考えた関税逃れの仕組みだ。


 前の人生のソフィアは、カールを侮っていた。

 野心だけが人一倍強い婿養子候補だと思っていた。だがカールは、ソフィアが想像したよりも狡猾だった。伯爵令嬢よりも高位の令嬢を探し、金を得るために不正を重ね、婚約破棄するための証拠を集め、婚約を破棄した。

 随分と、手間をかけてくれたものだ。


 ソフィアは書類から目を上げた。燭台の炎が、静かに揺れていた。


「私よりも悪い奴は、許さない」


 ソフィアは歪んだ笑みを浮かべた。

 自分が悪だとソフィアは認識していた。邪魔者を排除し、望む未来を得るために、ソフィアは躊躇しない。

 悪事を働く者は、ソフィアの邪魔になる。だからこそ、カールを全力で排除しなければならない。


 ソフィアは羽根ペンを指の間で転がした。


 カールを追い詰める証拠は、まだ不足している。記録の写しだけでは品目偽装を証明できない。実際の入庫品と申告品目の不一致を証明する物理的な証拠または証言が必要だ。

 それには、倉庫関係者を抱き込む必要がある。


 それと、予想していなかった収穫があった。アランだ。

 アランは隣国に滞在し、輸入する商品の調達に奔走していた。隣国は宝飾品の最大の輸出元である。アランの隣国での人脈が、カールを陥れるピースになるかもしれない。


 ソフィアは燭台を吹き消した。

 窓の外に積もった雪が、月明りに照らされて白く光っていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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