涙
3………2………1…………ふぅ。
今大河がいるのはトレーニングルーム。基礎的な筋トレをしているわけだが、体は動かしつつも頭の中はまるで筋トレに集中できていなかった。
(凛にあんな過去が………。前の俺ならただそれだけだった。その過去を聞いて、凛にその事実を聞いたことを悟られずに何気なく話続けるか、もしくは話を聞いたということをばらしてなにか言葉をかけてやるか………。まあかけてやるといってもそんな何年も前のことを今更気にしても、凛にとっては意味のない行為だろうが。しかし今はそれだけではない。同じ状況に俺はおかれている。というか、その話から察するに戦闘が勃発してからかなりすぐの話っぽいじゃないか。確かにその話は企業同士の戦いだった。それもひとつの要因なのだろう。今回の戦いは俺対組織なわけだから、まだ父さんたちがどうされるかも分からないが………。どのみち時間勝負だ。)少しでも早く強くなって、出発できるようにしなくはならない。大河はトレーニングに集中を戻した。
(ふぅ………よし、こんなもんか)
とりあえずトレーニングを終わらせ、大河はストレッチをしていた。使ったからにはクールダウンさせてやらなければいけないのだが、いかんせん大河は体が硬かった。
(いててててて………ははは。かってえなぁ俺の体は。)
そんなことを思いながら苦笑している大河だが、勿論そんなすぐに体が柔らかくなるわけではない。でも柔らかくしておかなければならない。体が柔らかいと、剣をもって動くとき、それまでできなかったようなしなやかな動きに派生することができる。それまでは体が上手いこと動かずにいたが、柔らかくなったら少しずつ出来るようになる、なんてこともあるらしい。だが、より大事なのは怪我の防止だ。本来は誰かがやられてもかわりがいてくれるものだが、今の場合戦えるのは大河一人きりである。つまり怪我なんてしたらその時点でゲームオーバー、試合終了だ。その為、大河は少しでも早く体を柔らかくするということまで強いられているのである。
「大河、お疲れ様。飲み物飲む?」
すると大河の背後から声が聞こえた。その声の主もやはり大河は理解していた。
「ああ、頼むよ、凛。」
振り向き様にお願いすると、すでに凛は飲み物を差し出していた。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。これ、普通のスポーツドリンク?」
「ええと……よくわからない。とりあえずこの施設特製らしいよ。」
(つまり普通じゃないのか…)
ゴクッゴクッ……
味自体は普通だが、栄養的なものは一般のものより断然高いのだろう。こんな些細な部分も俺はラッキーなんだろうな、と思いながら大河はふと思った。(凛は俺があの話を聞いたのを知っているのだろうか………)
そう。凛の過去の話。まあ、聞いたところで別に構わない、という考えなら別にいいのだが、その話を聞いたせいで相手が変に自分に気を使うのが嫌だ、とかだったら少し申し訳なく思う。どのみち俺は今まで通り接するつもりではあるんだが。
「………河……………大河?」
はっと我に変えると凛が顔を見つめながら声をかけていた。
「あ、ああ。悪い。」
「何かあった?」
更に凛が心配してきたが、大河はなんとか悟られまいとできる限り自然にしていようとした。だが結果的には大河の予想していなかった反応を返された。
「おじいちゃんから話聞いたんでしょ?私知ってるよ。だって、その会話聞いてたから。」
「えっ………」
てっきりあの場に二人しかいなかったと思っていたので、その返しに大河は驚きを隠せなかった。
「…………ああ、聞いたよ。凛の過去、両親のことをな。」
流石にこうなった以上隠すのは逆に良くない。そう思った大河は正直に言った。
「やっぱりそうだったんだ。いや、実はね、その話の内容までは聞いていなかったんだ。でも、二人の雰囲気から何となくわかっちゃったんだ。私の言葉が気がかりだったんでしょ?」
…………………
流れる沈黙。まるで今初めて聞かされたかのような静寂。その理由は一番関係のある人が目の前にいるからだろう。だが、黙っていても仕方ない。ということで、大河はなんとか切り出した。
「…………ああ、そうだ。その言葉が嫌に気になったから。何となく深い意味があると思ったから。だけど、流石に凛には聞けないと思った。だから宗次郎に聞いてみたんだ。」
「………なるほどね。話された通り、私はまだ小さい頃に両親を失った。それも企業同士の勝手な争いによって。だから私はここにいる。ここでもっと今の争いについて理解して、最終的には私も争いを止められるような、そもそも起こさないような存在になりたい。他の子供が私のような現実を見なくてもすむように。」
…………………
大河は黙った。凛の気持ちを聞いた。だけど、なんか違和感があった。
その違和感がなにかは大河自身もよくわかっていなかった。だが、そんな話を思い出して、そして口にして平常心でいられてる。その事にたいしてだったのかもしれない。
「…………それだけか?」
「え?」
凛が不思議そうに顔を見てきた。その顔を見て確信した。
「……………それだけじゃないだろ。ここにいる理由。学校にいかない理由。……………外の世界へと出ない理由は。」
凛はこれまでに見せたことのないような顔をした。確かに会ってそんなに時間もたっていないが、それでも見ていて明らかに動揺している顔を。
………
…………………
……………………………………
「…………だって………」
大河が静かに待ち続け、そして聞こえた声は震えていた。
「…………………外の………世界………なんて…………みれるわけ…………ないでしょ……………!」
大河が顔をあげると、涙を流す凛がいた。
第八話を読んでいただき、ありがとうございました
はたして凛の涙の真意は……




