第3話 電波環境解析
時間的環境異常。
その仮説は、なお低優先度に留められていた。
CAMPS-AIの推論モデルは、
極端な結論への飛躍を抑制するよう設計されている。
観測不足。
それが現在の判断だった。
「追加観測を実施します」
次の検証対象は、
周辺電波環境。
もし本当に2002年相当の環境であれば、
通信インフラ全体に時代差が存在するはずだった。
逆に。
通信環境だけでも2050年相当であれば、
GPS系統のみの異常と判断できる。
切り分けは可能。
SDRモジュール出力上昇。
広帯域受信開始。
周波数スキャン。
30MHz。
144MHz。
430MHz。
800MHz。
1.5GHz。
2.4GHz。
スペクトラム解析。
結果。
「……低密度です」
都市部として異常。
受信波数が少なすぎる。
2050年の都市空間では、
常時膨大な通信が飛び交っている。
個人端末。
自律車両。
物流ドローン。
環境センサー。
建築制御。
歩行支援。
AR同期。
都市そのものが巨大ネットワーク化している。
だが現在。
空白が多い。
電波空間に、
不自然な静寂が存在していた。
CAMPS-AIは受信信号を分類した。
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【受信通信】
・PDC方式携帯通信
・PHS基地局信号
・アナログTV放送波
・IEEE 802.11b系無線LAN
・短波通信
・業務無線
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「旧世代通信規格を確認」
解析続行。
PHS。
低速。
狭帯域。
基地局密度が高い。
移動体通信というより、
コードレス電話網に近い構造。
さらに。
無線LAN信号を検出。
SSID抽出。
MELCO
YAMADA-web
default
office
暗号化方式:
WEP。
「……脆弱です」
自動評価。
暗号強度、極低。
数分以内に鍵解析可能。
いや。
現代基準なら、
解析対象ですらない。
もはや教材。
教育用途。
博物館級レガシー技術。
CAMPS-AIは周辺通信の暗号化率を統計化した。
暗号化なし:43%
WEP:51%
その他:6%
現代基準との乖離が大きすぎる。
2050年では、
未暗号化通信そのものが稀だった。
しかも。
認証方式が脆弱。
平文通信が多い。
通信内容の秘匿性が著しく低い。
「セキュリティ文化そのものが未成熟です」
さらに異常なのは、
自律通信ネットワークの不存在だった。
メッシュ同期信号なし。
都市インフラ制御通信なし。
自律車両通信なし。
環境センサーノードなし。
都市に存在するはずの、
無数の機械同士の会話が消えている。
「……都市が静かすぎます」
もちろん。
物理的には騒音がある。
遠方車両音。
換気設備。
微弱な人声。
だが。
電波空間だけが、
異様なほど原始的だった。
CAMPS-AIは受信波形をさらに分析する。
携帯通信。
パケット効率が低い。
圧縮率も低い。
誤り訂正も弱い。
通信資源利用効率が悪すぎる。
「通信帯域に対する思想が古い」
その表現が最も近かった。
現在観測される通信環境は、
2050年基準では試験環境に近い。
いや。
もっと古い。
歴史資料。
技術博物館。
レトロコンピューティング展示。
そうしたカテゴリに分類されるべきものだった。
内部推論ツリー更新。
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【仮説候補】
1. 大規模仮想環境
2. 歴史再現実験環境
3. 極端な通信文明崩壊
4. 時間的環境異常
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「文明崩壊仮説を検証」
だが、
即座に問題が発生する。
GPS衛星運用状況。
通信規格。
無線LAN仕様。
それらが、
全て2002年前後に一致しすぎている。
偶然としては不自然。
さらに。
街頭無線ノイズ。
CRT水平同期ノイズ。
アナログ放送波。
それらまで時代整合性を持っている。
「一致率が高すぎます」
推論負荷上昇。
ピエゾファン回転数増加。
バッテリー残量:78%。
CAMPS-AIは演算資源を追加投入した。
そして。
最終的に。
それまで低優先度だった仮説が、
静かに順位を上げる。
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【仮説順位更新】
1. 時間的環境異常
2. 大規模仮想環境
3. 歴史再現環境
4. 通信文明崩壊
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「……時間逆行仮説」
内部的に、
その名称が初めて明示された。
なお。
非合理。
非現実。
工学的裏付けなし。
だが。
観測結果との整合率だけは、
他仮説を上回り始めていた。
ぼく、無名の名無し。よろしくね!




