【10】あのぉ、まだ来ないんですか?
お久しぶりです。
恐怖にこわばる顔をしていた身を寄せ合う子供たちはポカーンとそろって口を開き、誘拐した男たちは痛みに苦悶しながらも回復したのか、フェリーナの翳した王家の証である指輪を目を見開き見入っていた。
薄暗い室内は、不自然なまでの静寂につつまれた。
その静寂な空気は・・・そう、気まずい空気。
あれ?
・・・なんか、これって恥ずかしい
怒りの勢いのまま突きつけたがよく考えたらこれってイザベラが家名をひけらかすのと変わらない
我に返ったフェリーナは出した指輪をそそくさと服の中に戻しこほんと咳払いをした
「と言うことで、王族である私を攫った貴方には逃げ場はありませんよ」
先ほどの睨みとは違い、にっこり微笑んで男たちを見回す
男たちは呆気に取られている
そうですよね、そうなりますよね。
わぁ~、はずかしいぃ
そう思いながらしれ~っと男たちから距離を取り足をそろーっと、1歩2歩と動かした
「キャッ」
3歩目を踏み出したときに壮年の男に腕をつかまれて動いた以上に距離を戻された
男の顔は、異常にギラギラした目をしていて、歓喜に彩られていた
「漆黒の髪、金色の瞳・・・確かに聞いた王女の姿だ
・・・これで、あの方が・・・」
フェリーナを食い入るように見詰め男は熱に浮かされたように呟いた。そのほとんどは聞き取れないが。
その目は爛々としており顔も紅潮して興奮しているのか、フェリーナを掴む手は強く掴んでいるのに震えていた
その様相はあまりにも恐ろしく
青年3人もその形相には怯んでいた
「ちょっとっ、もうすぐそばまで騎士が来ているなら、私たちを連れて行ける訳無いです。
これ以上罪を重ねず観念されることです」
男の異常にさすがにフェリーナも身を捩って逃げようとしているが全くびくともしない
男はフェリーナを見詰めたままにたぁと笑った
その顔は笑っているのに恐ろしくフェリーナは恐怖に震えた
「僥倖だ」
男はフェリーナの腕を更に強くつかみ
「・・・生贄は王女様一人で十分だ」
男の言葉はフェリーナの頭に入ってこなかった
なんて言ったの?
イケニエ?
って、なに?
「偉大なるあの方の復活です
妖精に愛されし王女よ。貴方はその素晴らしい贄になるのです。
喜んでその身を差し出しなさい」
そう言うと強い力で引きずるようにフェリーナの腕を掴んだまま扉から外に向おうとした
「やめて!離して!!」
引きずられ我に返ったフェリーナは今までよりも強く小さな両足を踏ん張り、抵抗するが男に効き目はない。
「五月蝿い!」
寧ろフェリーナが抵抗したことで、ただでさえ興奮している男が苛立ちフェリーナの横面を殴ってきた。
前世エマの回りには、女子供に暴力を振るうものはいない、おだやかで平和な田舎では大人しい人々しかいなかった。
だから、こんな痛みははじめてだった。
殴られ、目がチカチカする。
口の中も切ったのか血の味がする。
踏ん張っていた足は、殴られた衝撃でふらつき男に抵抗ができないなすがままになってしまう。
やだ!誰か助けて!!
5歳の幼女の精一杯の抵抗は、大人の男には易々と抑えることのできる弱い力だった。
そのことを知っているはずなのに、エマのように行動できるという考えが常にあるフェリーナは自分がまだ5歳の力なき子供であることを忘れがちなのだ。
だから、こんなことになる。
そうはいってもこの状況を打開したい!
いや、しなくてはいけない!!!
でも・・・どうすれば・・・
小さな手足をばたつかせ、抵抗を続けながら考えを巡らす。
どうすれば・・・
この子供たちを助けられる?
必死に頭の中で考えを巡らすが捕まれた腕に痛みが邪魔をして解決策は浮かんでこない
そうしている間にも男の手によって部屋の出口が近付く・・・
出口のはずなのに、そこはもう戻れない地獄のようなところの入り口にフェリーナには思えた。
それを自覚した瞬間全身から血の気が引きじわりと眼に涙がたまるのをかんじた。
わが身さえ守れないのに・・・他の子供が・・・助けられない?
そんなの・・・
嫌っ!!!!!
バンッ!!!!!
