過去
……チュンチュン……チュン………
心地よい鳥の鳴き声を耳に受け、森林の間を吹き抜けるそよ風に吹かれながら、大河はいつもより良い目覚めを感じていた。
(そうだ、もう俺の家じゃないんだっけか………)
大河はふとそんなことを思った。もう元の家には戻れない。頭ではそう認識しながら、意外なところで再度確認させられてしまう。そして他にも考える種があった。
(『可能性は消える……』)
昨日の凛との去り際、凛からかけられた言葉。もし凛本人の過去に何かあったのであれば、流石に当人に何かあったのですかとは聞けない。であればそれを知っている身近な者。
(まあ宗次郎だろうな………)
今日やることを一つ確認して、大河は朝のランニングに向かった。
はっ………はっ………
朝の風は、走って直に体感するとより心地よいものであった。山の中のはずなんだが、恐らく今走っているこの舗装された道は、宗次郎の団体が作り上げているんだろう。そのお陰でこんな山中でもいつも通りのペースで走ることができている。耳にはお気に入りの音楽が、まさにペースメーカーのように響いていた。スタート地点からの距離も書いてあるので、一曲終了でどれくらいかが正確にわかる。これまでもランニングは時おりしてきたが、このような環境で走ったことはなかったため、大河はとても新鮮な気持ちで走り抜けていた。
◇◆◇◆◇◆◇
ふぅ………疲れた…………
まあなんだかんだで山中である。軽く空気も薄く、いいトレーニングになる、と大河はこの環境にもある意味感謝していた。
(次は腕立て、腹筋、背筋………まあ基礎だな。)
宗次郎から渡されたトレーニングメニューをみながら、大河は少し資料も見たいとのことで、資料室に向かった。
◇◆◇◆◇◆◇
(やっぱここはすごい。俺が聞いたこともないような武器の資料も置いてある……)
資料室で様々な文書や画像を見ながら、大河は珍しく頭を使っていた。
昔は核兵器がこの世界の恐怖の象徴となっていたようだが、今ではその核兵器によってその地域で生活できないほど汚染される、なんてことはまるで考えられなくなり、変わりといってはなんだが、別の兵器が増えてきたらしい。というか、核兵器は廃絶されたと書いてある。
(確かに俺が物心ついた頃にはそんなものほとんど聞かなかったな……。
更に昔の武器の資料もあるしな。………これはなんだ? 火縄銃? 日本初めての鉄砲か……なんだがよくわからないな。)
とりあえず大河が分かっているのは、昔はマシンガンやライフル、ハンドガンといった銃をメインとして戦い、とにかく国をあげて戦う総力戦を強いられていた、というぐらいである。それが今では、当然だが国同士の戦争なんてものはなくなり、ちょっとした争いだとしても短期間、少数戦がほとんどだ。それはやはり武器技術の発展が一番であろう。それまでは原材料を加工していたため、ようは有限であった。しかし今は、電気を銃内で溜め、更に電圧を高めた状態で引き金を引くことで高電圧の電撃を相手に浴びせられる、「ボルトニック」が主流となっている。電力は確かに有限だが、鉄よりかは明らかに効率的である。電気の持ち運びなんてもはや容易もいいとこだ。よって少数がかなりの高電圧を放てるボルトニックをもち、上空からは最新鋭の戦闘機が殲滅を行う。それだけで大抵終わるのだ。
(でもあいつは………)
日本が極秘に設計、開発している近未来型兵器。敵のボスは確かにそういった。それが結局どんな真意に繋がるのか。それはよくわからないが、その言葉からしてもやはりこの先は雲行きが怪しくなるばかりである。
(まあそっちは俺じゃどうしようもないか。国に関与できるほど俺もお偉くないしな。)
そんなことも考えながら更に他の資料に手を伸ばそうとした時、大河はもはや聞きなれた声を聞いた。
「やあ大河、おはよう。知識集めかい?」
振り向くと、その声の主はやはり宗次郎であった。
「ああ、おはよう。まあそんなところかな。実は他にもなにかしにきたはずなんだが、なんだったかなぁ……」
軽く悩みながら、大河は少し歩いていた。なにか他にもここに来なければいけない理由があったはずなんだが……
『可能性は消える』
(あ、そうだ!凛の一言、何かあったのかもしれない凛の過去!)
そしてよくよく考えれば自分が聞こうとしていた張本人がそこにいる。これは……聞かない理由はないだろう。
「なあ宗次郎?」
大河は何気なく話しかけた。
「ん、どうした大河。」
宗次郎はこちらを見てくれた。
「あのさ……………」
◇◆◇◆◇◆◇
大河は昨日宗次郎と別れてからのこと、凛に様々な場所を見せてもらったこと、別れる前に共に話したこと、そして………最後の一言のこと。
それを聞いた宗次郎は少し暗い表情を見せてから、大河の目をしっかりと見た。
「そうか……凛がそのことを………。
それには理由があるんだ。凛の過去から生まれる、悲しい過去がね。」
(やっぱり昔に何かあったか……)
まあ予想通りだった。大河はもう一度聞く姿勢を整えた。
「大河、おかしくは思わなかったかな?………なんで凛の両親を見ないのか、ということに。」
「あっ………」
そういえばそうだ。なにも言わなかったから、そしてそんなそぶりを見せなかったから。とても自然にここに馴染んでいたから気にもとめなかったのだ。そういえば凛の両親を見ていない。当然宗次郎の事はおじいちゃんとよんでいるから違うんだろう。
「まさかとは思うが……そのまさかか?」
「ああ、そのまさかだ。凛の母親……雪恵は友達との外国での旅行中に向こうの戦争で戻ってこれなくなってしまったんだ。そしてその戦争の対象ってのがまた不憫でね………。相手は日本の企業だった」
(そういうことか………)
大河はようやく話の道筋が見えてきた。そして続けてくれと言わんばかりに話に耳を傾けた。
「相手は当然日本のことをよくは思わなかった。仕掛けたのもこちら側からだったしね。そして日本人二人がこっちにいる。向こうではそんな話がでたらしい。そこにいた訳じゃないから聞いた話になってしまうけど、どうやら雪恵は自分を犠牲に友達を解放しろと申し出たそうなんだ。
その時、日本からいてもたってもいられなかった凛の父親………私の息子宗助は私たちの反対を押しきって施設のヘリを使って向こうについていた。
そして雪恵と友達に出会った。しかし遅かった。向こうも腹黒くてな。わざわざ宗助が到着するのをまって、視界に雪恵が映る距離まで来てから引き金を引いた………その後は宗助だった。この話は逃げ延びてきた友達の話だよ。彼女だけでも戻ってきてくれてよかった。最近では私もそんな風に割りきっているが、あのときは一番私がおかしくなっていただろうね。」
宗次郎は窓のない施設内にも関わらず、遠くを見つめていた。
「…………そんな事実があったんだな。話したくなかっただろうに、すまなかった。」
「いや、どのみち話すつもりだった。つまりその言葉は凛なりの気遣いだ。まだ物心ついたかついてないかくらいに両親を失った少女のね。だから、凛にも普通に接してやって欲しい。初めてとも言えるくらいの同年代の友達になるのだから。」
「ああ。分かったよ。」
それだけを話して宗次郎はまた別の場所にいった。聞き終わってからとてつもない喪失感と恐怖に、大河は立ちすくんでしまった。
第7話を読んでいただきありがとうございました。
凛の過去を明かしました。次回の凛との会話はどうなるのでしょうか…。




