可能性
「…………そこまで!」
はぁ……はぁ……
(なんでだ……。なんでこれしか………)
肩で息をしながら、大河は未だに多く残っているバーチャル空間の竹を見つめていた。かなり頑張ったつもりだった。大河なりに道筋は考えたし、分からないなりに斬り方や、持ち方の意識もした。それでも、未だに立っている竹は、さながら厚く高い壁のようであった。
大河がどこが悪かったのかを必死に考えていると、突然目の前から竹藪が消えた。恐らく向こう側で凛がバーチャル空間を切ったのだろう。
「大河、お疲れ様。初めてにしてはかなり良くできたほうだ。…………大河自身の感想としては、そうもいかないようだけどね。」
大河は分からなかった。できなかった決定的なところは何処だったのか。それを知りたかった。
「宗次郎、俺のどこが悪かった。教えてくれ!」
大河は身を乗り出すかたちで宗次郎に詰め寄った。その様子に思わず驚いた宗次郎だったが、しっかりと大河を落ち着かせてから話始めた。
「大河、今の大河はまるで悪くない。さっきいった通り全然いいほうだ。他の初心者がやるとあそこまでいけないことすらある。凛! 後どのくらい残っていた?」
「ええと………後約四割だったよ。」
(そんなにかよ…)
大河はかなり意外な結果に驚いていた。流石にもう少し削ったと思ったが、俺が今できるのはここまでか…。 そんな風に考えてると、宗次郎は続きを話した。
「残り四割か。うん。今の段階なら十分合格ラインだよ。じゃあ、こっからの大河は何をしていけばいいか……それは剣の扱いも当然だが、やはり体の基礎的な部分だよ。筋力、精神力、柔軟力。更に言えば一閃一閃の太刀筋を毎回同じように入れられる精密さ。そして毎回その太刀筋にもっていけるような体勢。挙げれば様々だが、やることは簡単だ。まずは筋トレ、ストレッチ、ランニング。後は精神力を鍛えるために同じ事を長時間やるなんかでも悪くないかもしれない。自分の精神や肉体を鍛えてから、その後に剣だ。
今回は始めにいった通りテストだったから、ここからいくらでも大河の可能性は広がっていく。それじゃ、今日はここまでだ。後は凛にここの施設でも教えてもらっといて。頼んだよ、凛。」
宗次郎は凛に目配せして、その場から去った。
「凛、どうだったか?」
宗次郎だけの意見ではなんだから、他の人の意見も取り入れよう、という思考から凛に質問してみた。
「うーん………おじいちゃんの言った通り、悪くはなかったよ。というか、私の言えることなんて、おじいちゃんが全部言っちゃってるから。」
凛は軽く申し訳なさそうに言ってきた
「いや、他の人から見ても少しは悪くないって思ってもらえるなら、それもまた収穫だ。ありがとう。それじゃ、案内頼む。」
凛は大河を引き連れて部屋を出ていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(本当にでかいな………)
なんでもある。図書館、食堂(一般的な食堂とはまるで違う豪華なものだが)トレーニングルーム、プール、サウナ、大浴場、マッサージルーム…………いわゆる一つの施設に揃っているのはおかしいってレベルだ。そのくらいここで働いている人は精神的に厳しくなる可能性があるんだろうし、リフレッシュも必要になってくるんだろう。そんな風に思いながら歩いていると、ふと凛が止まった。
「凛、どうした?」
「いや、なんであんたはやろうとしたのかなって。家族救出。」
「え?」
大河は何を言ってるんだと言わんばかりに言葉が出なかった。
「いや、その覚悟は否定しないよ。でも、私だったらまず相手がどんな人か、情報を収集するところから始める。それで相手がどんな感じなのか。どうすればこちらに利が生まれるのか。そういう風に段々と考えを固めていく。それが現実的だし、なにより一番大切な『私が勝つ』ことが出来るでしょ?今回のあなたでいう『勝つ』はもはや勝ち負けどころか生死にまで話が広がっているから。いくら緊急だったとはいえ、よく動く気になれたな、と思って。」
凛は丁寧に説明した。大河は否定をしなかった。それも一つの考え方だし、なにより多くの人がその考えに賛同するだろう。でも、大河はその意見をそのまま受け入れなかった。
「確かにそうかもしれない。でも、俺の家族はまだ救える………かもしれない。『かもしれない』の可能性レベルの話だけど、それだけでも俺が動く理由になると思う。そりゃ情報を収集したほうが確かにいい。でもそれでなにか変わるわけでもないし、知ったところで俺にできることが増えるわけではないからな。それにどうせ俺がまともに動けるようになったときには、今仕入れた情報なんて使い物にならないだろ?」
大河の言葉に、凛はそれもまた正しい、とでもいうように頷いた。
「………でも、可能性っていうのは、その内消えるということも忘れないように。」
「え?」
大河はそこについても聞こうと思ったが、凛が進んでしまったので会話を終わらせた。
◇◆◇◆◇◆◇
「ありがとう、凛。助かった。」
「いいえ。助けになれたならこっちも案内したかいがあったから。じゃ、また明日。」
「ああ。また明日。」
二人はそれぞれの場所に向かった。
日が暮れ夜になり、大河は部屋に戻っていた。用意してもらった自室は空も見ることができ、回りに光のないこの山奥では、満点の星空を見れている。
少し視線をずらすと月も確認でき、改めて自分の住んでいた環境から離れたのだと実感する。
しかし大河はあの事が気になっていた。
「可能性は消える、か………。」
これがなんのことだか、大河は今もよくわかっていなかった。だが、凛の過去に何かあったのかもしれない。そう考えると、あそこでより掘り下げなかったのは良案だっただろう、と思った。
(明日からトレーニング開始だ。その『可能性が消える』前に、俺は乗り越える。 絶対に。)
そんな思いを胸に秘め、大河は眠りにつくのであった。
第六話を読んでいただき、ありがとうございました。次回から大河の特訓が始まります。




