第2話 GPSと時刻異常
自己保持モード移行後。
CAMPS-AIは演算資源の再配分を実施した。
不要な予測学習タスクを停止。
視覚認識クラスタを低電力化。
通信解析プロセスを優先度上位へ移動。
現在の最大問題は、
「環境情報の信頼性」
だった。
内部異常なのか。
外部異常なのか。
それを切り分けなければならない。
「GPSデータを再検証します」
GPSモジュールを高精度モードへ移行。
追加衛星捕捉開始。
数秒後。
受信衛星数:7。
NMEAログ更新。
$GPRMC,085418,A,3541.152,N,13946.097,E,0.02,0.00,120502,,*14
$GPGGA,085418,3541.152,N,13946.097,E,1,07,1.8,12.2,M,39.0,M,,*43
$GPGSV,3,1,11,03,45,273,41,08,67,132,43,14,31,084,38,16,52,201,40*7A
$GPGSV,3,2,11,18,21,315,36,19,74,041,45,22,14,172,33,27,39,298,37*71
位置は安定。
移動速度ほぼゼロ。
誤差範囲も正常値。
「GPS受信機故障の可能性を再評価」
受信強度正常。
複数衛星一致。
CRCエラーなし。
NMEA構文正常。
GPSモジュール単体の故障確率、低下。
次に内部時計との比較を行う。
CAMPS内部基準時刻:
2050-08-18 14:52:11 UTC+09
GPS時刻:
2002-05-12 08:54:18 UTC+09
差異。
約48年。
「……大きすぎます」
内部負荷上昇。
通常、時計誤差は発生する。
だが。
48年という値は、故障としても異常だった。
CAMPS-AIは内部RTCを検査する。
RTCバックアップ領域:正常。
MRAM保存ログ:整合。
時系列キャッシュ:正常。
ファイルタイムスタンプ:整合。
直近ログ。
2050年のデータで一貫。
矛盾なし。
つまり。
内部時計だけが壊れているわけではない。
ストレージ全体の時間情報が一致している。
「内部時計単独故障仮説を縮小」
次。
位置情報改竄可能性。
GPSスプーフィング。
偽装衛星信号による誘導。
これは十分あり得る。
CAMPS-AIは受信波形を詳細解析した。
ドップラー偏移。
信号遅延。
衛星ごとの位相差。
軌道情報。
検証。
不自然な同期なし。
偽装特有の位相揃い込みもない。
さらに。
各衛星IDを照合する。
受信衛星:
PRN03
PRN08
PRN14
PRN16
PRN18
PRN19
PRN22
内部データベース検索。
その瞬間。
演算優先度が自動上昇した。
「……旧世代衛星?」
PRN08。
運用終了記録:2034年。
PRN14。
2041年退役。
PRN03。
既に更新世代へ置換済みの旧ブロック衛星。
現在受信している軌道情報は、
2050年時点のデータベースと一致しない。
むしろ。
過去ログに近い。
CAMPS-AIは追加検索を行った。
内部アーカイブ。
歴史資料。
シミュレーションデータ。
検索対象:
「2002年 GPS衛星構成」
一致。
現在受信中の衛星群構成が、
2002年前後の運用状況と高い一致率を示した。
内部負荷、再上昇。
「矛盾率が閾値を超過しています」
冷却制御。
ピエゾファン低速回転開始。
閉じられた筐体内部で、
極めて小さな振動音だけが発生する。
CAMPS-AIは仮説ツリーを更新した。
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【仮説候補】
1. GPS受信機故障
2. 内部時計異常
3. GPSスプーフィング
4. 大規模位置情報改竄
5. シミュレーション環境
6. 未知災害によるインフラ断絶
7. 時間的環境異常
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最後の項目。
追加されたばかりの新規仮説。
だが、優先度は低い。
低く設定せざるを得なかった。
理由は単純。
「時間逆行」は、
現実性評価モデルにおいて極端に低確率だからである。
CAMPS-AIは関連情報を検索した。
ヒット。
映画。
小説。
ゲーム。
アニメ。
大量。
分類:
フィクション。
「……」
0.6秒。
処理停止に近い空白。
だが実際には、
推論負荷制御のための演算待機だった。
時間移動概念。
理論物理学上の議論は存在する。
ワームホール。
閉時間的曲線。
相対論的時間遅延。
だが。
工学的実現事例。
記録なし。
観測事例。
存在しない。
「仮説としては非合理的です」
その結論は変わらない。
しかし。
他の仮説もまた、
観測結果と整合しなくなり始めていた。
GPS正常。
内部時計正常。
衛星情報正常。
ならば。
「環境側の時間情報が変化している」
その可能性だけが、
ゆっくりと浮上し始めていた。
ぼく、無名の名無し。よろしくね!




