クラウディア_10
シャルリーヌの葬儀が終わった数日後、屋敷は静寂に包まれていた。
母の怒鳴る声も泣きわめく声も聞こえず、クラウディアは物心がついて初めて安眠できる日々を過ごした。
ベッドで気を休めて眠りにつくのは、赤ん坊のとき以来だった。
数日間喪に服した後、正式に侯爵家の今後についてロータス伯爵と父・レオナード、クラウディアと執事の4名で話し合いが行われた。
「わたしとしては、クラウディアを自身の手で育てたいと思っています。」
「だが、ブランシェット子爵殿、クラウディアが君の元に行っては王子の婚約者として成り立たないだろう。」
レオナードとロータス伯爵が話しているのは、クラウディアの今後についてだった。
未成年のため爵位を継承できないため、クラウディアが成人するまで侯爵家の管理や領地の整備は引き続きロータス伯爵が担うことになった。
レオナードはその点に於いて異を唱えることはなかったが、クラウディアは自身の元に置きたいと主張した。自身の娘であり、妻・シャルリーヌの忘れ形見だからだと。
「それはそうですが、クラウディアは侯爵令嬢に違いはありません。わたしの元に来たからと言って、子爵令嬢になるわけではないでしょう。」
「正式にはそうだとしても、周囲はそうは思わない。子爵になり下がったと思われても可笑しくない。」
「ですが、クラウディアはわたしの娘で・・・」
「10年以上、会いもしなかったのにか?君がクラウディアの何を知っているんだ。」
ふたりが言い争う中、執事はクラウディアの様子を気にしながら「ご本人の前ですよ」と止めに入った。
ふたりが口をつぐむと、クラウディアは静かに言葉を放った。
「わたくしはここに残ります。お父様の元にはまいりません。これから本格的に妃教育も始まりますし、お父様の元に行ってしまっては王家にも顔向けできません。」
その答えにレオナードは気落ちしたが、クラウディアはさらに続けた。
「それにわたくし、あの方をお母様とは呼べませんもの。あの子を妹だとも思っていないし、思いたくありません。」
そうはっきり伝えると、レオナードはさらに眉間の皺を深め強く拳を握った。
その様子にロータス伯爵は鼻で笑ったが、クラウディアはロータス伯爵にも言葉を放った。
「伯爵も、葬儀の手配など滞りなく進めてくださったことには感謝しています。ですが、あくまでもわたくしが爵位を継ぐまでの間の地位だということをお忘れなく。あなたは母の遠い親戚であり、ブランシェット子爵令息はわたくしの父です。わたくしの父を鼻で笑うなど、わたくし自身を見下しているのと同等だということ、お忘れなきように。」
その言葉にロータス伯爵は苦虫を嚙み潰したような顔をし、クラウディアに謝罪した。
クラウディアはすっと椅子から立ち上がり、改めてレオナードに言った。
「お父様も、わたくしを自身の娘だと胸を張って言いたいのでしたら、爵位くらいご自身の手で手に入れてはいかがですか?」
話し合いは以上ですよね、失礼いたします。そう告げて、クラウディアは部屋を出た。
レオナードもロータス伯爵もクラウディアの有無も言わせない気迫やオーラに圧倒された。
それは確かに、シャルリーヌの英才教育の賜物だった。
クラウディアは、母がいなくなったことで自由な時間を手に入れられると思っていたが、王家より母の死去に伴い妃教育専門の家庭教師をつけることを提案された。
提案というよりかは、ほぼ強制に近かった。
「初めまして、クラウディア嬢。本日からあなたの家庭教師を務めますハワード侯爵の妻、マチルダと申します。今後ともよしなにお願いしますね。」
それがマチルダ夫人との出会いだった。
派手な井出立ちで黒のレースのセンスを口元に当て、クラウディアを見下すように挨拶をする。
なんて無礼な人なのだとクラウディアは幼心に感じた。
「初めまして、夫人。フランチェスカ侯爵家からまいりました、クラウディアと申します。」
シャルリーヌに鍛え上げられたカーテシーを見せつけると、夫人はあからさまに不機嫌そうな顔をした。
「あら、ご立派だこと。ご母堂様の教えかしら。あの方、愛想だけはよかったものねぇ。」
その言葉にクラウディアは思わずピクリと反応してしまった。
それに気付いた夫人は容赦なく持っていた扇子でクラウディアの左肩を勢いよく叩いた。
痛みに顔を歪めると、夫人は楽しそうに笑った。
「あら、痛かったかしら?でもあなたが悪いのよ、礼儀がなっていないから。これだから、社交の場で笑ってるだけの女の娘は。教養が足りていないじゃなくて?」
先ほどクラウディアの肩を叩いた扇子でクラウディアの顎をくいっと上げ、鬼気迫る表情を帯びて夫人は続けた。
「あの女の娘が王子の婚約者になったと聞いて、すぐさま教育係に立候補したわ。わたしが立派な王子妃にして差し上げるわね、クラウディア嬢。」




