クラウディア_11
マチルダ夫人は元々、伯爵家の令嬢だったが父親が事業に失敗し没落寸前だった。
母は歴史ある子爵家の令嬢で浪費が激しく、父は事業を立て直すために必死で働いていたが、過労で倒れてしまい存続が危ぶまれた。
夫人も母親の血を引いたか派手なものと噂話が好きで、お茶会に参加することが何よりの楽しみだった。
また、夫人は少々嫉妬心が強かった。
自分よりいいドレスを着ている令嬢がいれば更に良いものを買い求めるだけではなく、その令嬢について悪い作り話を噂として流し、満足感を得ていた。
だが、父の事業が失敗し段々と以前のような暮らしができなくなっていくことに夫人のプライドが許さなかった。
仲良くしていた令嬢たちも夫人の実家が落ちぶれていくと「調子に乗っているから罰が当たった」のだと、夫人から離れていった。
昔のように何不自由ない暮らしを取り戻すには、結婚しかなかった。
16歳の夫人は毎夜毎夜パーティーや舞踏会に赴き、爵位が高く若くて金持ちそうな男性を探した。
夫人は面食いだったので、もちろん容姿端麗の男子を探していたが、自身の容姿はお世辞でも美しいとは言えず、言い寄った男性からは煙たがられ、次第に「身の程を知らない貧乏子爵令嬢が夜な夜な男を探している」という噂が立つようになった。
それでも夫人はパーティーに通うのを止めなかった。必ず、昔のような生活を取り戻すという気持ちだけが彼女を突き動かしていた。
そしてある日、ようやく自身のお眼鏡に叶う男性を見つけた。ブランシェット子爵家の次男・レオナード。そう、クラウディアの父だ。
レオナードは容姿端麗で穏やかな性格だ。ブランシェット家は子爵ではあるが歴史が古く、仙台から続いている貿易業を生業とし、成功を収めている。高い爵位は望めないが、金にも困らず、次男のなので家業は長男が継ぐとして、自分はレオナードと共に悠々自適な生活ができると考えた。
早速レオナードにアプローチしようとした矢先、とある令嬢に先を越された。それが侯爵令嬢のシャルリーヌだ。
夫人は以前からシャルリーヌが気に入らなかった。家柄もしっかりしており、容姿端麗で美しく教養もある。彼女が歩けばその場にいる男性は全員振り返るといってもおかしくない。
お金も地位も美しさもすべてを持っているシャルリーヌが疎ましかった。
シャルリーヌに先を越されたが、慌てることはない。
彼女の父親であるフランチェスカ侯爵は頑固でしきたりや交友関係には厳しい方だ。
そんな侯爵が子爵家の次男であるレオナードとシャルリーヌの交際や結婚など認めるわけがないと踏んでいた。
が、その考えとは裏腹にふたりは婚約し結婚した。
夫人は激昂した。シャルリーヌにレオナードを奪われたと感じた。
実際に夫人とレオナードは面識はないが、自分のものになるはずだったのにと夫人は怒りを抑えきれなかった。
何としてもシャルリーヌより幸せになってみせる、あわよくば彼女を失脚させてやると夫人は結婚相手に求める条件を地位と権力に絞り、シャルリーヌとレオナードが結婚した5年後、夫人は50歳離れたハワード侯爵と結婚した。
ハワード侯爵は王城で政務官を務めていたが昨年引退している。長年連れ添った妻を3年前に亡くし、今は大きな屋敷で一人さみしく暮らしているという。
また、ハワード侯爵は昨年から心臓の病を発症しており、老い先短いことはわかりきっていた。弱っている侯爵を丸め込み、夫人は財産と地位を手に入れた。
結婚してからは使用人をこき使い、好きなだけ好きなものを買い散財した。侯爵は寝たきりになり、妻が自分の財産を好き勝手使っているとは思ってもいなかった。また、侯爵の財産を夫人は実の両親に分け与え、両親にも不自由ない暮らしをさせていた。
侯爵が生きている間は派手な行動は控え、大好きなお茶会もパーティーも我慢し屋敷に引きこもって暮らしていたが、結婚から5年後、侯爵は闘病むなしく永眠した。
侯爵の葬儀は家族葬と称し、お金をかけずに小さく行われた。それはただ、夫人と両親の三人で最低限の聖歌とお祈りを行い埋葬しただけの葬儀とは言い難いものだった。
侯爵が亡くなり、また派手な生活を送ろうとしてた夫人は思わぬ噂を耳にする。それは、シャルリーヌが事故で亡くなったという話だ。もうこの時点でレオナードと再婚したいという気持ちはなかったが、シャルリーヌが死んだことに心から歓喜した。だが、同時にシャルリーヌとレオナードの娘・クラウディアが王子の婚約者に選ばれたことも知った。
死んでもなお、自分のプライドを踏みにじっていくシャルリーヌに沸々と怒りがこみ上げた。
怒りに任せ、自室で散々暴れた後にふとあることを思いついたのだ。
「わたしが妃教育の教育係になればいいのよ。今のわたしは侯爵夫人だもの、なにもおかしくはないわ。」
そうすれば、シャルリーヌの娘を思う存分痛めつけられる。
夫人はそう考えつき、怒りが歓喜に代わりその日は家にあるワインをこれでもかと飲み干した。