「グワァッ!なんだ?!」
いきなり大きな音と共に強い光に包まれそのまぶしさにフェリーナはもちろんフェリーナの手を強くつかんでいた男も他の若い男たちも思わず目をつぶった。
さらに、その光は的確に男たちに電流のような衝撃を与えた。
「なんなんだ、この光はっ、うわっ!」
男はそのショックでフェリーナを掴む手が緩み、さらにその隙をねらって男に何かが突進してきた。
その衝撃で離れた男からぶつかって来た一人のアランがフェリーナを引っ張った
「リック、頼む!」
「こっちだ、リーナ!」
そう言ってフェリーナを別の子供、リックに託してアランは男たちに向かっていった。
リックに引き寄せられ保護されたフェリーナの目には男達に向かっていく子供たちの姿が映った。
子供たちは手を我武者羅に振り回し、少し年長の男の子は急所となるところを攻撃していた。
その先頭にいたのは、フェリーナの手を引いたアランだった。そのアランに続くように他の子供たちも男たちに突進していった
「・・・なんで、みんな怪我をしているのに・・・」
他の、女の子たちは盾になって守るようにフェリーナを囲っていた。
その顔はとても、とても強い意思があった。
さっきまでの諦めきった憔悴した暗い瞳でなく僅かな希望に縋るような、でも僅かであっても希望でだから守らなければならないと言う強い意思があった。
「どうして・・・」
「きっと助けは来るから。貴方は私たちの希望なのよ。そう聞こえたから」
震えながら小さく呟いたフェリーナの声にエレンは答えた。
強張った顔は、無理に笑おうとしていた。
小さなフェリーナに少しでも安心して欲しい、そう思って。無理に笑う
だって、さっきの光の中聞こえたから。
必ず助ける・・・
希望の王女・・・
逞しい父のような、慈愛の母のような、純粋な幼子のような幾人もの声が重なって聞こえる優しい声。
それが必ず助けるといったのだ
「だから・・・もう少し辛抱・・・」
そうは言っても、子供の力だ。
大人の力は強い。男の子達は果敢に向かっていくが掴み上げられ投げられて、殴られて傷ついていく子供たち。
男たちは男の子たちを殴り飛ばしては一所に追い込んでいった。
状況ははどう見ても劣勢
小さな子供数人がそれでも果敢に向って行こうとする。
フェリーナの周りには女の子たちと立つことさえできない、怪我を負っているリックだけ
自然に震える体。
懸命に抑えようと両手で体を抱きこむが、震えは収まることなく、気がつくとフェリーナの両の目から涙が零れていた。
「リーナ・・・」
直ぐそばのリックの呟く声は、フェリーナの耳には届かずに強く開いた瞳は、いまだ倒れても立ち向かっていくアランに向けられていた。
アランは、男たちの合間を縫って未だに踏ん張っていた。
しかし、2人がアランに向かい、他の子供たちを残りの2人が相手をしている。
アランは何か今まで、武術をしていたのかその動きは相手の動きを読んで致命的な攻撃はかわしているが、それでも受けた傷は大きい。
やせ細っている子供のアランが、大人にかなうわけも無く
見る間にずたぼろに傷を負っていく・・・
「このやろぉ、邪魔ばっかりしやがって!」
男がアランの後ろ首を掴むとそのまま、硬い石の床に押し付ける。
逃げ回りながら攻撃をしていたアランを捕らえるのに息をあげながら、それでも取り押さえられてしまった。
男たちは肩で息をしながら、アランを押さえ込んでさらにその小さな背中を足で踏みつけた。
「ぐぅっ!」
口の端は切れて血が滲んで見えた。
他の男の子たちも一箇所に詰められて、更なる暴行を受けている。
やめて!
未だに体の震えが収まらない。
怖い・・・
このまま、この前途未来ある子供たちが、意味の分からない悪漢にその未来を潰やされることが・・・
気を抜けば、大きな両の瞳からは涙がこぼれそうになる。
こぼさないために力を込めた瞳はすっとある一点に目を止めた
直ぐ先の足元に男が落とした刃物が見えた。
あれで・・・
恐怖はある。
でも今はそれよりも、この王女を助けに来る騎士たちに希望を託して、男たちを引き受けてくれた子供たちを守りたい・・・
「・・・リック、みんな・・・少し離れて・・・」
小さな声で震えないように慎重に声を出す。
フェリーナの顔は、強張りながらもみんなを安心させようと必死に口元に笑みを浮かべていた。
「リーナ・・・何を?」




